Netflix配信の西部劇「この茫漠たる荒野で」を見る(感想とあらすじ)

この茫漠たる荒野で NEWS OF THE WORLD
2020年 アメリカ NetfliX配信(2021年) 119分
監督:ポール・グリーングラス
原作:ポーレット・ジャイルズ “NEWS OF THE WORLD”
出演:ジェファーソン・K・キッド大尉(トム・ハンクス)、ジョハンナ・リオンバーガー/シカダ(ヘレナ・ゼンゲル)、サイモン・ブードリン(レイ・マッキノン)、ドリス・ブードリン(メア・ウィニンガム)、ガネット夫人(エリザベス・マーヴェル)、アルメイ(マイケル・アンジェロ・コヴイーノ)、ファーリー氏(トーマス・フランシス・マーフィ)、ジョン・キャリー(フレッド・ヘッキンジャー)、ウィルヘルム・リオンバーガー(ニール・サンディランズ)、アンナ・リオンバーガー(ウィンサム・ブラウン)

★映画の内容について書いているので、まだ見ていない人はご注意ください。


Netflix配信によるトム・ハンクス主演の西部劇。
文芸作品のようなやけにきどった邦題がついているが、原題は「世界のニュース」で、これも西部劇らしくはない。舞台は、1870年のテキサス。ジェファーソン・K・キッド大尉は、元南軍の退役軍人で、新聞の記事の読み聞かせをしながら西部の町を巡って生計をたてている。原題は、「世界のニュースをお届けします」という、彼の口上からきている。
ある日、彼は旅の途中でジョハンナという10歳の少女と出会う。彼女は、幼いころカイオワ族に家族を殺され、自分は連れ去られて6年間彼らとともに暮らしていた。が、騎兵隊の討伐により、今度はカイオワの家族を殺され、再び孤児となったのだ。
彼女はドイツ移民の子で、叔父夫婦がテキサス南部のカストロヴィルにいると知ったキッドは、人手不足でなかなか来ない騎兵隊の担当者に代わって、彼女をそこまで送り届ける決心をする。
テキサス州北部のウィチタフォールズから、ダラスを経て、南部のサンアントニオ近くのカストロヴィルまでの馬車の道のりは長い。ジョハンナは、「シカダ」と名乗りカイオワ語しかしゃべれず、英語を解さない。ドイツ語にはちょっと反応するが、4歳までの記憶はほぼ失くしているようである。キッドは、サンアントニオに家があり、妻が待っているはずなのだが、なにか訳ありで帰ろうとしない。馬車の旅を続けながら、二人は、お互いの言葉を教え合い、少しずつ心を通い合わせていく。
西部劇だが、活劇というよりは旅の映画だ。南北戦争終結から数年後、南部の人たちは苦しい生活を強いられている。キッドは同じところを巡回しているようで、町の人たちは彼がくると声をかけ、読み聞かせの場所に集まってきて、キッドが語る知らない町のできごとに耳を傾けるのをささやかな楽しみにしている。情報が行き届かない時代ならではのなごやかさが感じられる。
キッドとジョハンナは旅先で様々な人々に出会う。南部の町を管理する元北軍の騎兵隊員たち、カイオワ語を喋れるホテルの女主人(ガネット夫人)、南軍くずれの悪党(アルメイ)、バファロー狩りで成功し小さな町を牛耳る男(ファーリー氏)、彼の支配から逃れて新天地を目指す若者(ジョン・キャリー)など。
アクションシーンはそう多くないのだが、岩場での銃撃戦は見応えがあった。ジョハンナを狙うアルメイとその仲間の男たちが、二人の行く手を阻み撃ち合いになる。キッドは友人から借りた拳銃のほかには鳥撃ち銃しか持っていない。ジョハンナがとっさの機転で、ニュースの読み聞かせで集めたダイム(十セント硬貨)を持ってきて、それを何枚も重ねて弾薬のカートリッジに詰めて撃つのが興味深かった。白昼の、岩場での銃撃戦はやはりいい。
しかし敵は人だけでなく、西部の自然は過酷で、二人は急斜面で馬車が暴走して荷物も馬も失くし、砂漠をさまよっているところで砂嵐に見舞われる。嵐の荒野の中に現れたインディアンの一行はまるで幻のようだったが、彼らはカイオワ語で話しかけるジョハンナに一頭の馬をくれるのだった。
伯父の住む町が近づいてきたあたりで、ジョハンナはカイオワにさらわれる前に住んでいた家を見つける。6年前の惨劇の跡は風化している。黒ずんだ血痕が残る空き家の室内に見入るジョハンナと彼女を見守るキッド。言葉や回想シーンなどによる説明は何もなく、ただ風が吹いている感じがなんとも悲しい。
物静かで、しぶい色調の画面、淡々と進む物語に重量感のある銃声という、最近の西部劇にみられがちな要素が盛り込まれている。つらいことの多い話だが、西部の風景と主演の二人がいいので、そんなに暗くならずにしみじみしながら見ることができた。

以下、ジョハンナの叔父夫婦に会ってからのあらすじである。

 

農夫の叔父夫婦は、苦しい生活のせいか、妹(ジョハンナの母)とあまり仲がよくなかったせいか、ジョハンナと再会してもあまりうれしそうではなく、ただ労働力が増えたことを喜ぶ。物語が好きだから本を買ってやってくれというキッドに、そんなもの役に立たないという。
不安を残しつつ、肉親の元で暮らすのが一番いいだろうと、彼はジョハンナを叔父夫婦に託して、サンアントニオに帰る。そこで、彼の妻はすでにコレラで亡くなっていることがわかる。彼は、戦争で多くの命を奪った裁きで妻が死んだのだと言うが、町に住む古い友人は、そんな彼の言葉を否定し、彼を慰める。
ジョハンナは、叔父夫婦とうまくやって行けずにいた。キッドは彼女を迎えに行く。叔父夫婦もほっとした様子でジョハンナを手放す。キッドとジョハンナはいっしょにニュースの読み聞かせの旅を続けるのだった。

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川越スカラ座で映画「無頼」を見る(感想)

