川を下るひな人形 「田園に死す」

もうすぐ桃の節句
この季節になると、毎年ひな人形を出すのがひと苦労だ。
狭い家に七段飾りは大きすぎる。娘たちが大きくなって子ども部屋にいろんなものが増えてから、うちでは七段の骨組みを組み立てるスペースがなくなり、あちこちに分散して飾っている。リビングの出窓にお雛様とお内裏様。玄関の靴箱の上に三人官女と五人囃子。階段に右大臣左大臣。子ども部屋のタンスの上にお道具一式。といった案配。

ひな人形が出てくる映画というと、そんなに思いつかないのだが、はっきり覚えているのが寺山修司監督の「田園に死す」。
詩人寺山修司の自伝的作品と言われ、作者の分身と思われる少年が色鮮やかな抽象画のような世界を徘徊する。シュールな画面が脈絡なく続く不思議な映画だった。こういった類のものはあまり受け付けない私が、なぜか最初から引き込まれ、最後まで心地よく画面を楽しんだ。一回しか観ていないのに、好きな映画だと言い続けている。
例によってあまりくわしく覚えていないのだが、具体的に残っているイメージのひとつが、ひな人形の川下り。
突然、ひな人形が川を流れてくる。それも七段飾りごと。
どん、どん、という太鼓囃子のようなリズムにのって、ただ流れてきて流れ去る。
一瞬のシーンなので、ひな人形の映画とは言い難いのだが、印象は強烈だった。