映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」を見る(感想)

パワー・オブ・ザ・ドッグ The Power of the Dog
2021年 アメリカ / イギリス / ニュージーランド / カナダ / オーストラリア  127分 Netflix
監督:ジェーン・カンピオン
原作:トーマス・サヴェージ「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
出演:フィル・バーバンク(ベネディクト・カンバーバッチ)、ジョージ・バーバンク(ジェシー・プレモンス)、ローズ・ゴードン(キルステン・ダンスト)、ピーター・ゴードン(コディ・スミット=マクフィー)

 

★ネタバレあります!★


1925年のモンタナの牧場が舞台。
フィルとジョージは、兄弟で牧場を経営している。フィルは見るからに粗野で男臭いカウボーイ野郎だが、弟のジョージは物静かで温和な男である。ジョージは、食堂で働いていた寡婦のローザと結婚し、妻として牧場に迎える。彼女には、亡くなった先夫との間にピーターという息子がいる。ひょろっとしていかにもへなちょこそうなインテリ青年で、最初に食堂で会ったときから、フィルはピーターをバカにしてからかい、ローズにも敵意をむき出しにする。
映画の宣伝文から、アメリカの牧場を舞台にした、兄、弟、弟の妻が繰り広げる男女の愛憎渦巻くドラマかと思ったのだが、違っていた。ピーターという青年が大きな役割を果たし、まさかのブロークバックマウンテンからの実は恐ろしい子という展開である。
最初はジョージ、その次は結婚して牧場へやってきたローズ、そしてピーターとフィルへと主観が転々と変るのはおもしろいと思った。主要4人の俳優もそれぞれいいと思った。
が、造花や杭やロープを使った、私でもわかる露骨なセックスの隠喩(というのか?)や、絵に描いたように飲んだくれていくローズや、しつこくしつこくブロンコのスカーフと戯れるフィルや、ピーターとフィルがたばこをこれもしつこく交互に吸いあうシーンなど、これみよがしというかあざといというかそんな風に感じられてしまい、わたしとしては好きになれない作風だった。
アカデミー監督賞を受賞するなど、世間的に高評価なのはマッチョをネガティブに描いているところとか性的なマイノリティを扱っているところなどがジェンダー的視点が重視されてきた時代に即しているからということなのだろうか。また、人によっては、マッチョそうに見えて実はインテリで繊細なフィルという人物の持つギャップがたまらないのだろうか。
牧場から望む山の遠景はよかったが、蛇行する道を車が牧場に向かう俯瞰ショットはそぐわないと思った。アメリカの西部の荒野では視点は地上にある方がいいとわたしは思っている。また、せっかく牧場を舞台にしているのに、フィルとジョージ以外のカウボーイはその他大勢の端役で、広大な牧場でのカウボーイの働きがあまり描かれていないのも残念だった。

 

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