映画「ハドソン川の奇跡」を見る(感想)

ハドソン川の奇跡 SULLY
2016年 アメリカ 96分
監督:クリント・イーストウッド
出演:サリー/チェズレイ・サレンバーガー(トム・ハンクス)、ジェフ・スカイルズ(アーロン・エッカート)、ローリー・サレンバーガー(ローラ・リニー)、ラリー・ルーニー(クリス・バウアー)、エリザベス・デイヴィス(アンナ・ガン)、マイク・クレアリー(ホルト・マッキャラニー)、チャールズ・ポーター(マイク・オマリー)、ベン・エドワーズ(ジェイミー・シェリダン)、ダイアン・ヒギンズ(CA。ヴァレリー・マハフェイ)、シェイラ・デイル(CA。ジェーン・ガバート)

2009年冬、アメリカ、ニューヨークで、エンジントラブルに見舞われた旅客機が、機長の英断によってハドソン川に不時着水し、乗客全員が無事生還するというニュースがあった。この映画はその事実を題材としている。
映画は90分台がいいと思っている身にとっては、うれしい長さの良作である。飛行機事故に焦点を絞っているので、飛行機映画好きとしてもうれしい。
マスコミにより英雄と持ち上げられた機長のサリーは、しかし、事故後の航空会社の調査により、その判断の正否を問われることになる。映画は、事故の様子を何回となくたどるとともに、公聴会で結論が出るまでの、サリーの思いや周辺の人々の彼への様々な接し方を描いていく。
2009年1月15日、155人の乗客を乗せてニューヨークのラガーディア空港を飛び立った旅客機は、離陸後まもなく飛鳥によって両翼のエンジンが故障してしまう。
管制塔からは、直近の空港へ着陸するよう指示が出るが、急速に高度を下げていく機内にあって、サリーは空港までは持たないと判断し、眼下を流れるハドソン川への着水を決行する。
トラブル発生後、管制塔とのやり取りがあって、サリーが判断を下し、機内でCAが不時着水に備えた体勢をとるよう指示を出し、乗客は不安と恐怖を抱えつつも指示に従い、サリーと副機長のジェフが飛行機を無事着水させ、川を運航していた海上保安庁的なところの船が飛行機に気づいて応援を呼ぶとともに乗客の救出に駆け付ける。
この一連の、それぞれの立場の人たちの緊急事態への対応が実にてきぱきと描かれている。脱出の際にはぐれた息子の名前を呼び続ける老父や、レスキューにヘリで救出される大柄な女性客、朗報を聞いて喜ぶ管制官など、役名もわからない人たちに見入ってしまう。
後半の公聴会のシーンは、裁判劇のようになる。「人間の決断」について語り、反撃するサリーの言葉には、決定的な証言により判決が覆った法廷ドラマと同様の爽快感を覚えるが、全体を通して、ミステリの様相を呈していると思う。
映画はいきなり事故後から始まる。鏡の中の自分の顔を見て、「おれも歳をとったな」などと思っているであろう中年男サリー。自分の顔を鏡で見た時点で、彼はハードボイルドの主人公たりうる。さらに、経験を積んだその道のプロで、気脈の通じた相棒(副機長のジェフ)もいる。とっさの判断で発砲して犯人を撃って市民を救ったが、その判断が正しかったか否か、警察の内部審査を受けているベテラン刑事てな展開と、シチュエーション的にはほとんど同じだ。美談の衣をまとってはいるが、これは、いい仕事をやり遂げた男の、味わい深いハードボイルド・ドラマとして私は見た。

セリフ:
「墜落ではない。不時着水だ。」
It's not a crash, it was a forced water landing.
サリーの言葉。事故の調査委員会のメンバーが「墜落」というたびに、サリーはこう訂正する。そこには、不時着水という難しい着陸をやってのけたベテラン・パイロットの誇りと意地が感じられて、いい。