稲垣吾郎主演の映画「半世界」を見る(感想)

 半世界

2018年 日本 公開:キノフィルムズ 119分

監督:阪本順治

出演:高村紘(稲垣吾郎)、沖山瑛介(長谷川博己)、岩井光彦(渋川清彦)、高村初乃(池脇千鶴)、高村明(杉田雷麟)、岩井麻里(竹内都子)、大谷吉晴(小野武彦)、岩井為夫(石橋蓮司

★注意! 謎解きはありませんが、ラストの展開をばらしてます!!★

 

伊勢志摩の農山村を舞台に稲垣吾郎が炭焼き職人を演じると聞いて、見に行く。

39歳の高村紘は、父の生業を継ぎ自営の炭焼き業を営んでいる。妻の初乃と中学生の息子明と暮らすが、仕事にばかり目が行きがちで、明との接触はほとんどなく、彼が学校でいじめに遭っていることも知らない。炭焼き業は、過酷な労働の割に炭の需要が先細っていて、生活は楽ではない。

ある日、中学時代の友人沖山瑛介が帰郷し、空き家になっていた実家に一人で住み始める。地元で中古車業を営む岩井光彦(独身)を加え、3人は中学時代の親友だったが、瑛介は学校を出ると自衛隊に入隊し、めったに地元に帰ってこなかった。何か訳ありの様子で実家にこもったままの瑛介を紘と光彦は気に掛けるが、瑛介は昔なじみの二人にもなかなか心を開こうとしない。紘は、瑛介を無理やり連れだし、炭焼き作業を手伝わせる。瑛介は、その重労働ぶりに驚き、作業を手伝うことで少しずつ元気を取り戻していくように見えたのだが・・・。

備長炭づくりの工程が丁寧に描かれていて興味深い。山の斜面で木を伐り出し、ケーブルにぶら下げて平地まで下ろし、トラックに積んで、炭焼き小屋に運ぶ。木材を窯に入れ、石を組んで塞いで燃やし、真っ赤になった炭を出し、砂をかけて冷ます。真っ赤に燃える備長炭は美しく、作業は豪快だが、見ていて確かにとても大変そうである。

田舎町の生活を通じて、幼馴染の3人の男たちの友情と、紘と明との親子関係の修復が、淡々と味わい深く描かれていく。紘と明とのやりとりなどいささか気恥ずかしいところもあるが、概ねいい感じだ。石橋蓮司の田舎のじいさんもいいし、瑛介がいじめに遭っている明を助けるところもありがちだがなかなかいい。

タイトルの「半世界」は、自衛官として海外に派遣された瑛介が、紘に対し、「お前は世界を知らない。知っているのは世間だけだ。」というようなことを言うあたりに関わってくるのだと思うが、夜空にぽっかり浮かぶ見事な半月や森の中に座す紘など意味ありげなカットの挿入もあって、いろいろな意味を含んでいそうである。

ラストの展開も「あの世」と「この世」に関わることからああなったのかもしれない。激しい天気雨の降る葬列シーンはよかったし、棺桶に納まる稲垣吾郎という珍しいものが見られたということもあるが、それでも紘の死は必要だったのだろうか。映画の冒頭、役名もまだわからない時に、長谷川博己と渋川清彦が二人で山の中に何かを掘りに来るシーンがあるが、なぜ二人なのか、なぜ稲垣吾郎がいないのか、と若干嫌な予感がしたのだが、結局その予感が当たる展開となってしまった。たんたんと続く日常がこの映画の本筋だと思ってみていたので、ラストで劇的なことが起こり、涙を誘って終わることに違和感を覚えた。物語としてそうしないと盛り上がらないのかな、でも、特になにもないまま終わってもよかったというか、その方がよかったなと、私は思った。