「猫背の虎 動乱始末」を読む

猫背の虎 動乱始末
真保裕一著(2012年) 集英社
★ねたばれあり!!★
1855年安政2年)に発生した安政の大地震直後の江戸を舞台に、大柄で猫背の新米同心、太田虎之助の活躍を描く。
地震直後で江戸市中は混乱し、人手不足の奉行所は、虎之助を臨時の市中見り役に任命する。
3年前に亡くなった彼の父龍之介は、かつて「仏の大龍」として知られた見廻り役の同心だった。父の片腕だった岡っ引きの松五郎親分が、虎之助の為に再び十手を持ち、サポートすることに。
地震直後、籠に押し込まれたまま放置された男の死体が発見される。男の身元が判明し、妻と名乗る女が死体を引き取りにくるが、女は偽の妻であった。
この事件を筆頭に、妻子の仇を討とうとして違う男を襲ってしまった板前、夫の妾が生んだ赤子をかどわかす商家の女房、地震の騒動に乗じて逃走した吉原の遊女と彼女をかくまおうとするなじみ客の若侍、将軍の世継ぎ争いが背後に絡んだ読売を書かされる戯作者などの話がつぎつぎに展開する。
さらに、籾蔵に余分に所蔵された米俵の謎を追う虎之助は、亡き父の生前の行動に疑惑を抱かざるを得ない状況に行き当たる。
一方で、恋の話もあり、虎之助は、日本橋の山吹屋の出戻りの娘佳代と深い仲になっていたが、彼女が実はまだ夫と離縁していないと知り、動揺する。
立ち回る先々で父の話をされ、家に帰れば母と出戻りの二人の姉に小言を言われ、でかい身体を猫背に縮めているが、細かいところに気を配り、いざとなれば猫背を伸ばして早い決断をする。茫洋としたヒーローの登場と言える。
が、著者も主人公も女性に対して気を使いすぎな感じがする。松五郎と伯父の植島正吾が、豪放な部分を担当しているようだが、主役にもう少しやんちゃなところがあっていいのではと思った。
非常時の貯蔵庫としての籾蔵の存在など興味深かった。

猫背の虎 動乱始末

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