「テンプル騎士団」(佐藤賢一著)を読む(感想)

テンプル騎士団 
佐藤賢一著(2018年)  集英社新書
テンプル騎士団という名は、いろいろな映画や小説にちらほらと出てくるらしい。著者は、映画「スター・ウォーズ」のジェダイの騎士を、テンプル騎士団と重ね合わせる。(私は、ハメットの小説「マルタの鷹」に出てくるお宝マルタの鷹像を持っていた団体だだと思ってこの本を手に取ったのだが、これは勘違いで、マルタの鷹を作らせたのは16世紀のセント・ジョン・ホスピタル騎士団で「騎士団」しか合っていなかった。)
テンプル騎士団は、1120年に結成され1307年に姿を消したが、十字軍遠征の時代にヨーロッパにおいて絶大な勢力を誇った騎士団だったそうだ。
元々はエルサレムへの巡礼路の警備、巡礼者の保護という目的で結成された有志による自警団のようなものだったらしい。設立は、1119~1120年とされ、設立時の騎士はたった9人、従者などを入れて100人程度のもので、紋章は二人の発起人ユーグ・ドゥ・バイヤンとゴドフルワ・ドゥ・サントメールが一頭の馬に二人乗りしているという風変わりなものだった。有志でやっているから、お金がなく、見かねた聖職者や王侯貴族が住居や食べ物を与えたという。
それが、1127年のトロワ会議と呼ばれる教会会議(高位の聖職者、貴族など世俗の有力者たちによる会議)で、騎士たちは修道士に叙任され、「キリストとソロモン神殿の貧しき戦士たち」という騎士団員による修道会が結成された。それまでは熱心なキリスト教信者でしかなかった団員たちは、以後、騎士であると同時に修道士でもあるという、他にない身分を得る。同時期に、聖ヨハネ騎士団が、同じ東方エルサレムに誕生する。こちらは、十字軍遠征や巡礼の傷病者の治療看護をする修道会「エルサレムの聖ヨハネ病院修道会」だったものが、武装化して騎士団になった。どちらも騎士で修道士だが、テンプルは騎士が修道士に、聖ヨハネは修道士が騎士となったという逆の経緯が興味深い。
本書は、冒頭、パリに残る「タンプル」の地名の説明をひとしきりした後、テンプル騎士団事件という衝撃的な事件の発生について記し、そのあとに続けて、騎士団の起源から、十字軍の遠征とともに彼らが徐々に大きな力を得ていく様子を解説していく。
テンプル騎士団は、封建制度に基づくヨーロッパ諸国にはなかった常備軍として軍事力を発揮し、領地を得て農業を営むとともに強力な警備力を活かして運輸業や金融業にも乗り出して経済力を伸ばし、どの国家にも属さない超国家的な一大組織となっていった。その結果、戦争好きのフランス王フィリップ4世に疎んじられ、彼が仕掛けた1307年のテンプル騎士団事件によって壊滅する。
歴史解説書なので、列記される地名とか人名とか、ヨーロッパ史に詳しくない身にはピンとこないところもあるが、200年ほどの間の騎士団の栄枯盛衰がダイナミックに描かれていて、おもしろかった。
フランスでは壊滅状態になったが、他の国では生き残った騎士がけっこういてちりぢりになったという。時代冒険小説でヒーローや強い助っ人役にぴったりのシチュエーションにある人たちという感じだ。そのあたりでも「スター・ウォーズ」のジェダイの騎士と重なるのかと思った。

 

テンプル騎士団 (集英社新書)

テンプル騎士団 (集英社新書)