映画「地獄でなぜ悪い」を見る

地獄でなぜ悪い Why don’t you play in hell?
2013年 日本 129分
監督・脚本・音楽:園子温
主題歌:星野源地獄でなぜ悪い
出演:武藤大三(國村隼)、池上純(堤真一)、武藤ミツコ(原菜乃華二階堂ふみ)、武藤しずえ(友近)、平田純(長谷川博己)、橋本公次(星野源)、佐々木(坂口拓)、手持ちの谷川(春木美香)、フィックス横移動の御木(石井勇気)、木村刑事(渡辺哲)、田中刑事(尾上寛之)、すみだ(諏訪太朗)、ヤクザ(菊池英之)、吉村みつお(永岡佑)、看板屋(板尾創路、襄ジョンミン)、警官(水道橋博士)、もぎりのおばさん(江波杏子)、映写技師(ミッキー・カーチス)、プロデューサー(石丸謙二郎)、中華料理店の主(でんでん)、居酒屋店主(深水元基)、じゅんこ(神楽坂恵)、まさこ(岩井志麻子)、平田がくどく女の子(成海璃子)、スクリーンにアップで映る男(麿赤児
血みどろの映画づくりもの殺し合い娯楽アクション・コメディ。
ヤクザの組長武藤は、服役中の妻しずえの出所祝に、娘のミツコを主演にした映画を製作しようとする。しずえは、十年前、襲撃してきた男たちを一人で返り討ちにして殺しまくったのだった。が、ミツコは失踪し、映画制作は頓挫する。一方、十年前からの因縁が続く池上組との間に再び抗争が持ち上がり、組は一触即発の事態に陥る。
子分が、映画製作と殴り込みを同時にやっちゃいましょう!と無謀な提案をすると、武藤はそれに乗って、子分たちにミツコを捜させる一方、機材をかき集めさせ、即席のスタッフチームを結成する。武藤はミツコを見つけ、ミツコの咄嗟の嘘で通りがかりの青年公次は映画監督という立場に追い込まれ、たまたま連絡先を知った自主映画制作グループ「ファック・ボンバーズ」の平田に協力を求める。ハイテンションな映画青年の平田はただで35ミリで映画が撮れるという話に大いに盛り上がる。それがヤクザの作る自主映画だと知ってもなんら臆することがなく、相手方組長の池上を訪ね、撮影の段取りを決めてくる。かくして映画はクランクインし、殴り込みの現場で撮影が開始される。凄惨な殺し合いの中、カメラは回り続ける。
平田とその仲間たち、ブルース・リーの衣装をまとったアクションスター志望の佐々木、太めの男女のカメラマン、手持ちの谷川と横移動の御木ら「ファック・ボンバーズ」の面々がいい。
佐々木がバイトしているのが中華料理店なのもその親父のでんでんも、映写技師のミッキー・カーチスなどもよく、他にも映画に根ざした気の利いた細部にあふれているが、いちいち書くと長くなるのでやめる。
(あ、でもひとつだけ追加すると、電話ボックスで電話している公次のとこにミツコが押し入り恋人同士を装って追っ手から逃れるというシーンがあるのだが、最近たまたまDVDで見た石井輝男監督の「黄線地帯(イエロー・ライン)」(1960年)にも同様のシーンがあった。こっちは追われる殺し屋の天地茂が恋人に電話中の三原葉子のところに押し入る。いまどき公衆電話ということで、公次は「携帯なくしちゃった」と親に電話しているという丁寧なシチュエーションの説明までつけてある。)
途中ちょっと淀む感もあるが、包丁を持ったしずえの殺戮、不良の喧嘩も流血しているヤクザも喜々として撮影する平田らの映画バカぶり、ミツコがだめな男と交わす痛そうな別れのキス、佐々木と平田の仲間割れの取っ組み合いなど、とにかく、いちいち、めちゃくちゃで、勢いがある。
そして最初からすでに絵に描いたようにファンタジーな映画の世界のヤクザたちは、日本刀と銃と機材を手に討ち入りに臨む。
前半からちょこちょこと登場人物の妄想がさしはさまれているせいで、実際の斬り合いや撃ち合いなのか、映画中映画の演出なのか、誰かの妄想なのか、混乱する戦いの画面を見ている方の頭の中も混乱する(のがよい)。で、最後は結局こういうオチ?と思っていると、画面が再びフィルムを抱えて疾走する平田のカットに戻るので、ダークな気分で安堵する。
血みどろの殺し合いの後、ここぞというところで、再び映画のタイトルがどかんと出る。
地獄でなぜ悪い
思わず、”WHY NOT!?”(悪かねえ!!)と叫び返したくなる。ここに及んでタイトルの絶妙さを知るのであった。