映画「スプリット」を見る(感想)

スプリット SPLIT
2017年 アメリカ 117分
監督・脚本:M・ナイト・シャマラン
出演:ケビン/バリー/デニス/パトリシア/ヘドウィグ/ビースト?/他(ジェームズ・マカヴォイ)、ケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)、クレア(ヘイリー・ルー・リチャードソン)、マルシアジェシカ・スーラ)、ドクター・カレン・フィッチャー(ベティ・バックリー)、デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)、ジャイ(フーターズ好きの男。シャマラン)

★ネタバレあります!!!★

シャマラン監督が、DID(解離性同一性障害)の男を犯人に据えた女子高生誘拐・監禁事件を描く。
3人の女子高校生が見知らぬ男に誘拐され、窓のない部屋に監禁される。犯人が多重人格者であることはすぐ明かされる。女子高校生たちは脱出を試み、男のかかりつけのドクターは面会に来た男の様子がいつもと違うことに気づく。
映画は、男の住まいとドクターの事務所兼住居のほぼ二つの建物内部のみを舞台として、進行していく。男の住まいは、コンクリートむき出しで、長い廊下に沿って部屋がたくさん並んでいて、窓がない、ちょっと不可思議な建物である。建物の外景はずっと示されず、いきなり拉致されてきた女子高生らと同様、見る側も閉塞感が高まる。もうひとつの場所、一人暮らしの老女であるドクター・フレッチャーの家は、マンションの高層階にある。らせん階段が何度も映し出される。
主な登場人物は、犯人の男と女子高生3人とドクターの5人だけ、でも男の中にはいくつもの人格があって彼らが入れ替わり立ち代わり登場する。男はケヴィンという名だが、3人を誘拐したのは潔癖症で用意周到なデニス、ドクターと面会するのは服飾関係の仕事をしていて物腰柔らかなバリーである。ほかにデニスと仲のいい女性のパトリシアと、9歳の少年ヘドウィグなどがいる。バリーからデニスに変わるマカヴォイの顔の演技(顔芸と言っては軽すぎるか)はかなりおもしろい。そしてドクターも知らない24番目の人格ビーストが誕生する。女子高生3人はビーストの生贄として拉致されてきたのだとパトリシアは言う。
浅はかではあるが、前向きに脱出を試みるクレアとそれに協力しようとするマルシア、しかしケイシーはあまり動こうとしない。ケイシーは普段から一人でいてみんなに打ち解けない娘なのだが、合間合間に彼女の過去が挿入される。狩猟好きの父に連れられて狩りにいった記憶。ケイシーは銃が扱えるという前振りにとどまらず、不穏な雰囲気の叔父が登場し、父親の死後彼に引き取られた彼女が虐待を受けてきた厳しい現実が示されていく。
映画には、デニス「たち」による犯罪の進行と同時に、母の虐待に耐えるために自分の中に多くの人格を誕生させたケヴィンと、すべてを諦め受け入れていた生活から逃れようとするケイシーの、二人のドラマが盛り込まれている。「シビル」「24人のビリー・ミリガン」などを読んだことがあり、多重人格について多少記憶が残っていたので、完璧を求める母の虐待からケヴィンを守るため、なんでもそつなくこなすデニスはケヴィンが3歳の時に生まれたという話が、わりとすっと頭に入ってきた。みんなのまとめ役のバリーが立場を侵食されていき、それをドクターも察するのだがすでに手遅れだったという展開である。
ビーストとはなんなのか、実在するのか、という謎が彼が正体を現すことで明かされるが、それにより、物語は複雑な精神世界の話から一気にサスペンス・ホラー・アクションの様相を呈してくる。迫ってくるビーストに対し、ケイシーはショットガンを向ける。
救助され、パトカーで待つケイシーに、叔父が迎えに来たと女性警官が告げに来る。家に帰ればまたひどい境遇が待っている。ケイシーは、呼びに来た警官をじっと見る。この警官が女性であることが大事で、今まですべてをあきらめていたケイシーが、未来を切り開こうとしているのではないかということが暗示される。
格調の高さと俗っぽさの混じりあいを絶妙と感じるか、唖然とするか。私は絶妙と感じた。シャマラン監督による低予算映画ならではの味わいが、個人的にかなりツボである。

ラストは次回作告知のおまけつきで、意外な人が顔を見せるが、「アンブレイカブル」を見ていないのでピンと来なかった。