幕末ハードボイルド小説「コルトM1851残月」を読む

コルトM1851残月
月村了衛著(2013年) 講談社
★ネタばれあります!!

嘉永六年(1853年)。
江戸の商人郎次(通称残月)は、表向きは廻船問屋の番頭だが、実は江戸の裏社会を仕切る札差祝屋の親分儀平に仕えていた。自身で苦労して切り開いたルートにより、儀平から抜け荷を扱う仕事を一任され、またある「筋」とつながりを持ち目障りな人間がいれば容赦なくその筋に始末させていることから、若いながらも一目置かれていた。
が、あるとき、払いをごまかした船宿の女将おしまを手に掛けたことから、郎次の立場は急転、抜け荷の采配の仕事から下ろされてしまう。しかも自分を蚊帳の外に置いて祝屋の連中がある新商売に向けて着々と準備を進めていることを知る。それは幼い子どもを誘拐して売り飛ばす人身売買であった。ヘイコラへつらっていた者たちも敵にまわり、郎次は孤立無援となる。坂を転がるように急速に悪化していく状況の中、祝屋の番頭邦五郎の妾お連という思わぬ味方を得、郎次は反撃を試みる。
格好つけな文章はドラマの内容に合っていて、それはそれでよいと思うし、けなすつもりは毛頭ないのだが、完全に個人的な好みの問題で、ちょっと苦手である。
前半の郎次の羽振りのよさを示す豪遊の場面など正直退屈だったのだが、後半のたたみかけはおもしろくてわくわくした。
郎次は、幼い頃、父が一家心中を図り家族で一人だけ生き残ったという過去を持つ。鉄砲屋に生まれたお連は、病気の父を殺した過去を持つ。儀平は、一家心中を図り家族を殺して自分だけ生き残った過去を持つ。家族を殺した者と殺されかけた者との愛と対立のドラマであるとも言える。
が、主役はやはりタイトルロール(と言ってよいだろう)の銃である。
郎次の持つ「筋」とは、謎の殺人集団ではなく、一丁の拳銃、コルト1851ネイビーというリボルバーである。当時日本には連発銃がほとんどなかったようで、彼の襲撃を受けた男たちは、続けざまの銃撃に度肝を抜かれる。6発撃つと弾が切れるので、弾込めをしなければならないが、先込め式なので時間がかかる。郎次は急いでも数えて二百十かかる。
彼は、抜け荷のルートを切り開いているときに知り合った中国人の闇商人灰から、その銃を譲られた。灰から銃の使い方を習い、早撃ちも教わった。1発撃って相手の男たちが怯んだすきに、すかさずファニングで連射というのが、郎次の戦法である。ファニングとは、引き金を引いたまま撃鉄を手のひらで煽ぐように連打するもので、西部劇でよく見かける。そんなに正確に当たりそうに思えないのだが、動作としてはたいへんかっこいい。
ということで、郎次は、バックに恐ろしい殺人集団がいると思われていることで安全を確保していたので、実は拳銃一丁のことだったとばれてしまうと大変まずく、しかも数の限られた弾丸はことあるごとに減っていく。この辺のはらはら感がいい。
以下に銃についての描写を引用する。
黒色火薬と弾丸を前から押し込む前装式、即ち先込め式による最後の発射機構にして、点火に雷管を使う雷管式−パーカッション・ロックを取り入れたパーカッション・リボルバー。一九四七年に開発された四十四口径のM1848ドラグーンを経て、海軍用に小型軽量化された三十六口径のパーカッション・リボルバーが、M1851ネイビーである。もっとも、そうした来歴まではさすがに灰も知る由はない。
八角形の細長い銃身。先端上部に真鍮の突起。闇にわだかまるすべてを鋭く裂くその美しさに、郎次は魅入られたように立ち尽くした。」

 たまたま、西部劇ファン仲間である銃好きの知り合いが手に入れた現物(骨董品扱いなので違法ではありません)を見せてもらう機会があった。銃口はたしかに細身で八角形の銃筒がなんとも美しい。手にすると、ずしっと、しっとりと、くる感じだった。

コルトM1851残月

コルトM1851残月