映画「ペコロスの母に会いに行く」を見る

ペコロスの母に会いに行く
2013年 日本 113分
監督:森崎東
製作:村岡克彦
原作:岡野雄一ペコロスの母に会いに行く」(エッセイ漫画)
脚本:阿久根知
主題歌:一青窈 『霞道(かすみじ)』
出演:岡野ゆういち(岩松了)、岡野みつえ(赤城春恵/原田貴和子)、岡野さとる(加瀬亮)、岡野まさき(大和田健介)、ちえこ原田知世)、本田(竹中直人)、喫茶店のマスター(温水洋一)、ケアマネージャー(上原由恵)、ホーム施設長(根岸季衣)、ホームの職員(長澤奈央)、ホームの職員(松本若菜)、本田まつ(本田の母。佐々木すみ江)、洋二郎(ホームの老人。穂積隆信)、ユリ(ホームの老人。正司照枝)、ホームの老人(白川和子)、みつえの妹たち(島かおり、長内美那子)、ゆういちの叔父・さとるの弟(澁谷天外)、少女合唱団の指揮者(宇崎竜童)、スナックにいた歌手(志茂田景樹)、
★ネタばれあります★
長崎を舞台に、60代独身で“はげちゃびん”の息子ゆういちと、痴呆症が進行しつつある80代の老母みつえの日常を描く。
ゆういちは、小さな広告会社の営業をしつつ漫画を描き、ギター片手に歌を歌って飄々とした生活を送っている(子どもがいるので結婚歴はあるのだろうが、妻の遺影はないのでたぶんバツイチだと思われる)。ボケの始まった母のみつえと息子のまさきと、坂の途中の古い家で暮らしている。
ぼけ始めたみつえは、駐車場の奥に座って、何時間もゆういちの帰りを待つ。ただゆういちを待っていたいのだというみつえの気持ちが伝わってくる。
みつえの症状がひどくなり、ゆういちは施設に入れる決心をする。いっしょに家に帰ろうとするみつえをホームに置いていくときのゆういちの罪悪感、母が自分のことがわからなくなったときのゆういちの悲しみが伝わってくる。
みつえは、長い人生における過去のできごとを思い出す。子どものころに亡くなった妹のたかよのこと、長崎に嫁ぎ身を落として病死した友人のちえこのこと、夫のさとると初めて我が家にやってきたときのこと、酒乱だったさとるの行動に悩まされたことなど。ゆういちは、その断片しか知らない。家族でも思い出を共有できない、人の孤独さと切なさが伝わってくる。
が、祭りの夜、ゆういちらとはぐれて人ごみの中をさ迷っていたみつえは、眼鏡橋の上で死んだ人たちに再会する。ゆういちとまさきがみつえを見つける。彼らは、みつえに寄り添うさとるとちえことたかよの姿を目にする。メディアの大安売りにより言葉の価値が暴落しつつある「家族の絆」ということを、いっさい言葉を用いず、画面だけで表した瞬間だと思った。
森崎東監督の映画に出ると、俳優さんがことごとく田舎もんに見えてくる。と、私はかねてより思っていた。往年の「女シリーズ」だけでなく、「時代屋の女房」の渡瀬恒彦夏目雅子も、「美味しんぼ」の佐藤浩市も、土着的で愛すべき庶民と化す。かっこよくて洗練されたイメージの人たちがことごとくそのへんにいるご近所の人のような感じになってしまうのだ。
老人ホームでてんでんばらばらに過ごす老人たちや、スナックに集まって飲めや歌えで盛り上がる年配の酔客たちのシーン、雑然としながら人々が同じ場に居合わせている感じ、好きとか嫌いとかじゃなくてただ顔見知りの人たちがごちゃごちゃいる感じが、いまとなっては珍しくて、楽しかった。

ペコロスの母に会いに行く 通常版 [DVD]

ペコロスの母に会いに行く 通常版 [DVD]