無頼
2020年 日本 公開チッチオフィルム 146分
監督:井筒和幸
主題歌:「春夏秋冬~無頼バージョン」泉谷しげる
出演:井藤正治松本利夫)、佳奈(柳ゆり菜)、井藤孝(中村達也)、橘(ラサール石井)、川野(小木茂光)、谷山(升毅)、中野(木下ほうか)
川越スカラ座で見る。
川越スカラ座は、小江戸川越(埼玉県川越市)のレトロな街並みの中に立つ有名な「時の鐘」の塔のある通りから小さい路地に入り、さらに小さい路地を曲がったところにある小さな映画館で、かねてより行ってみたかったところだ。なぜ二番館のここで今公開中の「無頼」をやっているのかというと、おそらくここでロケをしたからだ。映画の中に出てくる昭和の映画館前でのシーン、「スカラ座」の文字にタイル張りの壁もせまい通りも入館前に見た景色そのままなのだった。
というわけで、期せずしてこの映画を見るには最適の映画館で見ることができたのだった。
昭和31年から始まる映画は、冒頭モノクロで昭和の風景を映し出す。ああまたノスタルジーかとうんざりしかけたのだが、出てくる貧乏な少年井藤正治は早口でギラギラしていてそれっぽく、以後彼がヤクザになって親分になって還暦を迎えて引退するまで、たんたんとその人生の断片が描かれる。昭和史というが、昭和への郷愁はほぼ感じられず、ただ、こういうことがあった、ああいうこともあったと、社会的事情を背景に極道を突き進む彼とその周辺の男たちの生き様を語っていく。語り口は平成を迎えても変わることはなく、おれはまだまだ現役だぜという監督の気構えが伝わってくるような思いがした。
早口の関西弁は何言ってるかよくわからないこともしばしば、次々に登場する男たちの顔は把握できず、どっちがどっち側で抗争の展開もよくわからなくなってきて、いいからとりあえず今目にしているシーンを楽しもうと腹を括ったあたりで、「ガキ帝国」を見たときの感じを思い出した。断片の連続なので、見る端から忘れて行って、スカラ座が出てきたことも、2日くらい経ってからそういえばあの映画館、川越スカラ座っぽかったと思ったことを思い出して検索して確認したのだった。
主演の松本利夫さんはエグザイルだそうだが(エグザイルには詳しくないが、ヤクザ役のイメージはない)、茫洋としつつ危ない感じがよかった。佳奈役の柳さんは、だんだん組の姐さんになっていく様子がよかった。
ドライで暴力的だが、他の同ジャンルものと比べると監督の目は基本やさしいんじゃないかと思う。ただし、ぬるさも甘さもおしつけがましい涙もなく、そこが好きなところだ。

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川越スカラ座

 

 

中華SF三部作の二作目「三体Ⅱ 黒暗森林」を読む

三体Ⅱ 暗黒森林
劉 慈欣著 (リウ・ツーシン りゅうじきん) (2008)
監修:立原透耶
翻訳:大森望、立原透耶、上原かおり、泊功
早川書房(2020) (キンドル版購入)

★物語の内容に触れています。注意!★

 

 

やっと読了。1作目は、そこそこのスピードで読み進められたのだが、本作はなかなか読めなかった。つまらないわけではないが、動きが少なくて地味な頭脳戦が大半をしめるうえに、専門用語が多くて概念をつかむのに時間がかかったということが大きいと思う。また、主人公の羅輯(ルオ・ジー)の理想の女性との恋物語にほとんど興味をそそられなかったこともあったと思う。メモを取りながらの読書は勉強してるみたいでなかなかめんどうだった。どこかに書いておかないとまた忘れてしまうので、少々長くなってしまったが、内容を書き留めておく。(後の方に年譜、用語、登場人物のメモを添付)

SF小説でめんどうなのが、その中だけでしか通用しない用語を覚えなければならないことだ。漢字表記にカタカナやアルファベット3文字(組織の略語など)のルビが振ってあったりするのだが、この小説に出てくる用語は漢字表記のものも多く、字面を見るだけで楽しいものも多い。表題の「黒暗森林」とか「精神印章」とか「星艦地球」とか味わい深い。

前半の「面壁計画」については、これも名称はなかなかおもしろい(達磨の故事からきているらしい)。地球人の言動はすべて智子(ソフォン)を通して、三体人に筒抜けである。が、三体人はうそがつけない。発言イコール真実である。が、地球人はうそがつける。ということで、選ばれた「面壁者」が対三体人作戦を各々の胸の内に秘めたまま推し進めるという、全世界公認の作戦計画である。しかし、三体協会はそれぞれの面壁者に対して「破壁者」を送り込み、計画の中身を暴かれた面壁者の計画はそこで破綻する。
4人の面壁者たちは、それぞれ作戦を進めていく。元アメリカ国防長官タイラーの蚊群と呼ばれる水爆特攻隊計画や元ベネズエラ大統領ディアスの特大核爆弾を使った太陽系惑星連鎖爆発計画の真意は破壁者に見破られてしまう。
脳科学者ハインズによる脳の開発研究はそれを達成するための技術力が追い付かずにとん挫するが「精神印章」という意識改造マシンを生み出す。これは地球文明よりずっと進んだ技術を持ち圧倒的に優位な三体軍との戦いにあたって敗北主義や逃亡主義に陥る者が増える中、マシンによって人の意識を操作し、地球は勝つという信念を人々に抱かせるもので、自ら望んだ者のみが「信念センター」で処置を受け、処置を受けた者は「刻印族」と呼ばれる。ハインズは、科学技術の発展を待って長期冬眠に入る。
4人目の面壁者が社会学者の羅輯(ルオ・ジー)だが、彼は愛する女とともに北欧の森と湖に囲まれた別荘で優雅な田舎生活を楽しむ。やがて、何かに気付いた彼は、ある星に「呪文」をかけるが、彼の命を狙う三体協会が送り込んだDNA誘導式生物兵器によって重篤状態に陥り、こちらも長期冬眠に入る。(このDNA誘導式生物兵器がすごい。普通の人々には軽いインフルエンザのような症状を発症するだけだが、特定のDNAを持った人にだけ致命的な攻撃をするウィルスで、暗殺にはもってこいの秘密兵器なのだ。さらに冬眠から目覚めた羅輯(ルオ・ジー)は、はるか昔に仕込まれた暗殺プログラムによって様々な殺人現象によって命を狙われたりもする。)

