映画「おろち」を見る

*ネタバレあります*
1970年ごろに少年サンデーに連載された楳図かずおの漫画を、脚本高橋洋、監督鶴田法男で映画化。
29歳になると顔や手足に鱗状のものができ、やがて醜く崩れていくという呪われた家系にある門前家の姉妹と、彼女たちを見守る謎の存在、おろち(谷村美月)。登場人物は主にこの3人の美女と脇役の男二人(嶋田久作山本太郎)、舞台はほとんどが門前家の屋敷の中である。
時は昭和。話は、有名女優である門前葵(木村佳乃)が29歳の年に始まる。葵には、一草(かずさ)と理沙という二人の幼い娘がいた。嵐の夜、門前家に入り込んだおろちは、二人の姉妹と、「変化」の兆候が現れ始めた葵の様子を見守るが、突然の睡魔に襲われ、門前家を後にする。
再び彼女が目覚めたのは、それから20年後、佳子(谷村美月)という自分と瓜二つの少女の中で意識を取り戻す。佳子は、流しの夫婦に拾われ、盛り場で歌を歌わされて日々を過ごしている不幸な少女だったが(佳子が居酒屋で「新宿烏」という歌を歌うところはいい)、ある目的のため、理沙がお手伝いとして門前家に引き取ったのだった。佳子/おろちは、母親の葵と瓜二つに成長しやはり女優となった一草(木村佳乃)が、29歳を迎える恐怖に怯え病んでいく様子を目にする。精神の均衡を崩しつつある一草は妹の理沙(中越典子)を虐待するが、理沙はそんな姉の仕打ちに耐え、献身的につくすのだった。
冒頭、嵐の夜にふいに現れ、「私はおろち。」ときっぱりと名乗る少女。原作を読んでいない私は、話に聞いてはいたものの、それでも「誰。」と思ってしまった。
このおろちの正体は謎のまま。彼女の目を通して描かれる母親と姉妹の話は強烈すぎて、いつのまにかおろちの目を通していることを忘れてしまう。佳子/おろちになってからは、なぜおろちが佳子なのかわからないまま話が進み、佳子がのぞき見る門前家というシチュエーションもまた姉妹の話の強烈さにすぐ片隅に追いやられてしまう。やがておろちはおろちとして門前家に現れるが、話の途中で去ってしまうので、彼女はなんなんだという謎はやっぱり残る。赤いコートに黒いブーツというコスチュームが放つ存在感は、彼女が人間ではない何者かであることをあまり感じさせない。確実にそこに在る者でしかもさほどすごいことはできそうにない、ほんとに見守るだけなんだなということが伝わってきて、でも、それはそれで悪くないと思った。
で、姉妹の壮絶なやりとりは、おろちとはあまり関係なくエスカレートしていく。
血液交換のシーン。一瞬わからないのだが、すぐに無茶苦茶なことをやっていると気づく。さらに「こ、この反応は!?」とあわてふためく西条(嶋田久作)。医者なら事前にしっかりチェックしろよと突っ込みたくなる、ナイスなぼけぶりだ。
自らを傷つける女。とんでもない秘密を暴露する女。腹を抱えて笑うという仕草をとても久しぶりに見た気がする。ここはとても怖いが、同時にとても痛快だ。特に恨みがあるわけではないのに彼女とともにしてやったりと思う自分の中の心の闇に気づいて愕然としつつも、それでもやっぱり痛快なものは痛快なのだった。
原作では18歳だった運命の年齢を29歳まで引き上げたのは時代に合っているように思える。ともにそれぞれの時代において一般に(あるいは世の男性から)考えられている女性の美しさのピークを表しているのだろうか。美への執着は、今も昔も変わらないかもしれないが、中でも女優という身上を選んだのはさすがで、何度も繰り返し映写される白黒フィルムの映像は、かたかたという映写音とともに強く印象に残る。

おろち [DVD]

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おろち 1 (ビッグコミックススペシャル 楳図パーフェクション! 4)

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