映画「グレートウォール」を見る

グレートウォール  長城 THE GREAT WALL
2016年 中国/アメリカ 103分
監督:チャン・イーモウ
出演:ウィリアム(マット・デイモン)、トバール(ペドロ・パスカル)、バラード(ウィレム・デフォー
リン・メイ隊長/将軍(ジン・ティエン)、ワン軍師(アンディ・ラウ)、ポン・ヨン(ルハン)、シャオ将軍(チャン・ハンユー)、ウー隊長(エディ・ポン)、チェン隊長(ケニー・リン)、ドン隊長(ホアン・シュアン)、皇帝(ワン・ジュンカイ)

★ねたばれあります!★

万里の長城という雄大な建造物を題材に、豪快にでっちあげられた、ファンタジー・歴史アクション。昨年、中国を訪れ、長城の上を実際に歩いてその雄大な景色に大いに感じ入ったので、長城目的で見に行った。
西欧の傭兵ウィリアムとトバールは、中国にあると言われる黒色火薬を手に入れて一儲けしようと部隊を組んで旅をするが、中国との国境近くで馬賊の襲撃に遭ったうえに、謎の怪物に襲われ、二人だけになってしまう。二人は、国境に築かれた巨大な壁(長城)の砦に駐留している禁軍に捕らえられる。禁軍は皇帝直属の軍で、彼らは60年に一度やってきて国を食い荒らす恐ろしい怪物、饕餮(とうてつ)の大群の襲撃に備えているのだった。ウィリアムらを襲った怪物がそれであり、一人で怪物を倒したウィリアムは戦士として一目置かれることになる。(後でそれは磁石の影響もあったことが明かされるが。)
時代は、解説では宋朝(960年〜1279年)とある。ウィリアムは黒色火薬を求めて中国に来ているのでまだ火薬が西欧に広まっていない時代であり、また彼はフランク王国(481年〜987年)で戦ったことがあると言っていることから、10世後半くらいかと推測される。武器は剣と弓と投石器である。
チャン・イーモウ監督は、「HERO英雄」などで極彩色の衣装が宙を舞う活劇を見せてくれたが、本作でもそれぞれの役目によって色分けされた部隊が登場する。これらの部隊は否が応でも黒澤明監督の「乱」における風林火山の軍隊を思い出させるが、公式HPのニュースによれば、この軍隊のデザインや色は中国の歴史伝統に基づいているという。「強さと工学知識を兼ね備えた猛虎軍団“虎軍”」は黄、「鷲のごとく鋭い矢を放つ射手隊 “鹰軍”」は赤、「歩兵と騎兵の混合部隊で機動力自慢の“鹿軍”」は紫、接近戦を得意とする五軍中最強の“熊軍”」は黒、そして、「鶴のように舞い華麗に敵を駆逐する“鶴軍”」は青である。
この鶴軍の兵士は全員女性であり、長城の天辺からバンジージャンプのようにロープを腰に巻いて飛び降り、地上にいる怪物たちを撃退する。「進撃の巨人」の「立体機動」を思い出させる戦法であるが(「壁」で怪物の侵入を防ぐというのも「進撃の巨人」ぽい)、飛び降りた彼女らが腰に付けた「輪」だけが血痕とともに引き揚げられ、砦の隅に積み重ねられていくのをウィリアムが目撃する場面などはなんとも悲壮である。
軍を指揮する将軍があっさり死んで、そのあとを若くて美人のリン隊長が継ぐ。リンとウィリアムの間に好感と信頼は生まれるが、恋愛の描写はごく薄めである。ウィリアムと相棒のトバールの連係プレイは見ていて楽しく、トバールは後半はあまり活躍せず、ウィリアムを置いていったりもするが、でも、この二人の相棒ぶりはなかなかよい。若い兵士ポン・ヨンとウィリアムの心の通い合いなどもよい。アンディ・ラウは、実践的で頭のよい軍師役で、アクションは見せないが、怪物が磁石に弱いことを発見し、磁石を翳して立ち回るところなど味わい深い。ウィリアム・デフォーは、あまりいいとこがなくてちょっと気の毒な役回りであった。
鶴軍の「立体機動」的攻撃法の他にも、城壁の上の太鼓を一斉に叩いて怪物の襲来を報せたり、都までの移動にまだ不完全で危険なランタン(熱気球のようなもの。その前に将軍の葬式で小型のランタンがたくさん空を舞う様を見せている)を使ったり、怪物がなぜ60年周期で来てまたなぜ磁石に弱いのかは不明のままだったり、そもそも万里の長城が怪物を迎え撃つために造られたものであるということになっていたり、割とむちゃなとこはいろいろあるし見る人によっては突っ込みどころ満載かもしれないが、細かいことは置いといて、力強くカラフルな映像を楽しめばよいと思う。
ただひとつ私にとっての難点は、せっかくの長城がトンネルを掘られてあっさり通り抜けられてしまい、最後の決戦は都が舞台となったことだ。捕らえた怪物に黒色火薬をつけて女王のところに向かわせ、その爆弾を塔の上から(この塔がまたきれい)射るといった展開はよかったが、できれば長城で豪快にクライマックスを迎えてほしかったと思う。