映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3」を見る

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3   Guardians of the Galaxy Vol. 3

2023年 アメリカ 150分
監督・脚本:ジェームズ・ガン
出演:<ガーディアンズ>ピーター・クイル / スター・ロード( クリス・プラット、日本語版声・山寺宏一)、ロケット(アライグマ。声・ブラッドリー・クーパー、ショーン・ガン(幼年期)/加藤浩次)、グルート(樹木型ヒューマノイド。声・ヴィン・ディーゼル/遠藤憲一)、ドラックス(デイヴ・バウティスタ/声・楠見尚己)、マンティス(クイルの異母妹。ポム・クレメンティエフ/秋元才加)、ネビュラ(ガモーラの義妹。カレン・ギラン/森夏姫)、クラグリン(ショーン・ガン/土屋大)、コスモ(犬。声・マリア・バカローヴァ/悠木碧)、

ガモーラ(ゾーイ・サルダナ/朴璐美(ぱくろみ)
<オルゴコープ>
ハイ・エボリューショナリー(科学者。カウンターアース創造者。チュクウディ・イウジ/中井和哉)、アダム・ウォーロック(黄金の空飛ぶ男。ウィル・ポールター/竹内駿輔)、アイーシャ(アダムの母。エリザベス・デビッキ)、レコーダー・ヴィム(ミリアム:ショー)、レコーダー・ティール(ニコ・サントス)、マスター・カージャ(警備担当。ネイサン・フィリオン)、ウラ(受付係。ダニエラ・メルシオール)
<ロケットの友だち(過去)>
ライラ(カワウソ、声・リンダ・カーデリーニ/佐倉綾音)、ティーフ(セイウチ。アシム・チャウドリー/かぬか光明)、フロア(うさぎ。ミカエラ・フーヴァー/宇山玲加
<ラヴェジャーズ>
スタカ―・オゴルド(リーダー。シルヴェスター・スタローン/ささきいさお)、マルティネックス(マイケル・ローゼンバウム)、メインフレーム、クルーガー、ブラープ

日本語吹き替え版で見る。「アベンジャーズ」の何本かでガーディアンズの面々には馴染みがあるが、本シリーズは1作目・2作目とも見ていないので、いきなりの最終話となった。
ガーディアンズが本拠を構えた衛星ノーウェアは、ある日、金色の空飛ぶ男スタカ―・オゴルドの襲撃を受ける。その破壊力はすさまじく、ロケットが重傷を負ってしまう。が、彼の体内にはキルスイッチが組み込まれていて、パスワードが分からないと治療できないことがわかる。ロケットを救うため、ガーディアンズは、ラヴェジャーズの助けを借りてオルゴコープに乗り込む。
前作でピーターは恋人のガモーラを失ったらしくその痛手から飲んだくれていたが、彼女は死んだわけではなく、ピーターと恋人同士であった記憶を持たない、過去からやってきたガモーラがラヴェジャーズにいて、彼女もガーディアンズに加わることになる。このガモーラは、恋人を見る目で自分を見るピーターに対し、至ってクールである。

オルゴコープは、会社の名前らしいが、有機体でできた建設物には生き物の内臓のような壁や設備が整備されている。社主のエボリューショナリーは、狂信的な科学者で、生き物を急速に進化させる研究をしている。彼は、様々な種の動物を人工的に進化させ、カウンターアースと呼ばれる地球に似た星の創造主となっていた。ロケットは、かつて、エボリューショナリーの実験台とされた動物のうちの一匹で、実験の結果、高い知能を持つようになったアライグマだった。ロケットは牢獄のような研究所を脱走したが、エボリューショナリーは、研究のため、ロケットの脳を欲していたのだった。
パスワード獲得のための敵地潜入から、カウンターアースでの戦いへとガーディアンズの活躍が描かれつつ、ロケットの悲壮な過去が明らかにされていく。

