雪で「網走番外地 北海篇」を思い出す(感想)

関東で久しぶりに雪が降った。つかの間の雪景色を見て、ちょっと前に録画で見たこの映画を思い出した。

 

網走番外地 北海篇
1965年 日本 東映 90分
監督・脚本:石井輝男
助監督:内藤誠
出演:橘真一(高倉健)、大槻(田中邦衛)、鬼寅/四十二番(嵐寛寿郎)、葉山/十三番(千葉真一)、十一番(由利徹)、一〇八番(砂塚秀夫)、十九番(炊事班長。山本鱗一)、七番(吉野芳雄)、
安川(安部徹)、金田(藤木孝)、弓子(大原麗子)、浦上(杉浦直樹)、エミ(小林千恵)、雪江(宝みつ子)、孝子(加茂良子)、
志村社長(沢影謙)、田舎の親分大沢(小沢栄太郎)、山上(井上昭文)、水島(小林稔侍)、谷崎(水城一狼)、夏目(石橋蓮司

網走番外地シリーズ第4作。
冒頭は、お決まりの網走刑務所のシーン。仮出所を間近に控えた橘真一は、病を患う十三番の葉山のために特別料理を注文し、料理番の十九番といさかいになる。十九番の味方の看守は、怒って橘の仮出所を取り消すぞと脅してくるが、鬼寅の気迫に満ちた仲裁で事なきを得る。千葉真一が葉山の役で登場する(残念ながら出番はここだけ)。
仮出所した橘は、葉山に頼まれ、トラック運送会社を訪れて未払いの賃金を受け取り葉山の母に送金してやろうとするが、運送会社社長の志村は払う金を持ち合わせず、大雪で鉄道が通れない雪山の難所を行く運送の仕事を引き受ければ金が入るという。橘は運転手を引き受ける。
積荷の依頼人は、怪しげな男安川とその子分らしいチンピラの金田で二人も同乗する。橘の仕事ぶりを見届けようとしてか、志村の娘弓子も密かに荷台に忍び込む。
トラックは、釧路からペンケセップという町に向かう。
大雪の積もる山間の道を行くトラックには、脱走犯(浦上)、ケガをした少女(エミ)とその母(雪江)、心中に失敗した失意の美女(孝子)などの男女が次々に乗り合わせてくる。
ペンケサップの町で雪絵や孝子らを下ろし、橘は大沢組の親分を訪ねて、葉山の代わりにけじめをつけさせる。その後、橘と弓子は、安川と金田の命令でトラックで山に向かう。安川が運んでいたのは覚せい剤の材料で、彼らは山の中腹の雪原に野外精製所を急造し、橘と弓子にも手伝わせて覚せい剤を作る。できあがった覚せい剤はヘリで運ぶ段取りが立てられていた。覚せい剤ができあがると、安川は橘と弓子を殺そうとするが、出所してマタギとなっていた鬼寅が猟銃を持って登場、二人を救うのだった。
後半の雪原の戦いもなかなか面白いが、前半のトラックの旅のシーンがたいへん興味深い。
老若男女というよりは、善悪男女が一台のトラックに乗り合わせる。脱走犯の浦上は、なにかと雪江を気遣い、金田は孝子にやさしくする。安川は弓子を襲おうとして反撃を食らうなど、道中、様々な人間模様が繰り広げられる。ジョン・フォードの「駅馬車」みたいだと思っていたら、石井輝雄監督は「駅馬車」を意識してこの映画を撮ったという話もあるらしい。浦上の由紀子への紳士的な態度は「駅馬車」の元南部貴族の賭博師ハットフィールド(ジョン・キャラダイン)の将校夫人ルーシーに対する態度を思い出させるし、孝子のことが気になる様子の金田は、ダラス(クレア・トレヴァ)に惹かれるリンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)のようでもある。「駅馬車」では、ルーシーが上流の婦人で、ダラスは酒場女であったが、こちらでは、逆に雪江が元娼婦で、孝子が上流のお嬢さんとなっているのもおもしろい。
ところで、タランティーノの「ヘイトフル・エイト」を見たとき、タランティーノが「駅馬車」を撮るとこんな感じになるのかなと思い、これはタランティーノ版「駅馬車」ではないかと思ったのだが、豪雪の中を行く馬車という設定を思うと、ひょっとして、この「網走番外地 北海篇」のタランティーノ版だったのかもしれないなどとも思えてきたりして、楽しい。