「拳銃使いの娘」を読む(感想)

拳銃使いの娘 SHE RIDES SHOTGUN
ジョーダン・ハーパー著
鈴木恵訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ(2019)

★ネタバレあり! 注意!!★

 

邦題がいい。
原題も意味がわかるといい。"ride shotgun"は、本書の解説によるとアメリカの俗語で「助手席に乗る」という意味だそうだが、英辞郎web版には、その意味は3番目で、1番「用心棒として駅馬車の御者の横に銃を持って座る」、2番「警護する」と出ている。西部開拓時代に源を発する言い回しのようで興味深い。
11歳の少女ポリーは、母エイヴィスと義父トムとともに暮らしていた。実の父ネイトは、犯罪者で刑務所に入っていたが、ある日の放課後、突然彼女の前に現れる。
ネイトは、刑務所で服役中に、凶悪なギャング集団アーリアン・スティールのボス、クレイジー・クレッグの弟に襲われ反撃して殺してしまう。クレッグは、刑務所からネイトとその家族の処刑命令を出し、命令はあっという間に娑婆の仲間たちに広がる。釈放されたネイトはエイヴィスとトムが自宅で殺されているのを発見し、ポリーを守るため、学校を訪れたのだった。
ポリーはなんの説明もないまま犯罪者の父に連れられ、車で逃亡の旅に出る。座るのは助手席である。
最初から最後まで逃亡と略奪と戦いのバイオレンス・ハード・アクションである。ネイトもポリーも、途中から加わるシャーロットもなかなかよく、激しい暴力と銃撃が続く展開は、小説を読んでいるというよりは、劇画か映画を見ているようだ。
ネイトは、犯罪の横行する環境で育ち、暴力を振るうことにも振るわれることにも慣れている。銃の扱いに長けていることが、ポリーの目を通して示される。(ポリーは、ネイトが拳銃のシリンダーをくるくるっと回してからぱしっと閉じるのを見て、銃のコレクターだった義父のトムが銃を「信用ならない生き物を相手にするみたいなやり方」で扱うのとは全然違うと思うのだった。)ネイトは、自分とポリーが生き延びるために逃げるだけでなく反撃に出るが、やがてポリーのために命をかけるようになっていく。ポリーは、最初のうちはほとんどしゃべらない。人とのコミュニケーションができずに自分の中にいろいろなものをため込んでいる少女で、ぬいぐるみのクマを自分で動かして話し相手としている。強力で武骨な父とともにいるうちに、小さな火種からだんだんと炎が燃え上がってくるように、うちに秘めた力を表してくる。
2人をおいかけるアジア系の男前の刑事パクや、悪徳保安官ハウザー、アーリアン・スティールとは別のギャング集団ラ・エメのボスのボクセルなどもキャラが立っている。
ネイトとクレッグが直接対決するのでなく、ボクセルの望む相手を倒すことと引き換えに、刑務所にいるクレッグの殺害を依頼する、というやり方が斬新だ。
このところ、「ブルーバード、ブルーバード」(アッティカ・ロック著)など、どちらかというと暗めで、知的な心理描写や人間関係のもつれを描いた小説を読んだ後だったので、四の五の言わず、ストレートに地獄へまっしぐら!って感じの本作は、かなり痛い描写も多かったが、勢いがあって痛快だった。

 

拳銃使いの娘 (ハヤカワ・ミステリ1939)

拳銃使いの娘 (ハヤカワ・ミステリ1939)