物語が始まってから202年後、ハインズと羅輯は、200年の眠りから目覚める。それは三体艦隊の最初の探査機が木星に近づきつつあるときであった。

面壁者の言動と並行して、中国海軍の軍人掌北海(ジャン・ペイハイ)の半生も描かれる。中国海軍政治委員だった彼は、未来増援特別分遣隊として人工冬眠によって未来へ送られる。危機紀元200年代、地球は地上の国々からなる地球インターナショナルと、宇宙艦隊からなる艦隊インターナショナルのふたつの行政群に分かれ、艦隊はひとつの国家のような存在となっている。冬眠から目覚めた掌北海は、205年にアジア宇宙艦隊戦艦<自然選択>の艦長代理となって、敵探査機を迎えるべく、木星近くの待機域に向かう。精神印章を受けずに地球軍の勝利を信じて戦いに挑む彼は、生粋の古き軍人として205年には稀有な存在となっている。
宇宙船内部の部屋は、すべて球形になっているのが興味深かった。(これは宇宙は円運動からなるという中国の易の陰陽思想にある太極の概念を思わせる。)

ここにきて(全体の終わり3/4くらいで)、やっと壮大な宇宙戦が展開する。200年の間には状況も変わり、自分たちは優位にあると余裕しゃくしゃくとなっていた地球人だが、地球の宇宙艦隊は三体艦隊から先行して木星近くに到着したたった一機の小さな探査機から思わぬ猛攻を受ける。「水滴」と呼ばれる探査機は、水滴型の優美な形をしている小型機だが、あっという間に2000隻からなる地球の宇宙艦隊をほぼ壊滅してしまうのだが、そのすさまじさに度肝を抜かれる。密集して平らな長方形に並んだ艦隊への攻撃は、さながら、「三国志演戯」における赤壁の戦いでの呉軍の攻撃のようである。連環の計により、密集して互いにつながりあっていた曹操軍の船団は、散り散りに逃げることがかなわず、壊滅状態になるのだ。

逃げ延びた宇宙戦艦は、たった7隻、しかし、これらの戦艦の行く手にも残酷な未来が待ち受けている。この暗黒へまっしぐらの怒涛の展開に、漸く気持ちが沸き立ってくる。タイトルの「黒暗森林」の意味、これまで宇宙において他の知的生物がなぜ発見されなかったか、「猜疑連鎖」「文化爆発」という葉文潔が羅輯(ルオ・ジー)にほのめかした宇宙社会学の理論(彼女ならではの発想だ)が明かされる段になると、底なしの暗黒の渕が見えてくるようで、ぞくぞくする。(これは、これまで未来からきた人物など一度も見たことがないのでタイムマシンは存在しないのではないかという時間旅行の話の謎にも適用できそうな気がする。)

でも、それまでがとにかく長い。間に200年の時が流れ、あいかわらずスケールの大きさを感じさせ、細部にはもろもろの秀逸のアイデアが光るが、面壁者それぞれの計画や、掌北海(ジャン・ペイヘイ)の思惑や、羅輯(ルオ・ジー)の呪文など、撒いた種の芽が出るまでが長い。おもしろいが、わたしにとっては忍耐が必要な読書だった。

<年譜>
危機紀元(危機元年=西暦201×年)
1部 面壁者 危機紀元3年(三体艦隊到着まであと4・21光年)、
2部 呪文  危機紀元8年(同4・20光年)、12年(同4・18光年)、20年(同4・15年)ディアス、ハインズ冬眠からめざめる、ディアスの計画さらされ撲殺
3部 黒暗森林 危機紀元205年(同2・10年)、208年(同)2・07年)

<用語>
・地球三体協会(Earth Three-body Organization, ETO)
・宇宙社会学:二つの公理
 1. 文明は生き残ることを最優先とする。
 2. 文明は成長し拡大するが、宇宙の総質量は一定である。
 *二つのキーワード 「猜疑連鎖」と「技術爆発」
・智子(ソフォン。一個の陽子で造られた三体文明のスーパーコンピュータ) 
・惑星防衛理事会(PDC
・面壁者、破壁者
ハッブル望遠鏡Ⅱ(ハッブル望遠鏡が超高性能化された宇宙天体望遠鏡)、
・斑雪(「はだれゆき」と読む。地球に向かってくる三体艦隊の軌跡をその見た目からこう呼ぶ。)
・天梯Ⅲ(ティアンティ。地上と宇宙空間の施設をつなぐ軌道エレベーター、3機あるうちの1機)、
黄河(ファンフー)宇宙ステーション
・敗北主義、逃亡主義
・DNA誘導式生物兵器
・精神印章(メンタルシール)、信念センター、刻印族
・大峡谷(羅輯(ルオ・ジー)らが人工冬眠中に起こったらしい大恐慌のような不景気時代)
・地球インターナショナル、艦隊インターナショナル(三大艦隊:アジア艦隊・北米艦隊・欧州艦隊)、太陽系艦隊連合会議(SFJC):SFJCは、艦隊インターナショナルにおける地球の国連のようなものである。
・深海状態(宇宙艦隊の戦艦が超高速に入る際に、乗務員は衝撃を和らげるため特殊な液体の中で眠った状態となる。「水滴」の攻撃により深海状態に入る前に超高速運転に入った艦内では、乗務員たちのむごたらしい死にざまが情け容赦なく描かれる。)
・星艦地球(地球に戻ることが叶わず、目的地となる久遠の異星を目指して宇宙旅行を続ける宇宙艦内の「地球」。乗務員たちは艦内を生涯生活の場とし、何世代も生きていくこととなる。)

○三体の探査機「水滴」の攻撃から逃れた宇宙艦隊戦艦
・<自然選択><藍色空間(ブルースペース)>:アジア艦隊、<企業(カンパニー)>:北米艦隊、<深空(ディープ・スカイ)>:アジア艦隊、<究極の法則(アルティメット・ロー)>:ヨーロッパ艦隊→<藍色空間>
・<量子><青銅時代>:アジア艦隊→<青銅時代>

