映画「カツベン!」を見る(感想)

カツベン!

2019年 日本 東映 127分
監督:周防正行
出演:染谷俊太郎(成田凌)、粟原梅子/沢井松子(黒島結菜)、山岡秋聲(永瀬正敏)、茂木貴之(高良健吾)、内藤四郎(森田甘路)、浜本祐介(成河)、定夫(楽隊。徳井優)、金蔵(楽隊。田口浩正)、耕吉(楽隊。正名僕蔵)、青木富夫(竹中直人)、青木豊子(渡辺えり)、安田虎夫(音尾琢真)、橘重蔵(小日向文世)、橘琴江(井上真央)、木村忠義(警官。竹野内豊
二川文太郎(池松壮亮)、牧野省三山本耕史)、
「南方のロマンス」ヒロイン(シャーロット・ケイト・フォックス)、「金色夜叉」お宮(上白石萌音)、「椿姫」アルマン(城田優)、「椿姫」マルギュリット(草刈民代

無声映画が活動写真と呼ばれた大正時代。カツベン(活動弁士)を目指す青年俊太郎の奮闘を、レトロな背景満載で描いた、良質のコメディ。
子ども時代の俊太郎と梅子の出会いで映画は始まる。二人が遭遇する活動写真の撮影現場で、監督をしているのは、日本映画の父牧野省三だ。
俊太郎は、子どものころからカツベンに憧れ、売れっ子の山岡秋聲の真似をして独学でカツベンの技術を身に着ける。悪い仲間にだまされ、偽カツベンとして悪事に加わるも、仲間から逃れ、盗んだ金の入ったトランクを持ったまま、地方の映画館青木館に雑用として住み込みで働くことに。青木館には、女性に大人気のカツベン茂木(高良健吾が嫌味な二枚目を好演)がいたが、ライバルのタチバナ館は彼の引き抜きを企んでいた。館主の橘は金儲けのためなら手段を選ばない男で、俊太郎がいた窃盗団のリーダー安田とつながっているのだった。青木館には、俊太郎が憧れていた山岡秋聲もいたが、落ち目の山岡はいつも飲んだくれて昔の面影は微塵もなかった。ある日、彼のピンチヒッターとして、俊太郎はついにカツベンの技を披露する機会を得る。
良く練られた脚本により、話は無駄なく小気味よくすいすいと進む。
二つの部屋の境目にあるタンスのギャグや、タチバナ館での梅子奪還のための大男との格闘、大金の詰まったトランクの遍歴、ラストの映画館での騒動からの自転車2台と人力車による追いかけと、無声映画を意識したドタバタがいろいろと盛り込まれている。
破れたスクリーンの向こうで去る2人がすっぽり映画の画面にはまったり(これはやりすぎという感じがしないでもないが)、梅子の蜘蛛嫌いや思い出のキャラメルがここぞというところで出てきたり(梅子と再会した俊太郎が、蜘蛛によって初めて梅子に気づくのでなく、「やっぱり」と確認するのがいい)、終わりの方で駅のホームで梅子に声を掛けた監督は二川文太郎でその時脚本を持っていた映画「無頼漢」は、のちに阪妻阪東妻三郎)主演の「雄呂血」となり、クレジットではその「雄呂血」の画面がずっと流されるなど、心憎いアイデアが次から次へと繰り出される。
敢えて言えば洒脱すぎて熱っぽさに欠ける気もするが、初めから終わりまで楽しく、特に映画好きにはうれしい一本だった。