高倉健一周忌で「日本侠客伝 斬り込み」を見る

新文芸坐の「高倉健一周忌 健さんFOREVERあなたを忘れない」という特集プログラムで、任侠もの二本立て「日本侠客伝 斬り込み」と「昭和残侠伝 死んで貰います」を見た。どちらも封印切りが出てくる。
20〜30年前に浅草の映画館などで健さんの映画を見に行ったころに比べると、年輩の女性客がけっこういた。女性が二人、トイレで「あの二人、ほんとお似合いよね〜。」(健さん藤純子のことである)などと楽しそうに話していて、なんかうれしかった。
今回は「斬り込み」だけ見るつもりが、結局「死んで貰います」もまた見てしまった。
(「死んで貰います」の感想はこちら → http://d.hatena.ne.jp/michi-rh/20141221/1419145758 )

日本侠客伝 斬り込み
1967年 日本 東映 92分
監督:マキノ雅弘
脚本:笠原和夫
出演:中村真三(高倉健)、お京(藤純子)、秀男(斉藤信也)、傘屋源蔵(石山健三郎)、若松(関東花若会組長。大木実)、浅川仙太郎(新宿街商同盟リーダー。那須伸太朗)、弁天福(金子信雄)、エンマの辰(長門裕之)、ドッコイ安(潮健児)、風天虎(畑中怜一)、相州屋の親分(渡辺文雄)、勝俣三吉(天津敏)、喧嘩鉄(阿波地大輔)、コットン松(川谷拓三)、春美(南田洋子

健さんが、稼業違いのテキヤの仲間となって、悪いやつらをやっつける。
脚本は、「仁義なき戦い」以前の笠原和夫氏。(「広島死闘編」にも博打うち(任侠道)と的屋(神農道)の稼業違いの話は出てきた。)

子連れの博徒中村真三は、旅先で病気になった幼い息子秀男の治療費を稼ぐため、地元で草鞋(わらじ)を脱ごうとするが、辺りに博徒の一家はなく、いたしかたなくテキヤ帳元傘屋源蔵を訪ねる。稼業違いの真三親子に親切にしてくれた源蔵に恩を返すため、真三は東京でテキヤの元締めになるという源蔵の夢を代わりに果たす約束をする。
真三は、「場の安定した浅草や深川」ではなく、新興地区の新宿で、露天商たちによる街商同盟に加わる。が、新宿を乗っ取ろうとする板橋の相州一家が露天商たちにいやがらせをし、争いをしかけてくる。関東花若一家の総長若松が仲裁に入り、真三は中村一家を起こす。が、やがて若松も相州一家の襲撃を受ける。真三は、源蔵から結婚祝いに譲り受けた刀の封印を切り、白装束で殴り込みをかける。 
最初の仁義に始まり、幹部会や花会での、健さんの丁寧な極道の挨拶に見ごたえがある。
藤純子が源蔵の娘で真三にぞっこんの若妻お京を演じて艶やかである。真三が自分を見る「目」を見てこの人は私のことが好きなんだわとうぬぼれて私も好きになったのよ、とお京が告白した直後、はや二人の婚儀のシーンになっているのは、よかった。
息子の秀男はただ子どもだというだけで、特に個性はなかった。
大概は悪者役の金子信雄が、いいもん側の愉快な気のいい露天商役で登場。気のいい大阪馬賊(「馬賊」は夜店ゴロの隠語)の長門裕之との掛け合いが楽しく、いつもの長門裕之の役が二人いるような感じだった。
殴り込みのあと、真三は警官に引っ立てられず、お京と二人で楽しげに縁日を歩くシーンで映画は終わる。このシリーズに、こんなラストがあるのかと大変珍しく思った。
子連れ、テキヤ、いい奴役の金子信雄、ハッピーエンドと、健さん主演の任侠ものには稀有な要素がいろいろと盛り込まれた一本であった。

参考:映画の中で何度となく「神農道」ということばが出てくる。
「神農(しんのう)は古代中国の伝承に登場する三皇五帝の一人。諸人に医療と農耕の術を教えたという。中国では“神農大帝”と尊称されていて、医薬と農業を司る神とされている。〜神農はまた的屋の守護神として崇敬されており、儀式では祭壇中央に掛け軸が祀られるほか、博徒の「任侠道」に相当するモラルを「神農道」と称する。」とある。(ウィキペディアより)

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