映画「すばらしき世界」と「シェーン」(感想)

すばらしき世界
2020年 日本 126分
監督・脚本:西川美和
原案:佐木隆三「身分帳」
出演:三上正夫(役所広司)、津乃田龍太郎(仲野太賀)、庄司敦子(梶芽衣子)、庄司勉(橋爪功)、松本良介(六角精児)、井口久俊(北村有起哉)、下稲葉明雅(白竜)、下稲葉マス子(キムラ緑子)、吉澤遥(長澤まさみ)、西尾久美子(安田成美)、リリー(桜木梨奈)

★あらすじとネタバレあります!★

殺人を犯し、服役していた三上は、13年の刑期を終えて出所する。
佐世保のヤクザだった彼は、裏社会と縁を切り、東京で堅気として暮らす決意をしている。
身元引受人である弁護士の庄司とその妻敦子が三上を応援する。
三上は、自分を施設に預けて行方不明となっている母を見つけ出そうと、テレビ局に母の捜索を依頼し、その際に「身分帳」の写しを送る。(「身分帳」とは刑務所での収容者の経歴や入所時の態度などを記録した書類で、少年のころから入所を繰り返してきた三上は自分の身分帳の写しを作っていたのだ。)テレビ局のやり手プロデューサー吉澤は、ADを辞めて小説家として身を立てようとしている若者津乃田に三上の取材を命じる。
三上は、アパートの部屋を借りて一人ぐらしを始めるが、身体を患っていることや元ヤクザの経歴などから仕事はなかなか見つからない。
役所で生活保護の申請をするが、担当の井口の最初の反応は渋い。
近所のスーパーでは店長の松本に万引きと間違えられるが、疑いが晴れると松本の態度は軟化する。
三上は、佐世保に飛んでかつての兄弟分下稲葉を訪ねる。下稲葉は三上を歓待するが、暴対法の元での彼らの苦しい事情を目の当たりにした三上は東京に戻る。
三上は、幼少時代を過ごした児童養護施設を訪れるが、彼の母の消息は完全に途絶えているのだった。
三上は、介護施設で仕事を得て、働き始める。

庄司夫妻や津乃田や松本や井口らの三上との接し方はどこか馴染みがあると思った。状況も時代も国もジャンルもちがうが、西部劇の名作「シェーン」(1953年)と共通する感じがあるのではと気づいた。西部劇愛好者の仲間の中には「シェーン」の熱烈なファンが少なからずいるので、こんなことを書いたら、えーっと言われるかもしれないが、もし、今の日本で、アクション優先とか勧善懲悪主義とかなしに心持として「シェーン」的なものを撮ったらこんな感じになるかもなあと思ったのだ。
斬った張ったの世界(西部劇では銃の世界)の男が、堅気の人たちの中に入って生活をともにし、その中で堅気の人たちがそれぞれの立場からそれぞれの好感と距離感を持って、彼と接していく。その適度に緊張感をもった関係が、映画の魅力になっている点が同じだと思った。シェーン(アラン・ラッド)は、得意の早撃ちで悪党どもをやっつけ、ヒーローとなって去っていく。一方、三上の刺青と武力は、当世の東京では災いしか呼ばない。彼の正義感も空回りする。しかし、それでも彼は、周囲の人々にとってヒーローたりえていたのではないかと思う。彼らは、三上が持つ、自分にはないものに魅かれていたと思う。
「シェーン」では、彼に淡い想いを抱く人妻マリアン(ジーン・アーサー)や彼に憧れる少年ジョーイ(ブランドン・デ・ワイルド)や、彼を男として評価し友情を抱きつつも妻の件で複雑な思いを抱く開拓者スターレットヴァン・ヘフリン)ほかがいたが、三上を取り巻く人々は主に老人とおじさんと青年で、若い女性や子どもはいない。(若い女性は吉澤がいるが、彼女は番組のネタとしてしか三上をみていないので、恋愛対象からは外れる。)しかし、三上に恋愛感情を持つ女性や彼に憧れる少年が絡んだら、だいぶあざとくなりそうな気もするし、地味ながら味わいのある顔ぶれでよかった。だが、それでも、井口以外のみんなが三上を通じて知り合ってしまって、彼を応援する会みたいになっていくのは、ちょっといかがなものかと思った。ここは、それぞれに三上と接していた人々が、彼の死によって初めて顔を合わせて、三上さんを思う人は自分以外にもこんなにいたんだと、ちょっとくやしいようなうれしいような気持になったほうがよかったんじゃないかな、と勝手に思った。タイトルも令和向きなんだろうが、なんだかなと思った。わたしとしては、「三上」でいいかな。

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