<登場人物>
〇Ⅰから登場
・葉文潔(イエ・ウェンジエ ようぶんけつ):天体物理学者。のちに地球三体協会総司令官
・史強(シー・チアン しきょう)通称大史(ダーシー):元警官。Ⅱでは羅輯の警護官で、彼の唯一の友人兼理解者となる。
・常偉思(チャン・ウェイスー じょういし):作戦指令センター陸軍少将
・マイク・エヴァンズ:地球三体協会降臨派の中心人物。「主」と交信可能。
・丁儀(ディン・イー ちょうぎ):葉文潔の亡くなった娘楊冬の恋人だった理論物理学者。制御核融合技術研究者で、205年の「水滴」調査に加わる。
〇Ⅱから登場
・羅輯(ルオ・ジー らしゅう):天文学から社会学へ転向した学者。面壁者。
・荘顔(ジュアン・イエン そうがん):中国画専攻の学生。羅輯の夢の恋人から妻となる。
・セイ:国連事務総長
・ガラーニン:惑星防衛理事会議長
フレデリック・タイラー:もとアメリカ国防長官。面壁者。
・マニュエル・レイ・ディアス:前ベネズエラ大統領。面壁者。
・ビル・ハインズ:脳科学者、もと欧州員会委員長。面壁者。
・山杉恵子:ノーベル賞受賞の脳科学者。ハインズの妻。
・章北海(ジャン・ペイハイ しょうほっかい):中国海軍政治委員、未来増援特別分遣隊として人工冬眠。205年では<自然選択>艦長代理。
・呉岳(ウー・ユエ ごがく):中国海軍空母艦長
・常偉思(チャン・ウェイス じょういし):初代宇宙軍司令官
・張援朝(ジャン・ユエンチャオ ちょうえんちょう):退職した化学工場労働者。老張(ラオジャン)
・楊普文(ヤン・ジンウェン ようしんぶん):退職した中学教師。老楊(ラオヤン)
・苗福全(ミアオ・フーチュエン みょうふくぜん):山西省の石炭王
〇危機紀元205年・アジア艦隊
・東方延緒(ドンファン・イェンシー とうほうえんしょ):宇宙艦「自然選択」艦長
・藍西(ラン・シー らんせい):<自然選択>主任心理学者

 

三体Ⅱ 黒暗森林(上)

三体Ⅱ 黒暗森林(上)

 

 

 

三体Ⅱ 黒暗森林(下)

三体Ⅱ 黒暗森林(下)

 

 

ドキュメント映画「ようこそ映画音響の世界へ」を見る(感想)

ようこそ映画音響の世界へ MAKING WAVES: THE ART OF CINEMATIC SOUND
2019年 アメリカ 94分
監督:ミッジ・コスティン
出演:(音響技師)ウォルター・マーチベン・バート、ゲイリー・ランドストロームほか多数
(監督・製作者)ジョージ・ルーカススティーヴン・スピルバーグフランシス・フォード・コッポラバーブラ・ストライサンドロバート・レッドフォードデビッド・リンチアン・リーソフィア・コッポラ、ビーター・ウィアー、クリストファー・ノーラン
映画における「音」の重要性と音響技術の歴史についてのドキュメンタリー。
サイレント映画から、エジソンが果たせなかった映像と音の組み合せが実現したトーキーへ、ひとつのトラックから16ものトラックでの録音へ、そしてモノからステレオへさらに5.1チャンネルサラウンドへと、音響技術が進化してきた様子や、セリフ、効果音、音楽の3つの「音」のそれぞれの効果と技術などを素人にもわかりやすく紹介している。技術についての説明、技師や監督やスタッフのインタビューのあと、それに即した様々な有名作品の場面を挿入して、次から次へとテンポよく語られるので、とても興味深く、飽きることなく一気に見られた。
往年の西部劇の銃撃カットが立て続けに映ってそれが全部同じ銃声だとか、ラジオドラマの経験からオーソン・ウェルズが「市民ケーン」では反響音を駆使したとか、ヒッチコックは効果音のみを用いて「鳥」の襲撃シーンの怖さを強調したとか、バーブラ・ストライサンドが「スター誕生」でステレオ音響に自費で挑んだとか、「ゴッドファーザー」では前衛音楽家を採用して「軋み」音で感情を表現したとか、「地獄の黙示録」では銃撃音、船のエンジン音、ヘリコプターの音など、音ごとに担当が決まっていたとか、「スター・ウォーズ」のR2D2の「話し声」に苦労したとか、ぱっと思い出すだけでも興味深い内容がいくつもあった。最後はハン・ソロとチューバッカがファルコン号でワープして消える音で終わるのが(個人的には)よかった。

<紹介される映画>
※ほんの一瞬だけのものもあり(「七人の侍」など)。「スター・ウォーズ」と「地獄の黙示録」の出番が多かったように思うが、とにかく次から次へといろいろな映画の場面が出てきて楽しい。
スター・ウォーズ」「THX-1138」「ワンダー・ウーマン」「ブラックパンサー」「2001年宇宙の旅」「イージー・ライダー」「風と共に去りぬ」「勝手にしやがれ」「キング・コング」「ブレイブハート」「第七の封印」「市民ケーン」「トップガン」「七人の侍」「アルゴ」「パイレーツ・オブ・カリビアン」「わたしに会うまでの1600キロ」「リバー・ランズ・スルー・イット」「普通の人々」「プライベート・ライアン」「エレファント・マン」「イレイザーヘッド」「ゴッドファーザー」「ファニー・ガール」「地獄の黙示録」「インセプション」「ダークナイトライジング」「スター誕生(1976)」「ジョーズ」「ジュラシック・パーク」「ロスト・イン・トランスレーション」「ブロークバック・マウンテン」「ROMA/ローマ」「スパルタカス」「ナッシュビル」「マトリックス」「鳥」「東への道」「ジャズシンガー(1927)」「赤い河」「トイ・ストーリー」「ルクソーJr.」ほか

 

映画『ようこそ映画音響の世界へ』オフィシャルサイト

 

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時間逆行映画「TENET テネット」を見る(がよくわからなかったという感想)

TENET テネット    TENET
2020年 アメリカ 150分
監督:クリストファー・ノーラン
出演:男(CIAエージェント。ジョン・デヴィッド・ワシントン)、ニール(謎の相棒。ロバート・パティンソン)、クロスビー(M16の連絡員。マイケル・ケイン)、バーバラ(研究者。クレマンス・ポエジー)、マヒア(工作員。ヒメーシュ・パテル)、アイヴス(実働部隊隊長。アーロン・テイラー=ジョンソン)、
サンジェイ・シン(ムンバイの武器商人。デンジル・スミス)、プリヤ(シンの妻。ディンプル・カパディア)、
セイター(ロシアの武器商人。ケネス・ブラナー)、キャサリン(セイターの妻。エリザベス・デビッキ)、ヴォルコフ(セイターの部下。ユーリ・コロコリニコフ)

