ドキュメンタリー映画「涙の数だけ笑おうよ 林家かん平奮闘記」を見る(感想)

涙の数だけ笑おうよ 林家かん平奮闘記
2016年 日本 オフィス・シマ 85分
監督・編集:竹藤恵一郎
音楽:大野恭史
出演:林家かん平、海老名香葉子江戸家猫八江戸家小猫、橘家竹蔵、古今亭八朝、林間楽語会
ナレーター:津川雅彦

1990年、40代初めに脳溢血で倒れ、右半身に麻痺が残りながらも、厳しいリハビリをして高座に復帰した落語家林家かん平師匠の、最近の1年を追ったドキュメンタリー。

劇映画であれば、この展開は今一つとか、あのセリフはよかったとか、好き勝手が言えるのだが、ドキュメンタリーの感想はほんとうに書きづらい。人の人生をどうこう言う立場にはないと思ってしまうし、しかも、私は落語のことはよくわからなくて、林家かん平師匠についてもあまり知らなかったのだからなおさらである。でも、せっかく見たし、よかったので、書いておきます。

車椅子で生活するかん平師匠は、ヘルパーさんの助けを借りながら、寝たきりの高齢の母親と二人で暮らしている。
毎年故林家三平師匠の追善の寄席で高座に上り、また地元で彼を支える林間楽語会主催の落語会に出演する。
映画はそうした会と会に出るまでの、かん平師匠の日常生活やリハビリ、落語の練習、新作に取り組む様子などを映し出す。

自力で歩くことは無理、首は右に傾いだままで、右手も思うようには動かないし、しゃべりもやはり聞きづらいところがあるのは否めないが、監督がおずおずと発する質問に対して、かん平師匠が答える言葉は、内容にまったく淀みがなくて心地よく、NHKの朝ドラ「梅ちゃん先生」に出てきた「がんばっていれば神様がご褒美をくれる。」というセリフが好きだと彼が言えば、その言葉が聞いているこちらの身中にもすらすらっと流れ込んでくるように思えるのだった。
昨今は、「がんばれ。」と言われるのはNGだけど、「よくがんばったね。」と言われるのは大好き、他人からほめてもらいたくてしようがない輩が私の周辺にもネットにも見受けられ、なんでみんなそんなにほめてもらいたいのだと、常々ちょっと呆れている次第なのだが、かん平師匠のいう「ご褒美」はそうしたものとは、まるで次元が違っているように思えた。

タイトルを見るとお涙ちょうだいものっぽいが、涙は出てこない。そこが非常によい。
師匠が自らの状況を受け入れて奮闘している様は、厳しくも、淡々としてほんわかとして、ファンタジーぽい印象さえ残る。これは竹藤恵一郎監督の持ち味も利いているのだと思う。

余談だが、師匠が落語家になったきっかけについて訊かれ、高倉健が好きで、彼の着物姿がかっこよくて、自分も着物を着る仕事がしたいと思ったからだと答えるところがある。部屋の一角にある棚の何段かを占めて健さん任侠映画のDVDがシリーズでずらりと並んでいた。健さんファンの私としては、たいへんうれしかった。

★映画はただいま、角川シネマ新宿で上映中。(2016年9月23日金曜日まで)
http://www.nkw-kanpei.com/index.html