「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の本を読んで映画を見る(感想)

「キラー・オブ・ザ・フラワームーン」の感想

<本>
花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生
Killers of the Flower Moon  The Osage Murders and the Birth of the FBI
デイヴィッド・グラン著(2017)
倉田真木訳 早川書房(2018)
<映画>
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン KILLERS OF THE FLOWER MOON
2023年 アメリカ 206分
監督:マーティン・スコセッシ
原作:デイヴィッド・グラン「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」
出演:アーネスト・バークハート(レオナルド・デカプリオ)、モリーバークハート(リリー・グラッドストーン)、
ジーモリーの母。タントゥ・カーディナル)、アナ・ブラウン(カーラ・ジェイド・マイヤーズ)、リタ(ジャネイ・コリンズ)、ミニー(ジリアン・ディオン)、ビル・スミス(リタの夫。ジェイソン・イズベル)、
ヘンリー・ローン(ウィリアム・ベルー)、ポール・レッドイーグル(エヴェレット・ウォーラー)、ボニーキャッスル種族長(アンセイ・レッドコーン)
ビル・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)、バイロンバークハート(スコット・シェファード)
ジェームズ・ショーン(医師。スティーヴ・ウィッティング)、デヴィッド・ショーン(医師。スティーヴ・ルートマン)、ブラッキー・トンプソン(トミー・シュルツ)、ヘンリー・グラマー(密造酒の元締め・元ロディオスター。スタージル・シンプソン)、ジョン・ラムジー(ティ・ミッチェル)、ケルシー・モリソン(ルイス・キャンセルミ)、エイシー・カービー(ピート・ヨーン)
トム・ホワイト(ジェシー・プレモンス)、ジョン・レン(タタンカ・ミーンズ)、ジョン・バーガー(捜査官。パット・ヒーリー)、バーンズ(探偵。ゲイリー・バサラバ)、
ピーター・リーワード(検察官。ジョン・リスゴー)、W・S・ハミルトン(ヘイル側弁護士。ブレンダン・フレイザー

ネタバレ注意!

もろにネタバレしてます。映画をこれから見る人はそうでもないですが、映画を見てなくてこれから本を読む人は特に注意してください。本の方はミステリ仕立てです。以下の感想文では、いきなり犯人をばらしてます!

 

 

 

 

本を読んで映画を見た。
映画を見る前に本を読み始めたが、読み終えないうちに上映が始まったので、読んでいる途中で映画を見て、そのあと本を最後まで読んだ。本の内容について説明してから、映画の感想を書く。