個性の強い仲間内の丁々発止のやり取りと、ド派手な攻防、オルゴコープやカウンターアースのカラフルな造形など、終始にぎやかなお祭りのような映画だが、なぜかうんざりせず、すっと入ってきて楽しい。ラヴェジャーズってなに?とか、ピーターとガモーラの間にどうゆう悲恋があったのか?とか、オルゴコープってなに?とか、よくわからなくても、楽しい(小ネタをいろいろちりばめているようなので、シリーズを把握している人はさらに楽しいのかもしれないが)。2時間半かけて描かれる内容が、詰め込みすぎず、ゆったりとしているから疲れないのかもしれない。懐石料理に出てくるような高級和牛をちょっとだけ使った上品な小鉢の料理ではなく、手ごろなお値段のボリュームあるビフテキをおなかいっぱい食べたような、それでいて胃がもたれることはないような、ちょうどいい感じに肉厚なアメリカ映画だった。

 

marvel.disney.co.jp

 

映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を見る(感想)

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE

2022年 アメリカ 139分
監督:ダニエル・クワンダニエル・シャイナート
出演:エヴリン・ワン(ミシェル・ヨー)、ウェイモンド・ワン(キー・ホイ・クァン)、ジョイ・ワン/ジョトゥパキ(ステファニー・スー)、ゴンゴン(ジェームズ・ホン)、ディアドラ・ボーベラ(ジェイミー・リー・カーティス)、ベッキー(タリ―・メデル)

タイトルを直訳すると、「なんでもどこでもぜんぶいっしょに」といった意だろうか。
中国移民の主婦エヴリンは、頼りない夫ウェイモンドとコインランドリーを営みながら、老父ゴンゴンの介護をしている。難しい年ごろの娘ジョイに手を焼いていたが、ある日、彼女はボーイフレンドではなくガールフレンドのベッキーを連れてきて、昔気質の父に会わせたいと言い出す。一方、店の経営状況は厳しく、国税局に納税申告に行っても、融通の利かなそうな女性職員(ディアドラ)に書類の不備を指摘されてやり直しを命じられる。そんな生活に疲れきっていたエヴリンだったが、突然、夫のウェイモンドが豹変する。別の宇宙のウェイモンド・アルファが乗り移ったのだ。彼は、巨悪によって危機に直面した宇宙を救ってほしいと、エヴリンに告げ、彼女に世界の命運を託す。
エヴリンは、カンフー・スターとなった宇宙の自分に乗り移り、見事なカンフーの技を駆使して国税局で大立ち回りをしてみせる。予告編ではマルチバースといっているが、つまりは重ね合わせにある多元宇宙に様々なエヴリンがいて、有名なカンフー・スターだったり、歌手だったり、シェフだったりするのだが、中には人間の手の指がソーセージになっているふざけた宇宙とか、生き物が存在しない岩だけの荒涼な宇宙なども出てくる。ウェイモンド・アルファが言う巨悪のボス「ジョブトゥパキ」は、なんと、アルファの宇宙のジョイなのだった。
なんやかんやありながら、物語は、結局、夫と娘との関係修復という超個人的な問題に収束していく。世界を危機から救うはずが、結局は身内のことしか考えてないじゃんというのはアメリカ映画にありがちな展開だが(けなしているわけではない)、これもまたしかり。ウェイモンドと結婚したがためにしがないコインランドリー屋の主婦となってしまったエブリンは、彼の申出に応じなかった自分が成功者となった宇宙を目の当たりにし、自分の選択は間違いだったのかと思う。が、やがて夫のやさしさに気付き・・・という展開。娘ジョイとの関係は、母と年頃の娘のちょっと心がかみ合わない問題から、宇宙の存亡をかけたエヴリン対悪の首領ジョブトゥパキという大げさな戦いに発展するが、この対決はベーグルが絡んでどんどん意味不明になっていく。無機物だけの宇宙で二人が岩になっているシーンはなかなかおかしいが、会話をしているのはいただけなかった。どうせわけがわからないのだから、なにも動くものがない世界で観客がしびれを切らすくらいの間、ただ2つの岩を映していればいいのに、とも思った。
暴走する画面についていけるかどうかで映画の評価が分かれるところか。カンフーアクションは見ていて楽しいが、後半になると、正直ちょっと飽きてきてしまった。
ミシェル・ヨーはたいへんよかった。国税局のこわいおばさんが、ジェイミー・リー・カーティスだったのには驚いたが、こういう役を意気揚々と演じている彼女もよかった。

gaga.ne.jp

 

