映画「レッドクリフ」を見る

三国志」における名場面、赤壁の戦いを映画化。が、二部作の一作目なので、前哨戦ともいうべき、曹操軍対劉備孫権軍の陸での戦いがクライマックスで、水軍による本戦は二部に持ち越しとなっている。「三国志」は、多くの陣営が入り乱れ登場人物がやたら多いので混乱するかも知れないと危惧していたのだが、冒頭に状況説明があり、武将の名がスーパーで示されるのでだいぶわかりやすい。
西暦208年、中国。強力な軍事力を持つ曹操チャン・フォンイー)は、漢王朝献帝に迫り、対立する蜀と呉の討伐の命を取り付ける。
蜀の劉備(ユウ・ヨン)は、曹操の軍勢から民を守るため、兵を退いて敗走する。窮地に立った劉備を救うには、呉との同盟が不可欠と見た軍師孔明金城武)は、呉に出向いて君主孫権チャン・チェン)と彼の絶対的信頼を得ている武将周瑜トニー・レオン)の説得にかかる。
三国志演義」においては、孔明は、劉備を退け曹操服従することをよしとする呉の老臣たちを得意の舌鋒で言い負かし、英雄だった亡き父と兄に引け目を持つ若い王孫権の気持ちを煽り立て、彼の片腕である将軍周瑜をへこませる。人の気持ちを思いやることなどなく、劉備軍に利するためなら使える者は誰でも使うという合理的で非情な男というイメージがある。つまり、軍師として無敵の能力を発揮するが、決して人好きのする男ではない。
が、金城武演じる孔明は、とにかく人当たりがよい。老臣たちを差し置いて孫権を説得する際もいい人そうだし、さらに馬のお産の手伝いをし、琴を奏して周瑜と心を通わせる。トニー・レオンが演じる周瑜も、兵を統率する立派な武官として描かれていて、「演義」の周瑜のように孔明にしてやられて歯がみするということはない。
趙雲フー・ジュン)が、劉備の子阿斗を抱いて敵陣を抜ける有名なエピソードが出てくるが、せっかく救出した赤子を劉備が放り投げるというくだりは省かれている。張飛(ザン・ジンシェン)の声がでかいことは示されるが、長坂橋での見せ場はない。関羽(バーサンジャプ)は青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)を敵に投げつけて戦い、張飛素手で敵兵を倒す。クライマックスで孔明が採用する八卦の陣は、きれいですごそうだが、どう効果的なのかがいまいちわからない。「演義」では名前しか出てこない周瑜の妻小喬(リン・チーリン)が登場し夫との仲の良さを見せつける。
ということで、どうやら大陸的なみもふたもなさは回避され、万人に口当たり良く、見た目に爽快なアクション映画になっている。三国志ファンにとっては、こうした事態を受け入れるか否かで、楽しめるかどうかが決まってくるように思う。
私としては、三国志の世界を実写の映像で見る喜びに浸れてなによりであり、いよいよ水軍戦となる二部が楽しみだ。
レッドクリフ」という邦題はこうした映画の内容をよく表しているのかも知れない。が、それにしても、「赤壁」というこの上なく壮麗な漢名がそのまま邦題として用いられなかったことは、漢字を使う数少ない国の者として返す返すも残念である。