★ちょっとねたばれあり★

時間が逆行する映画で、一度見ただけではわからないと言われている話題作。
心して見始めたが、すぐわけがわからなくなった。
冒頭のオペラハウスのテロ事件での人質救出場面で、この場面が後から何度も繰り返されるかもしれないと一生懸命見たのだが、救出部隊はマスクをつけていて顔がわからないし、動きとセリフが速すぎてだれがなにをしようとしているのかよくわからなかった。結局このシーンはプロローグ的なものだった。「黄昏に生きる」「宵に友なし」というやりとりも大事な合言葉かと思って覚えたが、そんなでもなかった。
時間ネタが分かりづらいとかではなく、さらっとした説明のあとにいろいろ実行するのだが、歳のせいか、それが早くて追い付いていけない。飛行機を倉庫に衝突させるのも、カーチェイスも、最後の戦いも、アクションシーンは迫力があって見ごたえがあるのだが、この人たちなんのためにこれをやっているんだっけと途中で思ってしまう。
未来から送られてきた「逆行する弾丸」、未来で起こる第三次世界大戦を防ぐために9つのアイテムからなる「アルゴリズム」というものを奪還せよという指令、謎の相棒と力を合わせてミッションに挑むエージェントという、「ターミネーター」と「007」がごたまぜになったような話だが、「ターミネーター」や「007」シリーズみたいに状況がすんなり頭に入ってこない。つっこみどころはあるけどとりあえずこうするのねと思ってそのシーンを楽しむ、という気になりづらい。
通路で殴り合いをしたマスクの男が実は時間を逆行してきた自分だったという場面は、わかりやすい時間ネタ的なシチュエーションで面白かった。動きのひとつひとつをきっとていねいに逆行して撮ってるんだろうと思いつつ、そんなのDVDにでもならなきゃ確認できないし、本気で検証しようと思ったらDVDでも根気のいる作業になりそうだ。
プロローグのオペラハウスのシーンから逆行する弾丸が地味に映っていたのには気づいたが、ガラスで仕切られた部屋の回転ドアを抜けると時間が逆に流れているとか、時間を逆行するときは酸素マスクをつけるとかいう設定はよくわからなかった(後から検索して知った)。時間の挟み撃ちというのはおもしろいと思ったが、それで普通の挟み撃ちとはちがう、どんな効果が得られるのか、よくわからなかった。
もう一度見ていろいろ確認したい気もするが、実際にすぐまた映画館へ行きたくなるほどではなかった。
主役(なぜ名前がないのかもわからない)のワシントンも悪くなかったが、ニール役のパティンソンが男前でかっこよく、セイター役のブラナーは貫禄があってよかった。

 

https://wwws.warnerbros.co.jp/tenetmovie/index.html

「ロスジェネの逆襲」を読む

7年ぶりに始まったドラマ「半沢直樹」の原作のひとつ。
読んだのは2013年、シリーズ一回目が放映されていたころですが、ドラマを見ていると、小説の内容を思い出します。当時は「ロスジェネ」という言葉がよく使われていました。

 

ロスジェネの逆襲
池井戸潤著(2012年) ダイヤモンド社
登場人物:
半沢直樹(東京セントラル証券営業企画部長。東京中央銀行の営業第二部次長から出向)
森山雅弘(同営業企画部調査役。半沢の部下。)
渡真利忍(東京中央銀行融資部。半沢の同期。情報通。)
中野渡謙(東京中央銀行頭取。)
三笠洋一郎(東京中央銀行副頭取。半沢を敵視。)
伊佐山・野崎(東京中央銀行証券営業部、電脳雑技集団アドバイザリー担当チーム)
平山(電脳雑伎集団社長。)
瀬名洋介(東京スパイラル社長。森山と中学時代の友人。)
郷田(フォックス社長。)
★ネタばれあり!
テレビドラマ化が話題となっている、銀行マン半沢直樹を主人公にしたシリーズの第3弾。
本作では、半沢は東京中央銀行子会社の証券会社に出向となっている(左遷とある)。肩書きは営業企画部長。(ドラマでは、半沢の父は中小企業の社長だったが、銀行に融資を断られたために経営が破たんし、自殺に追い込まれたという設定になっている。が、小説では自殺はしていなくて存命らしい。)
半沢が東京セントラル証券に出向して半年。
新興IT企業、電脳雑技集団社長の平沢から、ライバル会社東京スパイラルを買収したいという相談が持ち込まれ、東京セントラル証券は電脳とアドバイザリー契約をかわす。が、親会社である東京中央銀行証券営業部が割り込み、契約を取られてしまう。
電脳の敵対的買収の標的とされた東京スパイラルに対し、スパイラルのアドバイザーである大洋証券の広重らは、対抗策として新株発行を提案する。電脳が買い占めるのが困難になるだけの株を発行し、協力的な企業(ホワイトナイト)に新株を買い取ってもらうという作戦だ。広重らは、ホワイトナイトの候補として、PC及び周辺機器販売大手企業のフォックスを挙げる。
東京スパイラルの若き社長瀬名は、半沢の部下森山の中学高校時代の親友だった。瀬名の父は、バブルの時期に不動産業で儲けていたが、投資に失敗し借金を抱え込んで自殺した。瀬名は私立高校を辞めて引っ越してしまい、友人たちと連絡が途絶えていたのだった。
瀬名と森山は久しぶりに再会し、旧交を温める。が、森山は、瀬名から聞いたホワイトナイト計画に疑問を持つ。フォックスのメインバンクは東京中央銀行、しかもフォックスの経営はさほど順調ではないのだった。
東京中央銀行証券営業部による、大洋証券とフォックスを取り込んでの買収スキームの実態を知った半沢らは、東京スパイラルを救うべく、同社とアドバイザリー契約を結んで親会社に反旗を翻す。どう見ても勝ち目のなさそうな買収計画に対し、彼らは、逆買収という策に出る。
電脳雑技集団対東京スパイラルの攻防は、そのまま東京中央銀行証券営業部対東京セントラル証券の対決に直結、一方が仕掛ければ一方が逆襲に出る、逆転に次ぐ逆転の展開は、活劇さながらにはらはらどきどきの連続で、ページをめくる手が止まらない。
自らの世代の不運を嘆き世の中を諦観していた森山は、本社人事部の不穏な動きなど物ともせずその時その場での仕事に専念する半沢や、苦労を重ねて自らの努力で道を切り開いてきた親友瀬名の姿を見て、仕事への希望と情熱を見出していく。
森山と瀬名が、「ロスジェネ」世代に当たり、タイトルの文言は本文中にも出てくるが、内容は、むしろロスジェネとの逆襲である。(2013.7)

ロスト・ジェネレーション(失われた世代)というと、私などはヘミングウェイフィッツジェラルド?と思ってしまうのだが、今でいうロスジェネ世代とは、就職氷河期(1993年~2005年)に学校を卒業し、社会人になった世代、1970年代半ばごろに生まれた世代のことを言う。本書の冒頭に人物相関図があって、単なるビジネス上の関係だけでなく「憎しみ」や「信頼」などとあるのがなかなかわかりやすくて愉快なのだが、半沢とその同期たちに「バ」(バブル世代の意)、森山と瀬名のところに「ロ」(ロスジェネ世代の意)とある。

 

 

映画「イップ・マン 完結」を見る 及び過去3作「イップ・マン 序章」「イップ・マン」「イップ・マン 継承」の感想も

★注意:あらすじ書いてます!