映画「フェイブルマンズ」を見る(感想)

フェイブルマンズ  THE FABELMANS
2022年 アメリカ 151分
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:スティーヴン・スピルバーグトニー・クシュナー
出演:サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル)、ミッツィ・フェイブルマン(サミーの母。ミシェル・ウィリアムズ)、バート・フェイブルマン(サミーの父。ボール・ダノ)、レジー・フェイブルマン(サミーの妹。長女。ジュリア・バターズ)、ナタリー・フェイブルマン(次女。キーリー・カーステン)、リサ・フェイブルマン(ソフィア・コペラ)、ハダサー・フェイブルマン(ミッツィの母。ジーニー・バーリン)、ボリス(ミッツィの叔父。ジャド・ハーシュ)、ベニー・ローウィ(セス・ローゲン)、モニカ(クロエ・イースト)、ローガン・ホール(サム・レヒナー)、ジョン・フォードデヴィッド・リンチ

★注意! 映画の内容に触れています★

 

スピルバーグの自伝的映画と聞いて見に行くが、スピルバーグの、というよりは、タイトルが示すようにユダヤ人の一家、フェイブルマン家の物語である。サミーは、IT関連の技術者の父とピアニストを目指していた母と3人の妹たちと暮らしている。ある夜、両親に連れられて行った映画「史上最大のショー」(1952)の列車と車の衝突シーンを見たことがきっかけで、サミーは映画の虜となり、友達を集めて8ミリカメラで映画の撮影を始める。できた映画は学校で上映される。アリゾナの砂漠を背景に撮った戦争映画は、周囲の人たちを驚かせる出来栄えだった。が、一家と父の仕事仲間のベニーとでキャンプに行ったときの映像を編集していたサミーは、フィルムに映っていた母とベニーの関係を目にしてしまい、映画づくりをやめてしまう。
悪人ではないのだが奔放で強力な個性を持つ母と、天才肌で仕事一筋ののクールな父に振り回される子どもたち。やがて、父の栄転で一家はカリフォルニアへ引っ越すこととなる。移転先の高校で、サミーはユダヤ人を嫌う男子らのいじめに遭うが、イエス・キリストを愛するモニカというクリスチャンの女の子と仲良くなる。しばらく映画づくりから遠ざかっていたサミーは、モニカから卒業記念イベントの撮影を頼まれ、引き受けるのだった。
フェイブルは、ドイツ語で寓話の意味(殺し屋マンガの「ザ・ファブル」で有名な単語だ)、自伝的映画だけどフィクションだという意味が込められているそうだ。しかし、映画の中で起こる出来事は甘くなく、かといって大げさに悲劇的でもなく、リアルでもやもやとしている。家族讃歌にも、映画讃歌にもなっていないところがいい。
最後にでてくる地平線のエピソードは、かの監督のドキュメンタリーの中のインタビューでスピルバーグが語っていた内容そのままである。インタビューを聞いたとき、なんていい話だと感激したものだ。それを知らずに、いきなり映像で見せられた方がよかったかもしれないが、サミーが部屋に通され、秘書と待たされている辺りで、ひょっとしてあれか?と思いながらわくわくしながら巨匠の登場を待つのもそれはそれで楽しかった。

fabelmans-film.jp

 

関連作品:「映画の巨人 ジョン・フォード」(2006年・110分)ピーター・ボグダノビッチ

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映画「パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女」を見る(感想)

パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女 SPECIAL DELIVERY

2022年 韓国 109分
監督・脚本:パク・デミン
出演:チャン・ウナ(パク・ソダム)、キム・ソウォン(少年。チョン・ヒョンジュン)、チョ・ギョンピル(悪徳刑事。ソン・セビョク)、ペク・カンチョル(ペッカン産業社長。キム・ウィソン)、キム・ドゥシク(ソウォンの父。元野球選手の賭博プローカー。ヨン・ウジン)、ハン・ミヨン(国家情報院係官。ヨム・ヘラン)、アシフ(ペッカン産業従業員。アフリカ系。ハン・ヒョンミン)

