映画「旧支配者のキャロル」を見る

映画美学校の「コラボ・モンスターズ!!」の試写会に行った。
卒業制作を前に、実習授業として毎年講師が監督をして学生たちと映画を製作するそうで、コラボ・モンスターズ!!は、その映画3本を上映するという企画である。
上映作品は、「kasanegafuti」(西山洋市監督、27分)、「love machine」(古澤健監督、27分)、「旧支配者のキャロル」(高橋洋監督、47分)。
5月13日〜25日、オーディトリウム渋谷にて、レイトショー公開。
http://www.collabomonsters.com/
<追記>一般試写のコメントとして、以下と同じ内容の感想を上記サイトのコメント欄に載せていただきました(^^)2012.5.6


旧支配者のキャロル
2012年 日本 映画美学校 47分
監督:高橋洋
出演:黒田みゆき(松本若菜)、早川ナオミ(中原翔子)、村井(津田寛治
高橋監督は、「狂気の海」、「おろち」(これは脚本)、「恐怖」とここんとこ続けざまに女と女の対決を描いている。
私はどっちかというと、人間ドラマよりは痛快娯楽アクション、対決するなら男と男の方が好みで、「キャロル」公開にあたっての「衝撃のエロティック!縛られた美女が自ら脚を広げる!」という特報のコピーからも、正直あまり見たいという気持ちにはならなかったのだが、試写の機会を頂き、見に行ったところ、そうした自分のアンテナの感度は、なんて鈍かったのだろうと思い知らされるはめに陥った。

試写の前のあいさつで監督が、これまでホラーばかり撮ってきたが、初めて人間ドラマを撮った、自分に言わせれば最近の人間ドラマはぬるすぎる、と言った。
その発言通り、「旧支配者のキャロル」は、とてつもないパワーを持った作品だった。
おそらくホラーならではの大げさな表現が、ハードな人間ドラマにぴったり噛み合って、ぐいぐいと人を引き込んでいくのだろう。映画のタイトルが出た時点ですでに「やられた」と感じた。

話は、映画学校の学生たちが映画を作る話。強烈な個性を持つ鬼のような講師にしてベテラン女優である中川ナオミが、監督に抜擢された学生のみゆきをとことん追い詰めていく。
中原翔子が天晴れの怪演! のっけから悲壮感を漂わせているヒロインの松本若菜も、ナオミの相手役となる学生村井を演じている津田寛治(ファンです)もいい。

試写のあと、男とか女とか実はもうどうでもよくなっていたのだが、監督と話す時間があったので、「女と女の戦いが多いけど、どうして男じゃないのか」と訊いたら、「おそらく僕の根底には「大砂塵」があるんだと思う」という答えが返ってきた。

「大砂塵」は、1953年のニコラス・レイ監督による西部劇。ヒーローであるはずのジャニー・ギター(スターリング・ヘイドン)を差し置いて、ラストに、ヴィエンナ(ジョーン・クロフォード)とエマ(マッセデス・マーケンブリッジ)の二人の女が壮絶に戦う。まっとうな西部劇のオールド・ファンの方々は、たいがい「音楽はいいけど、映画はあんまりおもしろくなかったなあ」といった感想を抱いている異色作である。
高橋監督は、この映画に大きな衝撃を受けたということだ。

青少年にトラウマと言ってもいいほど大きな衝撃を与える映画が、最近は少なくなったように思う。「旧支配者のキャロル」は、そうした希少な映画のひとつ、すさまじい重量感で腹の底にずしんと響いて来る映画だ。撮影5日間、ロケ場所はほぼ一箇所、出演者の数も少ない、わずか47分の尺に、ブラックホールと化す寸前の星のごとく凝縮された重量がこめられている(大仰に言ってみた(^^ゞ)
お茶の間では見ることのできない、そういう映画を見に劇場に足を運ぶというのは、映画ファンにとっては、大きな喜びである。

旧支配者のキャロル [DVD]

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