映画「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」を見る

1958年の黒澤明監督による同タイトル作品のリメイク。
オリジナルもそうだが、主な登場人物は、侍とお姫様と二人の平民で、「三悪人」は出てこない。隠し砦は最初の方にちょっとだけ出てくる。あまりにかっこいいタイトルなので、内容と違っちゃっても採用することにしたのかと勝手に思ったりする。
しかし今回のリメイクには、 THE LAST PRINCESSという英語の副題がつけられ、しかも「ロード・オブ・ザ・リング」や「ナルニア国物語」風のしゃれたロゴが用いられているので、オリジナルとはだいぶ違った、カラフルな無国籍SFファンタジーになっているかもしれないと思ったのだが、軽快な時代劇娯楽アクションとして飽きずに楽しめた。
筋立てはオリジナルのものをそのまま用い、台詞もあちこちに残っている。
秋月、山名、早川の三国が並ぶ戦国時代。山名が秋月を急襲して城を落とす。秋月の世継ぎである雪姫(長澤まさみ)は隠し砦に身を隠す。武将真壁六郎太(阿部寛)は、金百貫の軍資金とともに姫を連れて同盟国である早川に逃れようとする。金のことをかぎつけた二人の平民、金堀り師の武蔵(松本潤、「たけぞう」と読む)と木こりの新八(宮川大輔)が金の運び手として一行に引き入れられる。敵国の山名に入り、早川に抜ける四人の脱出行が描かれる。火祭りが出てくるところも、火祭りで歌われる歌もオリジナルと同じだ。
クライマックス、建設中の山名の砦で繰り広げられる姫の救出劇がだいぶ違っているが、オリジナルの農民とは大きく変わった武蔵の役回りを考えれば、普通に想像できる展開である。それは、今リメイクされたらこうなるだろうという改変であって、特に目新しいものではない。
むしろ、今わたしたちがオリジナルを目にすると、その徹底した身分制度のありようというか、階級社会における農民兵の扱いに違和感を覚えるのではないだろうか。侍や姫君など身分の高い者たちと「下賤な」民たちのあいだには歴然とした隔たりがある。
農民二人組はほとんど人間扱いされず、笑いを誘いはするが、活躍はしない。彼らをモデルにしたと言われる「スター・ウォーズ」のロボット二人組の方がよほど気がきいているし、みんなの役に立っている。
つまり、オリジナルで二人の農民を演じた千秋実藤原釜足は素晴らしく、見ていて愉快この上ないが、しかし、下賤な者はあくまで下賤な者として描かれることに、ちょっと慣れない部分があった。わたしは、憎めないキャラが出てくれば、いつこいつが活躍するだろうと期待する。本作における新八のように、金に目がくらんでいるけちな奴でも、いざとなれば石つぶてを持って助けにかけつける。お約束とわかっていても、そうした展開に爽快感を覚え、ほっとするのである。
ぎょろりとした目でにらみをきかす阿部の六郎太も、松潤演じる向こうっ気の強い若者武蔵も、悪くない。松潤が、六郎太に託された小柄に気づいて心を決めるところなど、ふつうにいいと思う。が、六郎太と武蔵には、雪姫を巡ってもっとぶつかりあってほしかった気がする。せっかく身分の低い者が高い者と張り合っていいとこをみせるのなら、思わずにんまりするような身分を超えた男と男の認め合いが見たかったし、姫との身分違いの恋ももう少しぎくしゃくと展開してほしかったように思う。
男装の雪姫を演じる長澤まさみはなかなかりりしく、椎名桔平は悪役のダースベイダー侍がよくはまっていた。建設中の砦で協力する武蔵の坑夫仲間たちもよかった。
ただし、「うらぎりごめん」はわたしはだめだった。オリジナルを見ていると、二度に渡るこの台詞の使い方にはがくがくとならざるを得ない。オリジナルの「裏切り御免!」が、侍の豪快な捨て台詞だったのに対し、こっちのは敢えて字で表せば「うら切り・・・ゴメン。」てな感じだろうか。青春ドラマにおいて男子と女子が交わしそうな切なくもちょっとこそばゆい会話の一部になっている。太平と又七は武蔵と新八に、田所兵衛は鷹山刑部に、といったように役回りが大きく違った人物についてはわざわざ役名を変えた制作者側の配慮を思えば、この台詞もいろいろ考えたあげくにこうなったんだろうが、でもやっぱ、わたしは、ちょっと待ったと思った。

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