映画「誘拐の掟」を見る(感想)

誘拐の掟 A WALK AMONG THE TOMBSTONES
2014年 アメリカ 114分
監督・脚本:スコット・フランク
原作:ローレンス・ブロック「獣たちの墓」
出演:マット・スカダー(リーアム・ニーソン)、ケニー・クリスト(ダン・スティーヴンス)、ピーター・クリスト(ボイド・ホルブルック)、TJ(ブライアン・アストロ・ブラッドレー)、ルシア(ダニエル・ローズ・ラッセル)、レイ(デヴィッド・ハーパー)、アルバート(アダム・デイヴィッド・トンプソン)、ジャナス・ローガン(オラフル・ダッリ・オラフソン)

★ネタバレあり!★

元刑事でアル中だった探偵マット・スカダーが、麻薬ディーラーの家族の女性を狙う2人組の凶悪犯と対決する。
原作は、ローレンス・ブロックのスカダーを主人公とするハードボイルド・シリーズ長編10作目「獣たちの墓」。好きなシリーズだが、原作を読んだのはだいぶ前なので、あまりよく覚えていない。前作「倒錯の舞踏」に続き、猟奇殺人を扱った作品で(これとさらにその前の「墓場への切符」を合せて倒錯三部作というらしい)、全体に暗いトーンのシリーズにおいても特にハードな内容の一作だったような記憶がある。原作では、やがてマットの助手となる少年TJが登場する回であり、彼の存在が重たい空気を和らげていたように思う。映画でも、やはり二人の出会いとやりとりにはちょっとほっとさせられたのだった。
スカダーは、AAA(アルコール依存症者の協会)の会合で知り合ったピーターから、弟のケニーを紹介される。ケニーは、妻を誘拐され、犯人に身代金を払ったのに、妻は惨殺死体となって返されてきた。ケニーは実は麻薬仲買人をしているため警察に届け出ることができず、スカダーに犯人を捕まえてほしいと依頼してきたのだ。
スカダーは、警官時代、酔っぱらって強盗犯を追い、自分が撃った銃弾が跳弾となり、たまたま通りに居合わせた少女(原作では、エストレリータ・リヴェラという印象深い名を持っている)を死なせてしまった過去を負っている。私立探偵のライセンスも事務所も持っていなくて、刑事時代の技能を活かして、知人のつてで頼まれた仕事を引き受けるという、商売としてはゆるいやり方をしている。
マットは、被害者の足取りを追い、似たような殺人事件の記事を調べ、捜査を進めていく。やがて、二人組の犯人像が浮かんでくる。そして新たな事件が起こる。ケニーの知り合いの麻薬ディーラーの14歳の娘ルシアが誘拐され、犯人が身代金を要求してきたのだ。ルシアを生かして返すため、マットは犯人との交渉に挑む。この電話での緊迫したやりとりが、大変いい。
続く、人質奪還と銃撃戦は、墓場で行われるところがいい。
最後に、マットとケニーは、TJの機転によって、逃走した犯人の住居を突き止める。マットは生き残った犯人の1人アルバートをケニーに委ねる。が、ケニーは犯人に反撃され、マットとアルバートの対決となる。
銃を持たず、地道な捜査で犯人を突き止めていくマットは、落ちぶれてはいるものの、筋を通し、人の痛みがわかる男として描かれている。犯人らの猟奇的で非道な犯行を知って一度は断った依頼を引き受けたり、宿なしの少年TJを気にかけたり、TJが盗んだ拳銃を横倒しに構えてみせるとダメ出しをするのもいい。映画全体の雰囲気は、渋く、暗く、事件は陰惨であるが、味わい深い作品になっていると思う。

原作との違い:エレインが出てこない。エレインは、マットの友人の高級娼婦で、この回で2人の仲は進展し、やがて結婚することになるらしい。(それがわかる回は未読なので伝聞による。) 原作では、生存している被害者がいることを突き止めたマットが、エレインとともにその女性に会って話を聞くシーンがあった。エレインは女性が自分と同業であることに気づく。
また、映画のケニーはイケメン青年だが、原作ではケニーにあたる人物はアラブ系のもうちょっと年配の男だったように思う。彼は、「目には目を」という信条の下、復讐を果たすためには犯人に妻と同様の苦痛を与える必要があるということで、嘔吐しながらも犯人を切り刻んでいく。ハードな展開だったので覚えているし、マットは、どちらかというと、警察や法に委ねず、悪は当事者が自分で成敗するという方向に向いていたように思う。

関連作品:「800万の死にざま」(1986年。監督:ハル・アシュビー、主演:ジェフ・ブリッジス

誘拐の掟 [DVD]

誘拐の掟 [DVD]

獣たちの墓―マット・スカダー・シリーズ (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

獣たちの墓―マット・スカダー・シリーズ (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)