映画「Mr.ノーバディ」を見る(感想)

Mr.ノーバディ  NOBODY
2021年 アメリカ 92分
監督:イリヤ・ナイシュラー
出演:ハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク)、ベッカ・マンセル(ハッチの妻。コニー・ニールセン)、ブレイク・マンセル(ハッチの息子。ゲイジ・マンロー)、アビー・マンセル(ハッチの娘。ペイスリー・カドラス)、デヴィッド・マンセル(ハッチの父。クリストファー・ロイド)、ハリー・マンセル(ハッチの弟。RZA)、エディ・ウィリアムズ(工場主。ベッカの父。マイケル・アイアンサイド)、チャーリー・ウィリアムズ(ベッカの弟。ビリー・マクレラン)、理髪師(コリン・サーモン)、ユリアン(アレクセイ・セレブリャコフ)、パヴェル(アラヤ・メンゲシャ)

★映画の内容やあらすじを書いています! 設定とか知らずにこれから見たい人は注意!★

 

地味なおじさんが切れて大暴れする映画と聞いて見に行く。(似たようなタイトルの映画、マカロニ・ウエスタンは「ミスター・ノーボディ」(1974)、カンフー・コメディは「Mr.ノーボディ」(1979)である。)
職場の工場と家を往復する毎日を過ごす中年の男ハッチ・マンセル。月曜から金曜まで代わり映えのない一週間が細切れに紹介される。毎週ゴミ出しが間に合わず、妻のベッカにまた出せなかったのねとなじられ、ティーンエイジャーの息子ブレイクからはバカにされ無視される日々。幼い娘のアビーは、まだなにかにつけて寄ってきてくれるが、この子もいずれパパを嫌うようになるんだろうなということが容易に想像できて、見ている方も切ない気分になる。
ある夜、素人の若いカップル強盗がマンセル家に侵入する。ハッチは、ゴルフクラブを手にするが(ゴルフのことはよくわからないが殴られて痛そうなドライバーじゃなくてパター(というもの?)だったと思う)、強盗に迫られて家にあったわずかばかりの現金と腕時計を渡す。ブレイクが果敢に男の強盗にとびつき、その隙に女の強盗を殴り倒す機会を得るが、結局手は出さず、警察がやってきて、強盗には逃げられ、ブレイクの父に対する評価はさらに下がる。
ところが、強盗がアビーが大事にしていた猫のブレスレットも盗っていったらしいと知るや、ハッチはぶちきれる。ハッチは、強盗の女の腕にあった刺青の図柄から彼らの家を見つけ出し、殴り込む。その帰りに居合わせた地下鉄の不埒な若者たちにもぶちきれて1対6の大乱闘を繰り広げて相手全員瀕死の状態に陥らせる。ところが、その中の一人がロシアン・マフィアのボス、ユリアンの弟だったからさあ大変!というお話。
ハッチは実はとんでもない経歴の持ち主である。ついに堪忍袋の緒が切れたとはいえ、いくらなんでもただのおじさんにこんなことはできないだろうという、至ってまっとうな判断からこうなったのだろうが、能ある鷹は爪を隠しまくっていたのだ。軍隊では会計係だったということで、「本物の」兵士だったベッカの弟チャーリーにバカにされていたが、この「会計係」こそ恐ろしい任務を負ったエージェントなのだった。
「96時間」では、元CIA秘密工作員リーアム・ニーソンが娘を誘拐されて奮起したが、こちらのきっかけは娘の猫のブレスレット、小さい女の子が好きなファンシーグッズだ。ユリアンに家族ともども自宅で襲撃されてさらに怒り爆発、戦いはどんどんエスカレートして壮絶さを増し、めちゃくちゃになっていく。敵役のユリアンのいかれぶりもいい。
ハッチの怒り(覚醒)のきっかけは家族絡みだが、よくある「愛する人を守るため」という言い訳などどうでもいいようなめちゃくちゃさは豪快で壮快である。
老人ホームにいてテレビで西部劇ばかり見ていた老父(クリストファー・ロイドが楽し気に演じている)と、平凡な生活を続けているハッチを常々気にかけていた弟も実はその道の人たちで、かれらも正義というより身内のために手を貸す。
ハッチが身の上話を始めると話途中で相手が死んでしまったり(2回ある)、高飛車な態度の隣人が自慢していた車を盗んだり、老父がいつも西部劇を見ていることも銃声面で役に立ったり、ベッカの父である社主(演じるのは「スキャナーズ」のアイアンサイド)にかねてより買い取りたいと持ち掛けていたが金額で折り合いがつかないでいた会社を隠し持っていた金塊で買い取って、工場をユリアンとの最終決戦の場としたりなど、細部で筋が通って気が利いているところがいろいろ見られる。
あれだけのことをしておきながら、ラストはあっさり妻と新しい家探しをしている能天気さもまたよしという感じだ。