★ネタバレあり!(映画の内容に触れています)

 

予告編をみて、「グロリア」と「ドライブ」「ベイビードライバー」を合わせたような映画かなと思って気になって見たら、思った通りそれらを合わせたような内容の映画だった。
28歳のウナは、わけありの荷物の運搬(特送)を請け負う凄腕ドライバーである。彼女は、ある日、逃走する賭博ブローカー、ドゥシクとその幼い息子ソウォンを運ぶ仕事を引き受けるが、ドゥシクは追手に殺されてしまう。ウナは、金の在りかの鍵を持つソウォンとともに、悪徳刑事ギョンビル一味から追われることに。敵が刑事なので、警察に助けを求められず、ウナは誘拐犯として警察からも追われる身となり、さらに彼女が脱北者であることが判明すると、彼女を知る国家情報院の女性係官ハンらも出動してくる。
行き届いた娯楽アクションだった。カーアクションも派手でいいが、スクラップ工場でのヒロインも敵も血と汗でどろどろになっての戦いも勢いがあった。
ドゥシクが元プロ野球選手であるとか、裏で「特送」を請け負うスクラップ会社(釜山港のすぐ近くにあるという場所の設定もいい)の社長や従業員のアフリカ出の青年がいい味を出していたりとか、狭い狭い路地を走破し、踏切を利用して追手を躱し、ドリフトで縦列駐車を一発で決めるウナに対し、情報院のハンは車庫入れも苦手なへぼ運転者である(自分もへぼなので個人的に好感を持つ)とか、細部もいろいろ気が利いていると思った。ハンがクライマックスの戦いには間に合わず、見せ場がないのはちょっと残念だった。

しかし、サブタイトルはどうにかならないものかと思った。タイトルも「特送」とした方が渋くて内容に合っていると思うが、それではあまり人が見に行く気にならないってことなんだろうと思った。

perfectdriver-movie.com

映画「カンフースタントマン 龍虎武師」を見る

カンフースタントマン 龍虎武師  KUNGFU STUNTMEN

2021年 香港・中国 92分
監督:ウェイ・ジェン・ツー
出演:サモ・ハンユエン・ウーピンドニー・イェン、ユン・ワー、チン・カーロッ、ブルース・リャン、マース、ツイ・ハークアンドリュー・ラウエリック・ツァン、トン・ワイ、ウー・スー・ユエン ほか

香港カンフーアクション映画の歴史を、スタントマンの視点から語るドキュメンタリー。
有名無名取り交ぜて映画でカンフーアクションに関わった男たちが、次々に登場して、香港アクション映画の黄金時代がスタントマンにとっていかに危険なものだったかを語る。
1930年代、日本軍の侵攻によって本土を追われた京劇の演者たちが香港に逃れ、京劇の学校をつくった。1960年代には4つの学校ができ、多くの子どもたちがそこで厳しい授業を受け体技を身に着けたが、肝心の京劇が衰退してしまって仕事がなく、そこで彼らはカンフー映画のスタントマンになっていったという。そうした過去の経緯も興味深い。
タイトルの「武師」はスタントマンの意。南派洪家拳の流れを組む武術系からラウ・カーウィンの劉家班、香港にあった4つの京劇学校の出身者による京劇系からは、ユエン・ウーピンの袁家班、さらにその系列のドニー・イエンの甄家班、サモ・ハンの洪家班その系列のチン・カーロンの銭家班、ジャッキー・チェンの成家班がつくられ、これら複数の班(チーム)がせめぎあい、文字通り命がけのスタントに挑んでいた。「死んだものもいたし、半身不随になった者もいた」とさらっと語る彼らは、その時代を生き抜いた男たちだ。

「ドラゴン危機一髪」「ドラゴン怒りの鉄拳」「ドランクモンキー酔拳」「プロジェクトA」「ファースト・ミッション」「霊幻道士」「ポリス・ストーリー/香港国際警察」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズ、などなど、挿入される映画のシーンを見ると、映画館で見たときの高揚感が蘇ってくる。8人が爆発と同時にガラスを突き破ってビルの窓から落ちるシーン(「ファースト・ミッション」)など、撮影のいきさつを知ったあとでも見せてくれるので改めてすごさが伝わる。一方、マース(「プロジェクトA」の有名な時計台落下シーンをジャッキーの前に試しに落ちたスタントマン、俳優、アクション監督)が、ゴールデンハーベストの跡地を案内する場面は郷愁が漂っていてじんとしてしまった。

