映画「次郎長三国志」(2008年)を見る

マキノ雅弘監督が二度に渡って手がけた「次郎長三国志」シリーズを、甥の津川雅彦マキノ雅彦名義でリメイク。
1952〜4年の小堀明主演のシリーズは9本、1963〜5年の鶴田浩二主演のシリーズは4本あり、原作は文庫で上下2巻。無名だった次郎長が、個性豊かな乾分たちと出会い、喧嘩の仲裁や旅をして売り出し、徐々に親分としての貫禄を身につけていく様子が描かれている。それを2時間ちょっとで描こうという意欲作だ。
映画は、次郎長(中井貴一)がお蝶(鈴木京香)と祝言を上げるところから始まる。乾分たちに祝福されての祝言だったが、捕り方に追われ、新妻を残して旅発つことに。
次郎長はすでに清水に一家を構え、親分としての貫禄もついてきている。売り出すきっかけとなった庵原川の喧嘩の仲裁や、森の石松温水洋一)との出会いは、回想シーンで登場する。
旅から戻った次郎長は、相撲大会と花会という初めての興行を成功させる。が、もめ事から凶状持ちとなり、またしても乾分たちと旅に出るはめになる。今度はお蝶も旅の一行に加わるが、道中のきつさに耐えきれず途中で倒れてしまう。
お蝶との別れに続き、クライマックスでは、裏切り者である保下田の久六(蛭子能収)の家への殴り込みと、法印大五郎(笹野高史)と石松が宿敵として追う三馬政(竹内力)との闘いが描かれる。津軽三味線の豪快な音色をバックに、股旅姿で勢揃いした次郎長一家の道行きは、カラフルで美しい。
中井貴一の次郎長はじめ、配役は悪くない。適度にユーモアを効かせ、男を見せるところは見せて、泣かせるところはたっぷり泣かせて、飽きさせない。
原作では、赤平のところから力士を連れて逃げてくるのは追分の三五郎、密偵が得意なのは森の八五郎、石松の通訳をするのは大野の鶴吉、で、小政こと浜松の政五郎は、人付き合いの苦手な剣客ということになっているが、本作では、これらの役回りを全て小政が引き受け、追分けの政五郎と名前も変えてある。この小政を、北村一輝が、女好きのする食えない男前に演じて、危ない雰囲気を漂わせている。
が、全体的に、活きの良さということでは物足りなかった。こいつ、めちゃくちゃやりよるとあきれかえるようなやつは出てこない。マキノ雅弘監督による最初のシリーズの田崎潤のイメージが強すぎるのかも知れないが、桶屋の鬼吉(近藤芳正)には棺桶を担いでほしかった。中井の次郎長はかなりいいが、いざとなったら何をするかわからないといった危険な感じはあまりなく、お蝶とのやりとりはひたすら甘い。お園(木村佳乃)は、原作では豪快な大女なのだが、ここでは夫の無事を祈る普通の美人妻になっている(原作では佐太郎ではなく、小松村七五郎の妻)。
女たちのシーンは総じて時間を十分に使って丁寧に描かれている。女性客へのサービスなのかも知れないが、個人的には、次郎長と言えば博打と喧嘩。次郎長の乾分はいざとなったらこんなに強いというところをもっとたくさん見てすかっとしたかったし、旅人が草鞋を脱ぐときの軒下の仁義や賭場で行われる博打の様子なども、久しぶりなので、もっとじっくり見たかったと思う。

次郎長三国志(上) (角川文庫)

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次郎長三国志 [DVD]

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