映画「ズートピア」を見る

ズートピア  ZOOTOPIA
2016年 アメリカ ディズニー 108分
監督:バイロン・ハワード、リッチ・ムーア
制作総指揮:ジョン・ラセター
声の出演(オリジナル/日本語吹替):ジュディ・ホッブス(ウサギ。ジニファー・グッドウィン/上戸彩)、ニック・ワイルド(アカギツネ。ジェイソン・ベントン/森川智之)、ボゴ署長(水牛。イドリス・エルバ/三宅健太)、クロウハウザ(チータ。ネイト・トレンス/高橋茂雄)、ライオンハート市長(ライオン。J・K・シモンズ/玄田哲章)、ベルウェザー副市長(ヒツジ。ジェニー・スレイト/竹内順子)、フラッシュ(ナマケモノ。レイモンド・S・バーシ/村治学)、ヤックス(ヤク。トミー・チョン/丸山壮史)、ミスター・ビッグ(ネズミ。モーリス・ラマーシュ/山路和弘)、ボニー・ホッブス(ウサギ。ボニー・ハント/佐々木優子)、スチュー・ホップス(ウサギ。ドン・レイク/大川透)、ガゼル(ガゼル。シャキーラ/Ami)、マイケル狸山(日本版オリジナルキャラクター。芋洗坂係長

2D日本語吹替版を見る。
象からネズミまで、サイズもタイプも様々な種の動物が共生する世界。田舎育ちのウサギのジュディは、警官になって世の中をよりよくしたいという夢を持っている。彼女は、体の小さなウサギは警官になれないという世間の常識を覆し、努力して史上初のウサギの警官となり、あこがれの大都会ズートピアに赴任する。
夢と希望を抱いて訪れたズートピアには、しかし、華やかな見た目とは違った厳しい現実があった。
ジュディはウサギの警官を認めないボゴ署長に半端仕事ばかりさせられていたが、ある日、キツネの詐欺師ニックと知り合い、ともに失踪したカワウソの行方を追うことになる。二匹は、連続肉食動物失踪事件の裏に隠された陰謀を暴いていく。
住民の多くが草食動物である中で、人口の1割を占める肉食動物に対する差別問題が大きなテーマとなっている。
同様に、アメリカ社会を如実に表しているものとして、ジュディが繰返し口にする「この街ではだれでもなんにでもなれる(anyone could be anything)」という言葉がある。
かつてアメリカン・ドリームを表すために使われたフレーズで、私は「打撃王」という映画で初めて耳にした。これは「ヤンキースの誇り」(映画の原題である)と呼ばれたメジャーリーガー、ルー・ゲーリックの伝記映画で、サム・ウッド監督、ゲイリー・クーパー主演の1942年の作品である。貧しい家に生まれた少年ゲーリッグに、母親が「この国では、だれでもなりたいものになれるのよ。」と言い聞かせていたのを覚えている。自由の国アメリカでは、身分や出自に関係なく誰にでも機会は均等にあり、努力と才覚でのし上がっていくことができるのだといったような意味である。
それともうひとつ、やはりアメリカ映画で聞いたことのある、希望を表す言葉がでてきた。意気消沈してアパートの部屋に戻ってきたジュディが部屋でつぶやく言葉は、「風と共に去りぬ」でスカーレット・オハラがラストに言う超有名なセリフだ。「明日になればいいことがある」というような意味で、吹替版での正確な日本語訳は忘れてしまったが、IMDBで確認したところ、やはりあれは“Tomorrow's another day.”だったようだ。このあと、隣の住人が薄い壁越しに「もっと悪くなるかもよ!」みたいなチャチャを入れてくるタイミングが絶妙である。
アメリカの光と影と言われる部分がカラフルな動物アニメの世界に取り入れられ、前向きでまっすぐな気性のジュディと、差別されて育ったせいで皮肉屋で陰がありつつも基本的には気のいいやつのニックという高感度の高い主役二匹が小気味よく動き回る。
ミスター・ビッグと呼ばれるちっこいネズミのマフィアのボスや、動作がものすごくスローなナマケモノのフラッシュや、ぶんぶん虫にたかられながら記憶力がやたらいいヤクのヤックスなど脇役もユニーク。
「夜の遠吠え」という伏線も効いている。
口当たりのよい、良質の活劇アニメなのだった。

PS.見終わった直後、館内を出て廊下を歩いていると、前を行く4、5歳くらいの女の子が「ニック、しゅき(好き)。」と何度も母親に言っていたのがかわいかった。