映画「スラムドッグ$ミリオネア」を見る

スラムドッグ$ミリオネア  Slumdog Millionaire
アメリカ・イギリス 2008年 120分
監督: ダニー・ボイル
原作: ヴィカス・スワラップ 「ぼくと1ルピーの神様」
出演: ジャマール・マリク(デーヴ・パテル/※タナイ・ヘマント・チェダ(少年)/アーユッシュ・マヘーシュ・ケーデカール(幼年))、サリム・マリク(マドゥル・ミッタル/※アストシュ・ロボ・ガジワラ/アズルディン・モハメド・イスマイル)、ラティカ(フリーダ・ピント/※タンヴィ・ガネシュ・ロンカール/ルビーナ・アリ)、プレーム・クマール(アニル・カプー)、警部(イルファン・カーン)、 ママン(アンカール・ヴィカル)、アルヴィンド(※シデシュ・パティール/チラグ・パーマー) ※印は原語表記をローマ字読みでカタカナ表記したもので正誤は未確認。
★ネタばれあり★
インド南部の都市ムンバイ(以前は英語読みのボンベイ)のスラム街で育った青年ジャマールは、テレビの人気クイズ番組「ミリオネア」で、数々の質問に正解し、いよいよあと一問で全問正解というところまでこぎつけるが、時間切れとなり、続きは次の回に持ち越しとなる。
しかし、番組司会者のクマールは、いかさまの疑いがあるとして警察に通報する。ジャマールは、逮捕拘留され、拷問を受けるが、ただ答えを知っていたと返答する。警部は、拷問を止めさせ、ジャマールに詳しい話を聞き始める。
クイズの質問の答えとともに語られていくジャマールのおいたちは壮絶だ。スラム街で母親と兄のサリムと暮らしていた彼は、イスラム教徒への迫害によって母親を失い、兄と二人で放浪する。彼等は、ママンという男の世話になるが、彼は同じような境遇の子どもを大勢引き取り非情な手段で金を稼がせているのだった。ママンの手から逃れた彼等は、列車の中で物売りをしたり、観光地でガイドをしたりして生活するが、別れ別れになった少女ラティカを巡って再びママンと遭遇。サリムはママン一味の追っ手から逃れるため、対立するギャングの仲間となる。
「鎖」というインド映画の主演俳優も、なんとかいう神(失念)が手にしているものも、なんとかいう詩(失念)の作者も、リボルバーの発明者も、百ドル札の肖像画も、クイズの正解は、すべて、彼がこれまで経験したできごとの中に「たまたま」出てくる。つまり、クイズの質問はジャマールが人生を語る上での見出しであり、クイズショーはそれを装飾するユニークで豪華なデザインのテンプレートである。こうした斬新な作劇法に感心するか、奇をてらいすぎと感じるかは、好みの分かれるところだと思う。しかしひとつひとつのエピソードがあまりに強烈で勢いがあるので、作劇法に対する違和感が映画を見る上での差し障りとはならなかった。百ドル札に載っているのはベンジャミン・フランクリンだと知るいきさつなど、ほんとに悲しい。
主役の三人がいい。回想シーンで描かれる出来事の怒濤の勢いに比べ、終始無表情ともとれる冷静さでクイズの質問や警察の尋問に淡々と応じるジャマールと、なんやかやひどいことをしながらも結局は弟思いで「兄」の悲哀を漂わせるサリム。そして、ジャマールが一貫して思いを寄せるラティカ。
最後の一問は、デュマの『三銃士』に関する問題。「三銃士は、アトスとポルトス、そしてもう一人は誰?」というもの。幼い頃、サリムと「おれたちがアトスとポルトス、じゃ、ラティカは三番目の騎士だ。」と無邪気に言い合っていたことを思い出し、ジャマールは微笑む。それを見てクマールは苦々しく思い、クイズの観客と映画の観客はほっとする。しかしところがどっこい、なのである。
このあとのライフラインの電話でのやりとりがいい。この電話によって、ジャマールは番組に出た目的をほぼ達成する。質問への回答は彼にとってはおまけのようなものでしかなくなっているのだが、やはり最後はこういう展開でないと、ということなのだろう。(ちなみに答えはダルタニヤンではなく、アラミス。デュマの小説を読んでいなくても、デカプリオが主演した映画「仮面の男」を見たことがあれば(ジェレミー・アイアンズのファンであればなおさら)わかる問題なのだ。)
クレジット・タイトルのバックに流れるダンス・シーンが楽しい。

スラムドッグ$ミリオネア [DVD]

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