記録映画「サッドヒルを掘り返せ」を見る(感想)

サッドヒルを掘り返せ SAD HILL UNEARTHED

2017年 スペイン 86分
監督:ギルレモ・デ・オリベイラ
出演:
<「続・夕陽のガンマン」スタッフ>
セルジオ・レオーネ(監督)、エンニオ・モリコーネ(作曲家)、クリント・イーストウッド(ブロンディ)、エウヘニオ・アラビソ(編集者)、セルジオ・サルヴァティ(撮影助手)、カルロ・レバ(美術助手)、スペイン軍の兵士たち

<「続・夕陽のガンマン」のファン>
アレックス・デ・ラ・イグレシア(映画監督)、ジェームズ・ヘットフィールド(ヘヴィメタバンド「メタリカ」のボーカル)、ジョー・ダンテ(映画監督)、クリストファー・フレイリング(映画研究家)、カナダのファン2人組

<サッドヒル文化連盟のメンバー  Asociacion Cultural Sad Hill>
ダヴィッド・アルバ(バー経営者。*車で30分。)、ディエゴ・モンテロ(宝くじ売り、地元の恐竜発掘チーム員。*近くの村。)、セルジオ・ガルシア(ホステル経営者。アマチュア劇団員。*車で30分。)、ヨセバ・デル・ヴァレ(教師。祖父がエキストラで出演。父が本事業活動初日に他界。*車で2時間)*は各人の住まい、あるいは住まいからサッドヒルまでの所要時間など

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シネマカリテ新宿のロビーにあったオブジェ


セルジオ・レオーネ監督による1966年のマカロニ・ウエスタン(イタリア製の西部劇映画)「続・夕陽のガンマン」のファンたちが立ち上げたオープンセット再現事業の経緯とそこで行われた撮影50周年記念イベントの様子を、映画関係者などのインタビューを交えて描いたドキュメンタリー。

タイトルの「サッドヒル」とは、映画のクライマックスの舞台となる墓地の名称。中央に円形の石畳の広場があり、その周辺に同心円状に何千もの墓標(十字架)が立ち並ぶ。その墓のひとつに、20万ドルの黄金が埋められていて、3人の男(クリント・イーストウッドリー・ヴァン・クリーフイーライ・ウォラック)が争奪戦を繰り広げ、最後は円形広場で3人が三角形をなす形に向かい合って立つ、有名な三角決闘の場面となる。

サッドヒルのオープンセットが造られたのは、スペイン北部ブルゴス郊外のミランディージャ渓谷。撮影から50年が経ち、円形広場は20センチの土に埋もれ、雑草が茂っていた。タイトルは、その土を取り除いて石を敷き詰めた広場を掘り起こす作業を指す。比較的近くに住む映画のファンの男たち4人が「サッドヒル墓地」の再現を目指し、サッドヒル文化連盟を立ち上げ、ネットで世界中のファンに呼びかけ、墓地に建てる墓を売って資金を集める(墓の持ち主は、墓標に名前を書いてもらえるのだ)。各国からファンが鋤や鍬を持って集まりながらも、作業量は膨大で難航する。が、ついに広場に石の表面が現われ、周囲に2000もの墓標が立てられ、「サッドヒル墓地」が再現される。

事業の経過を追う中に、ヘヴィメタバンド「メタリカ」のジェームズ・ヘットフィールドや映画監督のジョー・ダンテや映画研究家など著名人のファンや、映画に関わった様々な人々のインタビューが挿しはさまれる。モリコーネの登場もうれしいが、レオーネ監督がスパゲティを食べながら映画について語るところでは非常に希少なものを見る思いがした。橋の爆破や墓地の建設に駆り出されたフランコ政権下のスペイン軍兵士だった老人も二人出てきて当時について語る。そんな中、不意にイーストウッドが現れる。この現れ方はよかった。

ファンの情熱は伝わってくるし、関係者の話も聞けて興味深かったが、しかし、ドキュメント映画としてはどうももったいない感じが残る。「ファンの情熱」「映画愛」がよかったというレビューがネットに寄せられているが(フィルマークスなど)、そこには「そのよさはわたしにはわからないけどね」という思いも隠されているように思えないではない。このドキュメンタリーを見ても「続・夕陽のガンマン」のよさはよくわからない。「名作」であることや、モリコーネの音楽が素晴らしいことは伝わるが、映画の内容についての説明や引用は少ない。橋の爆破シーンがあったことと最後の決闘シーンがちょこっと紹介されるだけである。元々は、サッドヒル事業のことを知ったオリベイラ監督が、YOUTUBEに流そうかというくらいの気持ちで現場に映像を撮りに行ったそうで、基本的にはわかる人にわかればいいという姿勢だ。でも、ドキュメンタリー映画として作品にする以上は、ただ讃えるだけでなく、もうちょっと「続・夕陽のガンマン」がどんな映画で、どういうところが人を魅了するのかについて示してほしかったように思う(三人三様の男たちの魅力とか、イーストウッドとウォラックの危うくも愉快な関係とか、橋の爆破についてもアル中の大尉の存在とか爆破に至るまでの経緯とかがいいのだし、ほかにもいろいろある)。

ところで、メタリカのことは全く知らなかったが、なんの予備知識もなくライブに行ってオープニングにいきなり大音響で「黄金のエクスタシー」がかかって、墓場を走り回るイーライ・ウォラックの映像がスクリーンに映し出されたら、(わたしだったら)さぞかし盛り上がるだろう。でも、最後のクレジットでずっとメタリカの曲が流れるのはいかがなものか。メタリカのファンはうれしいだろうが、ここはいったんヘットフィールドの顔を立てつつも、やっぱりモリコーネで締めるのが筋だろうと思う。