ギムレットには早すぎる 「ロング・グッドバイ」
瞳の色を変えることはできない。
「ギムレットを飲むには少し早すぎるね」と彼は言った。
(レイモンド・チャンドラー作・村上春樹訳「ロング・グッドバイ」から)
レイモンド・チャンドラーの傑作「長いお別れ」。銀髪の青年テリー・レノックスと私立探偵フィリップ・マーロウの、長きにわたる関わりあいが、ほろ苦くも心地いいい探偵の一人称で語られる。
この作品が、村上春樹の新訳でちまたを賑わせている。今回の邦題は、原題のまま「ロング・グッドバイ」。
朝日新聞の書評によれば、「ハードボイルド」というよりは、「文学」作品扱いで、解説でも「ハードボイルド」という言葉は故意に避けられているらしい。さらに同書評によれば、最近、ハードボイルドは低調気味、「男のハーレクイン」などとも呼ばれているという。「男のハーレクイン」てのは、ある意味言い得ているところもあるかもと思えなくもないが、たいして読んだこともない人がそれでわかったような気になったとしたら、それはそれで腹立たしい気もする。
とにかく、書店に行くと新刊コーナーには村上訳の「ロング・グッドバイ」が平積みされ、文庫本の一角では、清水俊二訳のチャンドラー作品がフィーチャーされている。これを機にハードボイルド小説が、活気を取り戻してくれるなら何よりだ。
ちなみに、冒頭に引用した有名すぎる一節について、清水俊二訳「長いお別れ」では、
人間の眼の色はだれにも変えることはできない。
「ギムレットにはまだ早すぎるね」と彼はいった。
となっている。原文は、以下のとおりだ。
Nobody can change the color of a man's eyes.
"I suppose it's a bit too early for a gimlet,"he said.
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