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ヒアアフター Hereafter
2010年 アメリカ 129分
監督・音楽:クリント・イーストウッド、製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ジョージ・ロネガン(マット・デイモン)、ビリー(ジョージの兄。ジェイ・モーア)、メラニーブライス・ダラス・ハワード)、イタリア料理教室の講師カルロ(スティーヴン・R・シリッパ)、マリー・ルレ(セシル・ドゥ・フランス)、ディディエ(ティエリー・ヌーヴィック)、ルソー博士(マルト・ケラー)、マーカス/ジェイソン(フランキー・マクラレン、ジョージ・マクラレン)、ジャッキー(マーカスとジェイソンの母親。リンゼー・マーシャル)、デレク・ジャコビ(老優。本人)
イーストウッドスピルバーグと組んで、霊界ものに挑戦。
ということで、霊媒師だの死後の世界だのを扱ってはいるが、監督の興味は、専ら現世の人間に向いているようだ。描かれているのは、「死」と深く関わったことで、傷つき悩みながら生きる3人の男女の姿である。映画は、住む場所も年齢も境遇もまるで違う彼らの様子を入れ替わり立ち替わり、たんたんと追っていく。
★以下ねたばれを含みます!!


パリのジャーナリスト、マリーは、リゾート地の海岸で津波に襲われ、九死に一生を得る。彼女は、津波で流されたときに観た「あの世」の光景らしいビジョンのことが忘れられない。花形キャスターの座を追われ、恋人と別れ、来世についての本を執筆する。
ロンドンに住む貧しい少年マーカスは、生まれたときからずっといっしょだった双子の兄を突然の事故で亡くしてしまう。陽気でおしゃべりだった兄のジェイスと違い、遺されたマーカスは、無口でおとなしい少年。薬物中毒の母は施設に入ってしまい、里親と暮らすことになった彼は、死んだジェイスに会うため、死後の世界について調べ、様々な霊媒師を訪ねて回るが、みんないんちきくさかった。
サンフランシスコに住むジョージは、幼いころの臨死体験がきっかけで死者と交信する能力を持つ。霊媒師として仕事をしていたが、自分の能力を「呪い」と呼んで忌み、転職して工場で働いている。彼は、イタリア料理教室でメラニーという女性と出会い、互いに引かれ合うが、メラニーが彼の能力を知って交信をせがんだために、苦い結末を迎えることに。追い打ちをかけるように工場を解雇されたジョージは、兄のビリーが勧める霊媒師への復帰を断り、旅に出る。
まったく接点のない3人が、どのようにして出会うのか。映画の後半は、それが静かなサスペンスを生み、じわじわともりあがっていく。
ジョージは、ディケンズの小説が好きで、家で毎晩イギリスの俳優ジャコビが朗読するCDを聴いていた。彼はディケンズ縁の土地であるロンドンを訪ね、やがてジャコビの朗読会を視聴するためブックフェア会場に向かう。同じ頃、マリーは自著本のサイン会のため、マーカスは、里親たちに連れられて、同じ会場を訪れていた。かくして3人は、ひとつの場所で遭遇することとなるのだ。
マット・デイモンが、影のある、物静かで思いやりのある男を好演している。依頼者の手を握るだけの彼の交信のしかたはいたって地味である。そして、交信を行った後は、近しい人を亡くした人の心の痛みを自身も背負い込むこととなる。ジョージが、マーカスの手を握り、ジェイスのことを静かに正確に言い当てたとき、マーカスはやっと本物の霊媒師に出会えたと安堵する。それぞれの思いを抱えた彼らのやりとりにきゅんとなる、泣ける場面である。
ジョージとマリーが会う最後のシーンは、特にキスシーンが意味不明という声があるが、いずれああなるということの先走りでまあいいのではないかと。ジョージがマリーに宛てて書いた長い手紙の内容が明かされないのもいい。
冒頭の津波津波が起こるまでのホテルと海岸のシーン、ジェイスとマーカスが写真を撮る写真屋のシーン、ジョージとメラニーの料理教室での官能的な効き味のシーン、気のない参加者の中でジョージが一人密かに通ぶりを見せるディケンズの生家を訪ねるツアーのシーンなど、細部がいちいち行き届いていて、気持ちがいい。
“hereafter”は「来世」のことだが、「今後、将来」という意味もある。

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