映画「ジャンパー」を見る

アメリカの田舎町に住む高校生のデヴィッド(ヘイデン・クリステンセン)は、5歳の時に母が失踪して以来、自堕落な父(マイケル・ルーカー)と二人で暮らしていた。ある日、彼は突如としてテレポーテーション(空間瞬間移動)の能力に目覚める。氷の裂け目から湖に落ちておぼれかけた時、一瞬のうちに図書館に移動したのだ。
彼は家を出てニューヨークへ行き、銀行の金庫に跳んで大金を奪う。以後は「ジャンパー」としての能力を使って、優雅な生活をして過ごすようになる。ロンドンのビッグベンの時計台からエジプトのスフィンクスの頭上へ。自由自在に世界各地を飛び回る。
やがて、幼い頃から思いを寄せていたミリー(レイチェル・ビルソン)と再会し、彼女を念願のローマ旅行に誘う。
しかし、その旅先で、彼は「ジャンパー」抹殺に異様なまでの執念を燃やす謎の組織パラディンの存在を知ることになる。ベテランのハンターであるローランド(サミュエル・L・ジャクソン)が、デヴィッドを執拗に追い始める。デヴィッドは、同じ能力を持つ青年グリフィンに出会い、彼に協力を求めるが、ずっと一人で戦ってきたグリフィンは、デヴィッドの申し出を受けようとしなかった。(グリフィンを演じるのは、「リトルダンサー」で主演の少年を演じたジェイミー・ベル。やさぐれた感じがなかなかよい。)
デヴィッドがグリフィンを説得しようして彼につきまとい、二人が口論しながらころころと場所を変えていくところが、おもしろい。グリフィンは、東京へ跳び、車を盗み、車ごとアメリカのハイウェイに戻ってくる。新宿や渋谷の街並みが出てきて、二人が連れ立って見覚えのある交差点を渡ったり、地下鉄連絡通路を歩いたりしているのを見るのは、なんとなくうれしい。
アクションシーンでは、さらにめまぐるしく空間が入れ替わる。ジャンプした後に残る空間の裂け目を通ってローランドは彼等を追ってくるし、グリフィンはロンドンの二階建てバスごと氷原に突っ込んでくる。激しい格闘をしながらあちこちの空間に跳ぶのだが、あまりに速くてどこがどこだかわからなくなる。わくわくするが目が回る。
重たそうな金属の箱を持ち歩き、電線を巻き付けてジャンパーの動きを封じるバラディンのハンティングの様子は、情け容赦がなくてまがまがしい。彼等がなぜここまでジャンパーたちをつけねらうのかは不明であり、デヴィッドの母メアリー(ダイアン・レイン)の存在も謎のままだ。
しかし、暗い因縁じみたものをにおわせつつも、映画の印象は軽い。
デヴィッドは、その希有な能力を、自分のためにしか使わない。テレビのニュースで、洪水のため中州に取り残されて救援を待つ人々の様子を見ても、なんの反応もみせない。おまえなら助けにいけるだろっと、突っ込みたくなるが、人助けをしようなどとは全く思い及ばないようである。それはそれで新鮮ではあるが、なんかの事件に絡むとか、アクション映画として盛り上がる筋立てがもうちょっとあってもよかったような気はする。
「ジャンプ」の特殊効果は大画面で見ると楽しいし、やたら長尺映画の多い昨今において1時間半という短さは支持したいところだが、登場人物と彼等の状況を紹介するテレビシリーズの第1回スペシャル版といった感で物足りなさは残る(続編はできるのだろうか)。