パンフレットは、厚くていい紙を使っているが、小ぶりで千円。ちょっと迷ったけど買ってよかった。映画を見ただけでは覚えきれない出演者たちが25人、顔写真と名前(漢字とカタカナと英語表記あり)と簡単なプロフィールつきで紹介されていて、香港映画スタントマンの班の系図や、劇中登場する映画の一覧もある。さらに、ドニー・イエンの班に所属している日本人のスタントマン谷垣健治(「るろうに剣心」シリーズのアクション監督)のインタビューと同門の下村勇二と大内貴仁の対談も載っている。興味のある者にとっては、なかなか希少な資料となっているのではないだろうか。

 

kungfu-stuntman.com

 

映画「すずめの戸締り」を見る(感想)

すずめの戸締まり
2022年 日本 公開:東宝 アニメ 121分
監督:新海誠
声の出演:岩戸鈴芽(原菜乃華)、宗像草太(松村北斗)、岩戸環(深津絵里)、海部千果(花瀬琴音)、二ノ宮ルミ(伊藤沙莉)、芹澤朋也(神木隆之介)、岩戸椿芽(花澤香菜)、宗像羊朗(松本白鸚、ダイジン、サダイジン

 

★ネタバレしてます!!

 

 


日本各地にある廃墟に突然現れる謎の扉。
扉の向こうの「後ろ戸」は「常世」の世界で、扉が開くと「ミミズ」が現れる。ミミズは災害の予兆で、赤黒い雲のように村や町の上空に広がるが、人々の目には見えない。鍵を持つ「閉じ師」の青年が扉を戸締りすることで、ミミズは消え、災害の恐れはなくなる。
九州の宮崎で叔母の環と暮らす高校2年生のすずめは、廃墟で「西の要石」を抜いてしまい、そのせいで扉が次々と開き、ミミズが出現することに。西の要石は、ダイジンと呼ばれる猫に姿を変え、すずめになつき、閉じ師の草太を魔法でイスに変えてしまう。そのイスは、すずめが幼い時、母に作ってもらった誕生日のプレゼントで、脚が一本かけて3本足の不安定な状態になっている。ミミズは何匹もいるわけではなく一匹が日本の地下を這いずっている。逃げるダイジンを追うイスの草太を追うすずめは、行く先々の廃墟に現われる扉を戸締りしてミミズを消すが、すぐまた次の扉が開く。宮崎から愛媛、神戸、東京へとすずめたちの旅は、続いていき、草太は東京でダイジンの代わりに要石になってしまう。
草太を救うために、すずめは東北に向かう。すずめは東北の震災で母を失くしていた。4歳だったすずめは環に引き取られたのだった。家出したすずめを心配してかけつけた環と草太の友人の芹沢(なかなか好感の持てるキャラとなっている)が加わり、3人は芹沢のオープンカーで東北へ向かう。
「どこでもドア」みたいな扉とその向こうに広がる星がきらめく漆黒の宇宙ときらきら光るカギと突如出現する鍵穴がファンタジーすぎるのとこの映画の世界だけで通じる専門用語が次々に出てくることにちょっと引いてしまい、また、まがまがしく広がるミミズともどもそれらのイメージにさほど斬新さが感じられなかった。草太の魂が入るのが手作りの子ども用の木のイスでしかも三本足で走るというのはまったくもって奇抜な着想だとは思うのだが、なぜか「ハウルの動く城」のぴょこぴょこ跳んで進む案山子の動きを思い出してしまう(これに限らず、映画全体を通して「ハウル」に雰囲気が似ている感じがする)。幼いすずめが出会っていたのは実は、という展開も特に意外でもなく、おお、ここでこうくるか?という驚きはなかった。オマージュの部分もあるのだろうが、つまりは出てくるものに対してやけに既視感を抱いてしまうのだった。が、どことなく見慣れたものを最大限に生かして、パワーアップしたビジュアルでもってきっちりと見せきった力量はあっぱれ、という感じの映画だった。
(追記)ビジュアルの秀逸さとともに、言葉へのこだわりも感じられた。「好き」と言われればふっくらし、「きらい」と言われればやつれてしまうダイジンは言葉が他人に与える力を表しているのだろうが、これはわかりやすすぎてあざとい。扉を戸締りする際にすずめが聞く、おはよう、いってきます、いってらっしゃい、という様々な声は、震災の朝にも人々の間で交わされたあいさつで大した意味をなさない言葉のやりとりゆえにそうした日常が立ち切れてしまったという思いを喚起させるものだ。しかし、私の溜飲を下げてくれたのは、それを言っちゃあおしまいよって感じで、すずめを引き取ったことがどれだけ負担だったかという心情を吐露した環があとから「それだけじゃないよ」の一言ですべて収めてしまうくだりで、言っちゃいけない言葉なんて実はないのだよという主張が感じられてよかった。

