映画「ジェシー・ジェームズの暗殺」を見る(感想)

ジェシー・ジェームズの暗殺
The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford

2007年 アメリカ 160分
監督:アンドリュー・ドミニク
出演:ジェシー・ジェームズ(ブラッド・ピット)、ロバート・フォード(ケイシー・アフレック)、チャーリー・フォード(サム・ロックウェル)、フラン ク・ジェームズ(サム・シェパード)、ジー・ジェームズ(メアリー=ルイズ・パーカー)、ウッド・ハイト(ジェレミー・レナー)、ディック・リデル(ポー ル・シュナイダー)、エド・ミラー(ギャレット・ディラハント)、マーサ・ボルトン(アリソン・エリオット)、サラー・ハイト(カイリン・シー)、ヘン リー・クレイグ(マイケル・パークス)、ディンバーレイク保安官(テッド・レヴィン)、ドロシー(ズーイー・デシャネル)、エドワード・オケリー(マイケ ル・コープマン)

 ジェシー・ジェームズは、アメリカ西部開拓時代のアウトローにして伝説的なヒーローであり、これまで多くの西部劇に登場している。南北戦争時代はゲリラ活動に参加して北軍と戦い、戦後は強盗団を結成、数々の列車強盗や銀行強盗を働いたが、義賊として南部の人々から愛されたという。
 ジェシーの映画といえば、古くは「地獄への道」「地獄への逆襲」「無法の王者ジェシー・ジェームズ」、及び70〜80年代の「ミネソタ大強盗団」「ロングラーダーズ」などが思い浮かぶが、列車強盗、銀行強盗、兄のフランクと仲間となった兄弟たち(ヤンガー兄弟、ミラー兄弟、裏切り者とされるフォード兄弟)、そして額縁を直しているところを背後から撃たれる最期のシーンなどの要素が不可欠だった。
 2000年代に入って初のジェシー・ジェームズ映画「アメリカン・アウトロー」は、軽快で愉快な作品だった。終わり方も明るく、彼の死までは描かれない。よって、有名な額縁直しのシーンが出てこないジェシー映画となった。
 で、本作はといえば、銀行強盗が全く出てこないジェシー映画である。冒頭、美しい列車強盗シーンがあるが、強奪シーンは後にも先にもこれだけ。強盗団において大きな役割を果たしたヤンガー兄弟も出てこない(既に捕まっているか、死んだ後らしい)し、兄のフランクも出番は最初だけである。
 多くの時間を割いて描かれるのは、既に世間に名が知れ渡ったジェシー・ジェームズとその仲間が、逃亡し潜伏する生活を送っているうちに、互いに相手への不信感を募らせ、腹の探り合いをする様子である。正体を隠し家族と暮らすジェシーは徐々に疑心暗鬼の固まりとなっていき、幼い頃からジェシーに憧れ続けたボブ・フォードは、ジェシーへの思いを複雑に変貌させていく。ジェシーとフォード兄弟の関係はどんどん危うさを増し、やがて額縁のシーンへと続く(本作のジェシーは、傾いた額縁を直すのでなく、埃を払おうとして背を向ける)。
 ボブがジェシーを後ろから撃ち殺した時、彼は20歳だった。その後、ボブは、自らジェシーの死の瞬間を劇にし、自分の裏切りシーンを繰り返し舞台の上で演じてみせるのだが、見ている方はなんともやるせない思いを味わう。
 アフレックが演じるボブは、最初にフランクに自分を売り込んでいるシーンから、早くもきりっとしない粘着質の性格を醸し出している。続くジェシーとの場面では、初めて憧れの人と会って話をする喜びにあふれた表情に若者らしい純真さが感じられるが、そのぎこちなく上ずったような話し方には、以後ずっといらいらさせられる(もちろん、それが狙いでそうしたアフレックの演技は素晴らしいのではある)。
 一方、ブラッド・ピットジェシーは、大物らしい威厳を持っている。いかにもデンジャラスな笑顔がたまらない。
 映画全体に漂う暗い雰囲気を若干和らげてくれるのが、女好きのディックの存在である。強盗の直前、みんなが緊張しているときに女を口説く話をしたり、世話になった家の主人の若妻に手を出して、仲間から追われるはめになったりする。(ディックを助けるため、ボブが初めて人を射殺するシーンはなかなか印象深い。)ジェシーに連れられて裏切り者とされる仲間の家を訪ねたとき、ジェシーが留守番の少年をいきなり襲って脅しつけるのを、唖然として見ているディックはいい。 
 他にも、フランク(サム・シェパードが渋すぎてやけに年の離れた兄弟に見えてしまうが、実際は4歳違い)、ボブの兄チャーリー、ジェシーの従兄弟ウッド、ちょっとしか出ない女たちなど、俳優はみんなよかった。が、とにかく、非情に静かで重たい人間ドラマなので、見ていてわくわくはしない。

ジェシー・ジェームズの暗殺 特別版(2枚組) [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 2008/07/09
  • メディア: DVD