映画「リアル〜完全なる首長竜の日〜」を見る

リアル〜完全なる首長竜の日〜
2013年 日本(公開:東宝) 127分
監督:黒沢清
原作:乾緑郎「完全なる首長竜の日」
主題歌:Mr.Children「REM」
出演:藤田浩市(佐藤健)、和淳美(綾瀬はるか)、相原栄子(中谷美紀)、沢野(オダギリジョー)、高城(染谷将太)、米村(堀部圭亮)、晴彦(淳美の父。松重豊)、真紀子(浩市の母。小泉今日子


★ネタばれしてます。注意!! 見てない人にはわからないことも書いてます。
まずは、最先端医療により昏睡状態に陥った恋人の意識下に入っていく青年の話である。
浩市は、自殺を図って昏睡状態にある恋人の淳美を目覚めさせるため、「センシング」と呼ばれる最先端医療技術で、淳美の意識の中へ入っていき、淳美と再会する。漫画家である淳美は、二人が暮らすマンションの一室でひたすら漫画を書いていた。淳美は、浩市に「首長竜の絵を見つけて」と頼む。それは、小学生のころ、2人が島で暮らしていた時に淳美が描いて浩市にプレゼントしたものだというのだが、浩市にはそのような絵の記憶が全くないのだった。
淳美は締めきりに追われ、彼女のウリである不気味な絵柄のホラー漫画を描き続けるが、部屋には漫画に描かれた水死体が突如現れたり、床が浸水するなどの異変が起こる。浩市は、部屋から出ようとしない淳美を外へ連れ出そうとするが、外の世界は朦朧として霧に包まれていた。
やがてセンシングの副作用として、浩市は現実世界でも幻影を見るようになる。ずぶぬれの運動着姿の少年を何度も目にし始める。


ということで、前半は、不可思議な淳美の脳内世界と、徐々に現実に侵入してくる不気味な幻想とが入り混じっていく神経症的SFホラー・ミステリの様相を呈しているのだが、浩市は、恋人を救おうとする健気な青年でありつつ、母の再婚により家族と疎遠になっている息子というホームドラマ的な役回りや、リゾート開発に失敗して荒廃した島の住民である淳美の父に糾弾される開発会社社員の家族という社会派ドラマの加害者側にもなったりして、なんだか話が散らかってくる。と思っていると、いきなり逆転が生じる。そこここに散りばめられていた違和感から何となく予感できるので逆転自体にはさほど驚かないのだが、まだ中盤なので、そこからも話が続いて、そして首長竜との対決となる。


この映画のおもしろさはどう言えば伝わるのだろう。
佐藤健を丁寧にきれいに撮っていて、前半、淳美のために献身的に動く彼の姿はたいへん好ましく、切ない。逆転後は視点ががらりと変わってしまって戸惑うが、佐藤健に替わって今度は綾瀬はるかが活躍、有刺鉄線を張った柵を乗り越えるアクションなどを見せてくれる。中谷美紀演じる女医というか研究者の、終始人の神経を逆撫でするようなねっとりとした話し方が世界が仮想か現実かとかお構いなしに全くぶれていないのがすごい。「フィロソフィカルゾンビ」と化したオダギリジョーらはおかしい。風とか水とか銃とか水死体とか迷路のようなマンションの通路とかジオラマのような遠景とか細部も行き届いていて面白く見ることができる。が、私としてはやはり首長竜である。


「完全なる首長竜の日」といういかにも芸術作品っぽいタイトルから、インテリSFの精神世界の話で、仮想世界と現実世界が入り混じってよくわからなくなって、結局曖昧で釈然としない終わり方をするんじゃなかろうかと思っていた。「首長竜」ってあるけれども、これも象徴的なもので、首長竜そのものは出てこないんだろう、もし出てきても一瞬イメージが重なるとかそんなような程度のものだろうと思っていた。
ところが、「ジュラシックパーク」を愛する監督(知人からの伝聞情報による)はそんなものでは済ませなかった。博物館の骨格標本が出てきた時点で、あ、ちゃんと出てきたと思ったのだが、島の入江のシーンでは化石でない生きている状態の首長竜が海の中からざばっと現れたので驚いた。が、このときはほぼ姿を見せただけですぐ去ってしまい、まあこんなものかと思いつつ、モリオ、それでいいのか!?と少々物足りなく感じてもいた。そしたら、その後またも首長竜が登場、今度は愛し合う恋人達を、特に男(浩市)の方を徹底して襲撃する。ペンダントを渡しただけであっさり引きさがるのはやはりちょっと物足りないが、モリオは和美のことが好きだし、子どもだし、なんといっても、モリオの死に責任を感じている浩市の意識の中なので竜をやっつけるわけにはいかないのだろう。しかしながら、この怪獣映画さながらの展開は、実に天晴れ!!と私は思った。

国立科学博物館フタバスズキリュウの復元全身骨格
国立科学博物館 http://www.kahaku.go.jp/