 

イップ・マン 完結  葉問4完結篇 IP MAN 4

2019年 中国・香港   105分
監督:ウィルソン・イップ
アクション監督:ユエン・ウーピン
音楽:川井憲次
出演:イップ・マン(ドニー・イェン)、シャオロン/ブルース・リー(チャン・クォックワン)、ハートマン・ウー(イップ・マンの弟子で海兵隊員。ヴァネス・ウー)、チン(ジム・リュー)、ポー刑事(ケント・チェン)、
ワン・ソンホア(中華総会会長。ウー・ユエ)、ルオナン(ワンの娘。ヴァンダ・マーグラフ)、
バートン・ゲッデス(海兵隊軍曹。スコット・アドキンス)、コリン・フレイター(海兵隊教官で空手の有段者。クリス・コリンズ)、ベッキー(グレース・エングレル)

イップ・マン・シリーズ完結編。
1964年。妻に先立たれたイップ・マンは、息子のチンと二人で香港で暮らしていたが、ある日、医者から癌を宣告される。中学生となったチンはなにかと難しい年ごろで、学校で問題を起こし、父に対しても反抗的な態度を取っていた。そこへ、アメリカに渡って道場を開いた弟子のシャオロン(ブルース・リー)からアメリカの武術大会への招待状が届く。チンをアメリカに留学させようと考えたイップ・マンは、息子の学校探しを兼ねて、サンフランシスコに赴く。
サンフランシスコのチャイナタウンに宿を取り、知人の新聞記者の紹介で、中華総会の幹部らに面会したイップ・マンだったが、旧知のロー老師以外、会長のワンや他の老師たちはイップ・マンを歓迎しなかった。彼の弟子であるブルース・リーが、会の掟に反して西洋人に中国拳法を教えていることが、彼らは気に入らなかったのだ。イップ・マンは武術を広めるのはよいことだと意見を述べるが、やがて彼は、異国に生きる同胞たちが白人から差別され辛い思いをしていることを知るのだった。
今回もイップ・マンは長袍(チャンパオ)に身を包み、普段は穏やかで茫洋としているが、いざ詠春拳を披露する段になると顔つきが変わる。久しぶりに新作で彼のカンフーを堪能した。これが最後なのはさびしい限りである。
今回は、最初の立ち回りは、ブルース・リーと弟子たちによるもので、イップ・マンはなかなか動かない。ブルース・リー役は、「継承」に引き続きクォックワンが好演、今回はしっかり見せ場があり、ヌンチャクの技も披露してくれる。
イップ・マンの最初の見せ場は、白人の悪ガキにいじめをうけていた中国人の女子高校生を助ける、ヒーロー感たっぷりのシーンとなっている。チアガール部で中国系のルオナンがリーダーに選ばれたことが気に入らない白人の娘ベッキーがボーイフレンドたちを使って、彼女を襲わせる。学校の外れで金網に押し付けられ、長い黒髪を切られているところに、息子の留学先探しで学校を訪れていたイップ・マンが通りかかり、悪ガキたちを追い払うという運び。
ルオナンは、ワンの娘だった。二人は、バスでいっしょにチャイナタウンに帰る。ルオナンは、ザンバラ髪をバスの中でハサミを出して切りそろえ、後ろの方を切りそろえてくれるよう、イップ・マンに頼む。なにもここでやらなくてもと思いつつ、イップ・マンがあのしかめ面で女子高校生の髪を切ってやるのがだいぶよかった。ルオナンを演じるマーグラフも感じがよい。
チンの留学には、中華総会会長であるワンの紹介状が必要だったが、ワンはそれを書くのを拒否していた。ルオナンが口添えするもワンは頑なで、二人は武術で決着をつけることに。かくしてワンの太極拳とイップ・マンの詠春拳の対決となる。ルオナンを助けたとき金網の戸に手を挟まれたせいでイップ・マンは片手を負傷していたが、そのことに気づいたワンは心意気を見せ、以後は片手だけを使った勝負となる。一体どう決着するんだとわくわくどきどきして見ていたら、急に地震が起きて、勝負は仲秋節までお預けとなる。
一方、イップ・マンの弟子で海兵隊員のハートマンは、軍の訓練に中国武術を取り入れてもらおうとがんばるが、空手の達人の軍曹ゲッデスは中国人を嫌い、何かとハートマンに辛く当たり、中国武術をバカにして彼の邪魔をする。
さて、仲秋節では、そのゲッデスにそそのかされた海兵隊の武術教官フレイターが白人空手集団を率いて乗り込んできて、チャイナタウンの老師たちを次々に倒してしまう。イップ・マンが登場して、情勢は一転、フレイターをやっつける。一方、イップ・マンと決着をつけるはずだったワンは、突然訪れた移民局員らに無理やり連行されてしまう。移民局の男は、ベッキーの父で、ベッキーはルオナンの髪を切ったハサミで自分で自分の頬を傷つけてしまったのだが、それをルオナンのせいだと泣いて訴え、親バカ親父が権力にものを言わせたのだった。しかし、そこにゲッデスが割り込んできて、移民局からワンを連れ去る。ワンとゲッデスは武術で勝負するが、ワンが負けてイップ・マンの出番となり、ゲッディスとの激しい戦いが繰り広げられる。(ゲッデスも空手家たちも白人の格闘家はかなり強い。それにくらべてチャイナタウンの老師たちがちょっと弱すぎるのが悔しい。イップ・マンは別格、ワンも強かったが、他の老師たちももう少し強くてもいいんじゃないかと思う。) 
ルオナンと知り合うことで思春期の若者の気持ちに触れたイップ・マンは、帰国後、チンを留学させることをやめ、拳法をやりたいという希望を汲んで詠春拳を教えることに決めた。木人で鍛錬する様子をビデオに撮るようにチンに言うところで、余命少ない自分の姿を残しておこうという彼の気持ちが伝わってくる。と思うや、シリーズの数々の場面が映し出されてきて、まんまと泣かされるのだった。
余談:ワンは太極拳の老師なので、いやがるルオナンに太極拳を教えている。摟膝拗歩(ロオシーアオブー)と野馬分鬃(イエマーフェンゾン)という套路の動作を教えているシーンがでてきて、サークル活動で太極拳を習っている身としてはとても興味深かった。