2018年に早川書房から単行本が出たときは、「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」というタイトルだったが、映画公開が決まって文庫化されたときは映画に合わせ、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生」というタイトルに変更された。最初のタイトルの方が好きなので、単行本を買った。
本書は、1920年5月に、アメリカ、オクラホマ州で起こった2件のオセージ族のインディアン殺人事件に端を発する連続怪死事件の謎を追うノンフィクションである。「花殺し月」とは、オセージの言葉で「5月」を示す。草原で丈の高い植物が生長することによってそれまで咲いていた小さな草花が枯れてしまう月という意味だそうだ。
先住民族であるオセージ族は、かつては広大な地域にわたって暮らしていたが、アメリカ政府によって土地を追われ、最終的にオクラホマ州の一画を居住地とした。ところがその地で豊富な石油が産出され、オセージ族はその利権を得て最も裕福な先住民族となる。が、白人たちはその利権を狙い、あの手この手で彼らの富を奪おうとする。
白人の実業家ビル・ヘイルは甥のアーネスト・バークハートをオセージ族の女性モリーと結婚させ、彼女に一族の利権が集中するよう、彼女の親や姉妹を銃殺や毒殺や爆殺によって次々に殺害する。この事件についての真相究明が本書のメインとなっているが、それ以外にもオセージ族の持つ石油の利権を巡る殺人事件は、オセージ族だけでなく白人の弁護士なども含め、何件にも及び、未解決のままのものも多いということだ。
また、政府は、インディアンは巨額の財産を管理する能力がない無能力者だから財産を管理する後見人が必要だということで、オセージ族の人々は必ず白人の後見人を付け、その承認を得ないと自分のお金を使えないという、偏見に満ちた制度をつくった。そのため、後見人により搾取された額も計り知れないという。映画ではモリーがしばしば後見人を訪ね、その都度自分の名と「無能力者です」と告げるシーンがあるが、この後見人制度についての説明ががないので、本を読んでないと意味がよくわからないかもしれない。
一連の事件究明のため、政府の捜査局本部(FBIという名はまだない)の長官となったフーバーは、オクラホマに特別捜査官を派遣するが、これもオセージ族の請願に応えたというよりは捜査局刷新のためのモデルケースにしたかったという思いが強かったからだそうで、映画のラストにあるFBI宣伝のためのラジオ番組のシーンは原作の本にも出てくる。
本は、3部に分かれ、クロニクル1「狙われた女」では、オセージ族の置かれた状況とモリーの周辺で起こった殺人事件の様子が説明される。クロニクル2「証拠重視の男」では、フーバーの指令により、捜査官トム・ホワイトが登場、事件の真相を追うが、証拠隠滅やデマの拡散など真相を闇に葬るための山のような画策が施されていて捜査は困難を極める。それでもなんとかして真相を突き止めようとするホワイトの捜査をたどることによって、ヘイルとアーネストが犯人として浮かび上がってくるのだが、映画では最初からヘイルとアーネストのたくらみが明かされている。(私は、ちょうど、ここらへんまで読んでから映画を見たので、いきなり犯人のネタバレされてがっかり、という目に合わずに済んだ。)
クロニクル3「記者」では、著者のグランが登場。ヘイルらによる犯罪以外の事件の真相を知るため、現代のオクラホマを訪れ、事件の被害者の子孫に会って取材をする様子が描かれる。

以上のように、本では時系列順に事件を追って謎が究明されていくが、映画では、前述の通り、復員して叔父を頼ってきたアーネストを、ヘイルが自分の企みに巻き込もうとし、モリーとの結婚を促すところから始まる。
本にはない、モリーとアーネストの出会い、結婚、子どもたちの誕生がほのぼのと描かれる一方で、モリーの姉アナ、母リジー、妹リタとその夫ビル・スミス、妹ミニーが次々に殺されていく。
デカプリオは、当初考えられていた正義の味方の捜査官の役でなく、女好きで不甲斐ない男、妻のモリーと子供たちを愛しながらも義母や義姉妹の殺人計画に加担する、二面性を持つ男アーネストを、とことん突き詰めて演じている。彼のアーネストをたっぷりと見られるのが、この映画の主なみどころではないだろうか。デ・ニーロの悪ボスぶりはデ・ニーロなのでこれくらいやるだろうという感じ、モリーやアナやリジーやヘンリー・ローンなどのオセージ族の人々、ヘイルに使われるブラッキーラムジー、モリソンら実行犯らを演じる俳優たちもよかった。
が、衝撃的な爆破シーンはあるものの、ほかの場面は大方たんたんと描かれ、筋立てにはあまり起伏がないので、3時間越えは長かった。映画を1本見たというよりは、連続ドラマを4、5話続けて見たような印象だ。
舞台はオクラホマだが、西部劇の雰囲気はあまり感じられない。冒頭の石油掘削機がぽつぽつと点在する荒野の風景を除けば、町と室内のシーンが多く、牧場は柵で囲まれて多数の牛馬がひしめいているし、西部の野外の広々とした空間を感じさせる画面はあまり出てこない。空撮はあるが、空から荒野を見下ろすのは西部劇っぽくない。トム・ホワイトについても、原作では、父親が西部の保安官兼死刑執行人であったことや本人も元テキサスレンジャーで生粋の西部男であることが詳しく語られるが、映画では彼の素性についてはあまり触れられない。モリーが「帽子をかぶった男」が来る夢を見たというところがあり、これはつまりスーツにソフト帽の都会の捜査官ではなく、ステットソン(カウボーイハット)をかぶった西部男を意味するのだが、それについてもあまり説明はない。映画全体を通して、どうもあえて西部劇的な描写を避けているのではないかと思えるのだった。

 

kotfm-movie.jp

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