映画「いぬむこいり」を4時間かけて見る

いぬむこいり
2017年 日本 製作:ドッグシュガー 公開:太秦 4時間(245分)
監督:片島一貴
主題歌:「カオス」勝手にしやがれ
出演:二宮梓(有森也実)、アキラ(武藤昭平)、奥本健吉(柄本明)、沢村芳雄(石橋蓮司)、堅(笠井薫明)、鈴木海老蔵市長(ベンガル)、レイコ(江口のりこ)、ユリナ(尚文)、翔太(山根和馬)、花子(韓英恵)、米兵(パスカル・クロード)、ナマゴン(PANTA)、卑弥呼緑魔子

★ネタバレあります★

4時間の長尺である。私は、理想的な映画の尺は100分以内と常々思っているので、2時間半超える映画は内容にかかわらず腰が引けるのだが、監督の片島さんは、大学時代のシネ研の先輩、Facebookで、「いぬむこいり」ページの更新お知らせを目にするたびに、「俺がこれだけ気合入れて撮ったんだから、おまえの4時間を俺にくれよ!」と、昔と変わらぬ口調で言われているような気がして、見に行ったのだった。
先に見た知人からは、あまり長さを感じなかったよという感想を耳にしていたのだが、やっぱり4時間は長かった。でも、最近は、主にマンガを原作とする映画において1つの作品を2つに分けて作る傾向がみられ、中でも「進撃の巨人」など1本分の内容を無理に2本に分けているようでなんだかなあと思っていたのだが、それに比べればこれだけのものを1本として一気に見てくれという姿勢は潔いと思った。
冴えない中年女性の自分探しの旅に、革命と戦争が絡んだ、犬婿伝説ファンタジーである。
4章構成で、1章「悪意とお告げ×東京」、2章「ゲバラとレノン×沖之大島」、3章「犬男×無人島」、4章「戦争×伊藻礼(イモレ)島」というタイトルがついている。
東京の小学校教師の梓は、唐突に神のお告げを受け、宝物を求めて沖之大島の近くにあるというイモレ島を目指す。が、沖之大島で詐欺師のアキラに持ち物を盗まれ、奥本という老人が営む三線屋に住み込みで働くこととなる。その後、島を牛耳る悪徳市長を倒そうとする革命グループのリーダー沢村(奥村とは旧知である)に押されて市長選に立候補する羽目になりと、話はヘンテコな方向に進んでいく。お告げが梓に示したイモレ島では、ナマ族とキョラ族が70年もの間戦争を続けていて、沢村はそのナマ族に武器を売って活動資金を稼いでいるのだった。彼の取引を横取りしようとするレイコとユリナの小悪党カップルが登場し、さらに沢村率いる革命集団、沢村の息子の堅とバンド仲間、市長のバカ息子とその取り巻き、梓の支援ボランティア、市長の支持者らなど、たくさんの人々が顔を出すが、結局梓は選挙に負け、沢村は選挙法違反の罪で逮捕されて拷問され、奥本は抗議の焼身自殺を図るという割と凄惨な展開となる。後半に入り、梓は、危険を承知でアキラとともに船でイモレ島を目指すが、嵐に遭って遭難、無人島に漂着する。彼女は島に1人でいた青年翔太と暮らし始めるが、翔太はナマ族の王子であり、実は犬男だった。普段は菜食主義でおだやかな性格の翔太だが、犬男に変身すると獰猛な肉食動物(食欲的にも性欲的にも)と化すのだった。そこに翔太の許嫁の花子が現れて三角関係になったり、オスプレイが不時着して瀕死のアメリカ兵を助けたりとまたまたヘンテコな展開があるが、結局やっぱり梓は一人でイモレ島を目指す。イモレ島にたどり着いた彼女はナマ族の王ナマゴンの保護を受け、アキラと再会する。激しい戦闘が続く中、梓はお告げの宝物を求めて、アキラとともに犬神が祀られる島の聖地を目指す。そのとき彼女のお腹には翔太の子どもが宿っていたのだった。
雑多な話やイメージが入り乱れての4時間である。あれはなんだったのかと突っ込むとキリがないし、理論的な解釈は苦手なので、目に入ったものをそのまま見て楽しんだ。
鹿児島県の指宿市を主としたロケ地の風景が美しい。特に無人島の廃墟がとてもよい。
登場人物が海に落ちたり、イモレ島でのシーンではひっきりなしに雨が降っていたり、とにかく後半は人がよくびしょぬれになる、そこに作り手側の並々ならぬパワーを感じた。
話はずっと梓を追っているのだが、彼女に絡むアキラ役の武藤昭平が魅力的だった。特にラストは、愛する女を守ろうとして守り切れない男の切なさがひしひしと伝わってきて、とてもよかった。それは「たとえば檸檬」の伊原剛志にも(言ってしまえば片嶋さんが学生時代に撮った8ミリの自主製作映画などでも)感じられたものだ。(「アジアの純真」を始め他の作品はあまり見ていないのでわからないのだが。)
アキラは、前半は、軽薄だけど憎めないペテン師として登場し、梓の夫を自称したいかがわしさ丸出しの選挙支援要員となるが、後半は、キョラ族に捕虜として捕らえられ脱走して、ナマ族の兵士となる。梓との関係では、似非夫からやがて本当の夫らしくなり、最後は血のつながらない異形の子の父親となっていく未来を思わせて映画は終わる。このアキラの身の上の変遷を見るのはおもしろく、そしてそれは4時間という長丁場を経ないと味わえなかったのではないかと思う。

いぬむこいり公式HP
http://dogsugar.co.jp/inumuko.html