 

suzume-tojimari-movie.jp

映画「ブレット・トレイン」を見る(感想)

ブレット・トレイン BULLET TRAIN

2022年 アメリカ 126分

監督:デヴィッド・リーチ

原作:伊坂幸太郎「マリアビートル」

出演:てんとう虫/レディバグ(プラッド・ピット)、レモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)、みかん(アーロン・テイラー=ジョンソン)、白い死神/ホワイト・デス(マイケル・シャノン)、プリンス(ジョーイ・キング)、ホワイト・デスの息子(ローガン・レーマン)、木村雄一(アンドリュー・小路)、長老(木村の父。真田広之)、ウルフ(ベニート・A・マルティネス・オカシオ)、ホーネット(ザジー・ビーツ)、車掌(マシ・オカ)、社内販売員(福原かれん)、マリア(ハンドラー。サンドラ・プロック)、モモもん

伊坂幸太郎原作、ブラッド・ピット主演による、超特急列車内殺し屋バトル活劇である。

冒頭の東京のシーン(東京ロケではないらしい)でアメリカ人が撮る日本の街というものを久しぶりに見た。そういえばこんな風に異国情緒漂う感じになるんだったと思ってなつかしかった。

コードネーム「てんとう虫(レディバグ)」のアメリカ人の殺し屋は、ハンドラー(斡旋屋のようなものか)のマリアから回された仕事を引き受ける。それは、東京発京都行きの特急列車に乗り込み、あるブリーフケースを見つけて確保し次の駅で降りるというものだった。

そのブリーフケースには誘拐された人質の身代金が入っていた。人質は、白い死神と呼ばれる暗黒街のボスの息子。息子を救出し彼とブリーフケースを運ぶ仕事を依頼されたレモンとみかんと呼ばれる殺し屋の二人組(ずっしりと太った黒人としゅっとした白人だが双子という設定である)、復讐のため列車に乗り込んだ南米の殺し屋ウルフ、毒薬を武器とする黒人女性の殺し屋ホーネット、謎の女子高生プリンス、幼い息子の命を盾にプリンスに脅されスーツケース争奪戦に巻き込まれる日本人ヤクザの木村、木村の父の長老などが、新幹線もどきの超特急に乗り合わせ、派手なバトルを展開する。

とにかく音も色も騒々しい。派手に殺し合っているのに、乗客乗務員の前では平静を装い、一般人は誰一人として騒ぎに気付かない。最後の停車駅米原からゴールの京都に着くまでが異常に長く、戦っている間に夜が明けて朝になってしまう。というふうにめちゃくちゃなのだが、とにかく勢いがあって楽しい。

てんとう虫とレモン&みかんコンビの3人のやりとりがいい。機関車トーマスおたくのレモンのうんちくや、自分探し野郎的なところのあるてんとう虫の人生話など、言葉の垂れ流しのようなやりとりはタランティーノの映画を思い出させるが、タランティーノほど作り込んでいなくて、無邪気な感じがした。真田広之のしぶい立ち回りが見られたのもうれしかった。

 

www.bullettrain-movie.jp