川越スカラ座で映画「無頼」を見る(感想)

無頼
2020年 日本 公開チッチオフィルム 146分
監督:井筒和幸
主題歌:「春夏秋冬~無頼バージョン」泉谷しげる
出演:井藤正治松本利夫)、佳奈(柳ゆり菜)、井藤孝(中村達也)、橘(ラサール石井)、川野(小木茂光)、谷山(升毅)、中野(木下ほうか)
川越スカラ座で見る。
川越スカラ座は、小江戸川越(埼玉県川越市)のレトロな街並みの中に立つ有名な「時の鐘」の塔のある通りから小さい路地に入り、さらに小さい路地を曲がったところにある小さな映画館で、かねてより行ってみたかったところだ。なぜ二番館のここで今公開中の「無頼」をやっているのかというと、おそらくここでロケをしたからだ。映画の中に出てくる昭和の映画館前でのシーン、「スカラ座」の文字にタイル張りの壁もせまい通りも入館前に見た景色そのままなのだった。
というわけで、期せずしてこの映画を見るには最適の映画館で見ることができたのだった。
昭和31年から始まる映画は、冒頭モノクロで昭和の風景を映し出す。ああまたノスタルジーかとうんざりしかけたのだが、出てくる貧乏な少年井藤正治は早口でギラギラしていてそれっぽく、以後彼がヤクザになって親分になって還暦を迎えて引退するまで、たんたんとその人生の断片が描かれる。昭和史というが、昭和への郷愁はほぼ感じられず、ただ、こういうことがあった、ああいうこともあったと、社会的事情を背景に極道を突き進む彼とその周辺の男たちの生き様を語っていく。語り口は平成を迎えても変わることはなく、おれはまだまだ現役だぜという監督の気構えが伝わってくるような思いがした。
早口の関西弁は何言ってるかよくわからないこともしばしば、次々に登場する男たちの顔は把握できず、どっちがどっち側で抗争の展開もよくわからなくなってきて、いいからとりあえず今目にしているシーンを楽しもうと腹を括ったあたりで、「ガキ帝国」を見たときの感じを思い出した。断片の連続なので、見る端から忘れて行って、スカラ座が出てきたことも、2日くらい経ってからそういえばあの映画館、川越スカラ座っぽかったと思ったことを思い出して検索して確認したのだった。
主演の松本利夫さんはエグザイルだそうだが(エグザイルには詳しくないが、ヤクザ役のイメージはない)、茫洋としつつ危ない感じがよかった。佳奈役の柳さんは、だんだん組の姐さんになっていく様子がよかった。
ドライで暴力的だが、他の同ジャンルものと比べると監督の目は基本やさしいんじゃないかと思う。ただし、ぬるさも甘さもおしつけがましい涙もなく、そこが好きなところだ。

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川越スカラ座