 

  

以下、過去3作品の感想です。2作目は新宿武蔵野館での公開時、1作目と3作目は2018年9月に早稲田松竹で一挙上映したときに見ました。

 

イップ・マン 序章  葉問 IP MAN

2008年 香港/中国 106分
監督:ウィルソン・イップ
アクション監督:サモ・ハン・キンポー
音楽:川井憲次
出演:イップ・マン(葉問 ドニー・イェン)、ウィンシン(張永成 イップマンの妻。リン・ホン)、イップ・チュン(葉準 イップ・マンの息子)、チョウ・チンチュン(周清泉 工場主。サイモン・ヤム)、リー・チウ(李釗 警官・通訳。ラム・カートン)、カム・サンチャウ(金山找 北派武術をやる武館破り。ルイス・ファン)、三浦(日本軍将校。池内博之)、佐藤(渋谷天馬)、コンユウ(周光耀 チョウの息子)、ラム(武痴林 茶館店主。ユンの兄)、ユン(沙膽源 ラムの弟)、リュウ師匠(廖師傅 チェン・チーフイ)

早稲田松竹のイップ・マン3本立てを見る。
3作とも、あの手この手で次から次へとひたすら詠春拳の達人イップ・マンの見事な闘いぶりを見せてくれる映画である。
アクション・シーンは飽きることがない。
イップ・マンは小柄で、美人の奥さんより背が低い。普段は穏やかで茫洋としている。それが、戦いに転じるや気迫に満ちた顔つきになる、そのギャップがたまらない。

1935年の中国広東省仏山市。
イップ・マンは、妻のウィンシンと幼い息子のチュンとともに、大きな屋敷で裕福な暮らしをしていた。仏山は武術のさかんな町として知られ武館が立ち並んでいたが、その中にあってイップ・マンは、詠春拳の達人として町の人たちから師匠と呼ばれ尊敬を集めていた。北部からやってきた武館荒らしのカム一派もイップ・マンの相手ではなかった。
が、日中戦争が勃発すると仏山は日本軍に占領され、イップ・マン一家は屋敷を奪われ、貧しい生活を余儀なくされる。金目のものも売りつくしてしまい、イップ・マンは炭鉱で日雇いの仕事をする。
仏山に駐留している日本軍部隊の将校三浦は、優れた空手家だったため、占拠した道場に武術の心得のある中国人を集めて日本軍兵士と戦わせ、勝ったものには米を与えていた。が、イップ・マンは、米を得るための武闘には加わらなかった
イップ・マンの友人の実業家チョウは、古い工場を買い取り、綿工場を開く。が、カムたちが彼らの製品を運ぶトラックを襲い、嫌がらせをしかけてくる。イップ・マンはチョウに請われて工場で働く人たちに詠春拳を教え、カムたちが再来したときには、彼らを返り討ちにするのだった。
一方、イップ・マンの知人で茶館主人だったラムは、三浦の道場で日本兵3人を相手に戦って殴殺され、また武館主だったリュウ師匠は三浦に敗れたうえ三浦の部下佐藤に銃殺されてしまう。それを知ったイップ・マンは怒りに燃え、10対1の格闘を申し出る。イップ・マンがここで見せる破壊力はものすごい。
イップマンは、大概、パオと呼ばれる詰襟の黒地の中国服を着ている。戦争が始まる前に屋敷でカム・サンチャウが戦いを挑んできたとき、イップ・マンは最初は受けの技で流していたが、攻めに転じるときに腕まくりをした。
日本兵との戦いにおいては、彼は初めから腕まくりをしている。最初から攻撃の姿勢ということで、これは、ラストの三浦との対決においてもそうである。黒地の服に袖の折り返しの部分のみ白い裏地が見えたら、イップ・マンは攻めに出るのだ。
警官から日本軍の通訳になるリー・チウという男が重要な役割を果たす(役者さんはちょっと蟹江敬三風である)。彼は、家族を養うため日本軍の通訳という立場に甘んじていたが、同胞を見殺しにする裏切り者だとイップ・マンに避難されてから、イップ・マンのために動き、一家をかくまう。通訳のくせにちゃんと訳さないのがおもしろい。10人を1人で倒したイップ・マンに三浦は名を尋ねる。イップ・マンは「ただの中国人だ」と答えるが、リーは「彼は葉問です。」と伝えるなど、イップ・マンの攻撃的な言葉をやんわりとした表現に変える。彼はラスト、イップ・マンを助けるため、日本兵を撃ち殺してしまうのだが、そのあとどうなったかわからず、気になる。(2018.9)

 

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イップ・マン 葉問   葉問2 IP MAN2

2010年 香港 109分
監督:ウィルソン・イップ
アクション監督:サモ・ハン・キンポー
音楽:川井憲次
出演:イップ・マン(ドニー・イェン)、ホン(サモ・ハン・キンポー)、ウォン・レオン(ホァン・シャオミン)、ウィンシン(リン・ホン)、カム・サンチャウ(ルイス・ファン)、ワイケイ(ホンの弟子。デニス・トー)、チョウ・チンチュウ(サイモン・ヤム)、チョウ・コンユウ、(チンチュウの息子。カルヴィン・チェン)、ツイスター(ダーレン・シャラヴィ)、ポー刑事(ケント・チェン)、ウォーレス(イギリス人の警察署長。チャールズ・メイヤー)、李小龍(少年時代のブルース・リー

