映画「幕末太陽傳」を久々に見る

幕末太陽傳
1957年 日本 日活 110分 (2011年デジタルリマスター版)
監督:川島雄三
出演:居残り佐平次フランキー堺)、おそめ(左幸子)、こはる(南田洋子)、高杉晋作石原裕次郎)、おひさ(芦川いづみ)、相模屋楼主伝兵衛(金子信雄)、お辰(山岡久乃)、徳三郎(梅野泰靖)、番頭善八(織田政雄)、若衆喜助(岡田真澄)、若衆かね次(高原駿雄)、やり手おくま(菅井きん)、大工長兵衛(植村謙二郎)、気病みの新公(西村晃)、貸本屋金造(小沢昭一)、鬼島又兵衛(河野秋武)、志道聞多(二谷英明)、久坂玄瑞小林旭)、伊藤春輔(関弘美)、大和弥八郎(武藤章生)、白井小助(徳高渓介)、有吉熊次郎(秋津礼二)、長嶺内藤太(宮部昭夫)、杢兵衛大尽(市村俊幸


日活100周年を記念してデジタルリマスター版を劇場公開したので、久しぶりに見た。
古典落語居残り佐平次」をベースに、幕末の品川宿にある遊郭を舞台に描かれる人間模様。


胸の病気を患っている佐平次は、海の近くの品川が養生に適しているということで、品川の遊郭相模屋で無一文のまま遊びまくって、その払いを返すため居残って働くことに。
相模屋には、売れっ子の遊女のこはると、以前売れっ子で今はちょっと落ち目のおそめがいて、なにかと反目している。
こはるは、言い寄ってくる多数のなじみ客を巧みにさばき、みんなに結婚の約束をした証文を渡している。
一方、おそめはなじみの客もなかなか来なくなり、いっそ死のうと、手頃な心中相手として、貸本屋の金造に目をつける。
婿養子の相模屋の主人伝兵衛とその妻のお辰は金儲けにいそしんでいて、大工の長兵衛の借金のカタに女中として奉公にきている娘のおひさに客を取らせようともくろんでいるが、バカ息子の徳三郎はおひさに惚れていて、それをなんとか阻止しようとする。
また店の一室には、高杉晋作を始め長州藩の若い志士たちがたまっていて、尊王攘夷のための物騒な計画を練っている。
つい先日亡くなった二谷英明が、志道聞太役で出演。熱血の志士という彼にしては珍しい役どころで、何かにつけてはいきがって石原裕次郎にまあまあとなだめられ、目立っていた。
小林旭が、久坂玄瑞の役で登場。こちらは冷静で切れる若侍という感じだった。
相模屋店内で展開されるこうした事情が、佐平次が彼らの間をいったりきたりすることで、手際良く軽快に描かれていく。
建物の廊下をするすると移動する佐平次の動きとしゃべりは、見ていて実に愉快で楽しい。
が、ひょうひょうとした佐平次の軽やかさに対して、彼が抱える病は、不気味な暗雲のように、じわじわと影を落とす。
その彼が適当にあしらえない相手が最後に出てくる。実直な東北訛りの杢兵衛大尽だ。他のやつならたやすく煙にまけそうなのに、この親父だけは勝手が違う。
東北出身の監督の作品で、東北出身の愚直な男が抜け目のない江戸の男を諭してどなりつける。日活からの東北賛美のメッセージのように思ったのは私の深読みだろうか。


三千世界の鴉を殺し主と朝寝がしてみたい」。
映画の中で、何度もくちずさまれるこの文句は、高杉晋作作(桂小五郎作という説もあるようだが)の都々逸で、最初は、高杉役の石原裕次郎が三味線を弾いて唄う。この映画を初めて見たのは、30年くらい前だと思うが、そのときからこの文句は覚えている。まず世の中の意の「三千世界」という仏教用語が大仰でいいし、「鴉を殺し」というそこはかとなく物騒な行為に続いて、「朝寝がしてみたい」という思慕の表現が、なんとも強烈で切なく色っぽく、一度聞いたら忘れられなくなった。ということで、この映画というとこの文句についてのやりとりがあるフランキー堺石原裕次郎の入浴シーンをまず思い出すという、妙な記憶の仕方をしているのだった。

幕末太陽傳 [DVD]

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