話題のフレンチ・ミステリ「その女アレックス」を読む

その女アレックス  ALEX
ピエール・ルメートル著(2011年)
明美訳 文春文庫(2014年)

★ダイレクトではないけれど、なんとなくわかってしまうかもしれない感じでネタばれあり★
週刊文春2014年ミステリーベスト10」などで1位を獲得した、話題のフレンチ・ミステリ。
猟奇的な内容あり、作者による画策ありで、賛否両論、駄目な人は駄目らしい。アクションやハードボイルドは好きだけど、猟奇殺人や監禁ものにさほど興味があるわけではないので読もうかどうかちょっと迷ったのだが、これはこれで面白かった。アレックスが強烈だった。
一部では、アレックスという30歳の美女が突然誘拐され、窮屈な木製の檻の中に監禁される事件が起こる。警察は、目撃情報をもとに捜査を進めるが、犯人はおろか被害者の身元をつかむこともできない。やがて犯人が特定されるが、被害者のアレックスは自力で脱出を図ったあとだった。
二部では、一部の内容を受けた、猟奇的連続殺人の様子が、犯人側と警察側との両方から交互に描かれる。
三部では、警察により、一連の犯行の謎解きが行われる。
語り口は一方的で、作者のやりたい放題である。これを公明正大さに欠くというミステリファンもいるようだが、本格推理とは捉えず、小説は作家のもの、錯覚やミスリードを招くのもねらいのうちと思って読めばいいかと思う。本の紹介文やアマゾンなどの書評を読めば、騙しがあることはわかるので、最初から地の文を鵜呑みにせず警戒しながら読み始めたのだが、途中から勢いに押されてほぼ流れに身を委ねてしまった。例えば犯人は、なぜ、トゥールーズへ行き、パリに戻り、ドイツ行きトラックに乗り、そしてまたパリへ戻ってきて、スイス行きの航空券を買ったのか。読みながら感じた違和感をきちんと突き詰めれば、途中で真相は予測できるかもしれない。痛いのや苦しいのが苦手だと辛いかもしれないし、酷い話ではあるが、勢いがあって力強かった。善悪とか道徳観念とかお構いなしに、強烈なキャラクターとサスペンスでぐいぐい押していく感じがよかった。
ただ最後は、捜査陣がああいう人たちだったからいいものの、身も知らぬ警官に大事な結果を委ねすぎではという気がする。
そのパリ警視庁犯罪捜査部の捜査陣が個性的。班長カミーユ・ヴェルーヴェン警部は、有名な画家を母に持ち、しかもその母が妊娠中に禁酒しなかったせいで発育不良となり身長が145センチしかない、さらに最愛の妻を誘拐殺人事件で亡くして心に傷を負っている。その彼を気遣う部長のジャン・ル・グェンは肥満の巨漢、部下はおしゃれで人好きのするイケメン富豪刑事ルイ・マリアーニと貧乏人根性丸出しの刑事アルマン。この4人の組み合わせはマンガみたいだが、そのおかげで話の悲惨さが緩和されているように思う。カミーユが最後に「正義」を口にすることに異議を唱える声があるようだが、いやいや、ここで正論を持ち出すのは野暮な話、してやったりの感情論で構わないだろうと私は思った。

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)