ブルース・リーの師匠、中国武術詠春拳の達人であるイップ・マンの生涯を描く。
1950年、イップ・マンは、広東省佛山から妻子とともにイギリス統治下の香港に移住してくる。知人の新聞社編集長リャンの好意で部屋を借りて武館(道場)を開く。ウォンを始め若者たちが弟子入りしてくるが、みんな貧乏でレッスン代を満足に払えず、イップ・マン家の家計は苦しかった。
イップ・マンは弟子同士の諍いを通して、香港の武館をしきる洪拳の師範ホンと会う。二人は考え方の違いから対立するが、次第に互いの技量を認め合っていく。やがて、イギリス人の警察署長ウォーレスが主催するボクシングの試合でチャンピオンのツイスターが中国武術を侮辱したことから、ボクシング対カンフーの異種格闘技戦が行われることに。イップ・マンは、中国武術の名誉を守るために、対戦者として名乗りをあげるのだった。
ひさしぶりに香港の本格カンフー映画を見た。無駄がなく、ストイックで、ストレートでカンフー・アクションを心ゆくまで楽しめた。
大きな見せ場は4つ。まずは、市場での大乱闘。ホンの弟子たちに取り囲まれたイップ・マンとウォンが、多勢に無勢の戦いを展開。イップ・マンが大きな簀の子を持ち上げ防御しつつ、振り回して武器にしたり、相手の持つ包丁を取り上げ、両手に持って峰打ちで攻撃しまくるのは痛快。
次は、香港で武館を開くためには、他流派の師範たちと戦って、線香が消えるまで持ちこたえなくてならないという掟があり、それに従ってイップ・マンが他の師範たちと勝負をするシーン。飯店の大きな円卓の上で、1対1の対決が行われる。中でもホンとの対決が圧巻。巨体のホンが飛び乗ると、テーブルが大きく傾ぐ。ぐらぐらとした狭い足場での、達人対達人の対決は見応えが有り余る。
そして、四角い本物のリングでのボクシング対中国武術の勝負。最初の勝負は、ホンとツイスター。ホンの誇りをかけた必死の戦いぶりが泣かせる。最後は、イップ・マンとツイスターの戦い。パワーとスタミナで押してくるツイスターと、技で交わし同時に攻撃を食わせるイップ・マンと、二人の戦い方は対照的である。
物静かで穏やかなイップ・マンをドニー・イェンが好演。サモ・ハン・キンポーは、終始険しい表情で笑顔がないのが少々さびしかったが、巨体を動かしての熱演に感動する。映画の冒頭、「動作導演 洪金寶」というクレジットを見たときもうれしかった。
原題に「葉問2」とあるように、本作はイップ・マンものの第2作目。本編終了後に1作目「葉問序章」の予告編の上映があった。日本軍が攻めてきたときの話らしく、池内博之が空手の達人の日本人将校役で出演、イップ・マンと対決するようである。
本作の劇場動員数が5000人を超えると、未公開の第1作も上映の運びとなるとのお知らせが出た。(私が見たのは、新宿武蔵野館です。)(2011.1)
このひと言(No.48):「詠春拳では、攻めと守りを同時に行う。」

早稲田松竹のイップ・マン3本立てで見直す。
1作目の後にみると、チョウやカムとの関わりがわかるので、より楽しめた。
ツイスターとのラストの試合もいいが、やはり私としては、円卓上でのイップ・マンとホンとの対決が最高に盛り上がる。(2018.9)

 

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イップ・マン 継承   葉問3 IP MAN3 

2016年 中国/香港 105分
監督:ウィルソン・イップ
アクション監督:ユエン・ウーピン
音楽:川井憲次
出演:イップ・マン(ドニー・イェン)、ウィンシン(リン・ホン)、イップ・チン(ワン・シィ)、チョン・ティンチ(マックス・チャン)、チョン・フォン(スイ・サン)、チョイ・リク(イップ・マンの弟子。ルイス・チョン)、黄先生(カリーナ・ン)、ポー刑事(ケイト・チェン)、サン(パトリック・タム)、フランク(マイク・タイソン)、刺客(サラット・カアンウイライ)、ティン師匠(レオン・カーヤン)、ブルース・リー(チャン・クォックワン)、新聞記者(ベイビージョン・チョイ)

イップ・マンは、香港で詠春拳の普及に努めていた。
小学生の次男のチンの友だちチョン・フォンの父親チョン・ティンチは貧しい車夫だが、詠春拳のかなりの使い手で、自分の武館を開きたいという望みを抱いていた。
ある日、チンたちが通う小学校が、地上げ屋のサンに狙われる。暴力で学校の土地を奪おうと襲撃してきたサン一味を、イップ・マンと弟子たちが撃退する。それからしばらく、イップ・マンらは夜の見張り番を引き受ける。一方、イップ・マンの妻ウィンシンは体調がおもわしくなく、診察に訪れた病院で癌を宣告される。
サンらは、小学校から子どもたちを攫って、校長を恐喝する。イップ・マンはサン一味のたまり場に乗り込み、子どもを取り戻す。このとき、金のためサンの用心棒を引き受けていたティンチは、イップ・マンに手を貸す。
サンのボスは、香港のデベロッパーで裏ではあくどい稼業を仕切っているフランクだった。フランクは、イップ・マンに刺客を差し向けるが、それも撃退される(せまいエレベーターの中で妻を庇いながら刺客を迎え撃つのがまたかっこいい)。
イップ・マンは単身フランクのオフィスに乗り込み、フランクは1対1の勝負を持ちかける。タイソンとドニーの対決は、二人だけで行われ、地味だが見ごたえがある。
小学校の騒動が落ち着くと、ティンチはサンの用心棒をして得た金で詠春拳の武館を開く。彼の名声は高まり、やがて詠春拳の正統な継承者を決めるため、イップ・マンに対決を挑む。
しかし、イップ・マンは、ティンチの挑戦を無視し、余命いくばくもない妻との時間を最優先する。
妻の死後、イップ・マンは、ティンチの武館を訪れ、二人だけで試合をする。イップ・マンの圧倒的な強さにティンチは敗北を認め、「詠春拳の正統な継承者」であることを謳った看板を自ら叩き割るのだった。
イップ・マンの妻がこのころに亡くなったのは事実らしい。奥さん役のリン・ホイはいつも不満を言うし、夫の達人ぶりをどのように思っているのかよくわからないところもあるのだが、でも、きれいで嫌みがないので、毎回なんか好感を持ってしまう。が、突然の癌の宣告から、不治の病純愛ドラマへの展開には驚いた。詠春拳の正統な継承者を決める大事な試合のときに、妻と社交ダンスに興じるカンフーの達人など、ドニー・イェンならではの役どころだと思った。
ブルース・リーがちょっとだけ顔を見せる。冒頭、イップ・マンに弟子入りしようとして断られ、中盤はダンス好きの青年として登場、拳法での活躍はほとんどない。(2018.9)

 

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