映画「霊的ボリシェヴィキ」を見る(感想)

霊的ボリシェヴィキ
2017年 日本 製作:映画美学校 72分
監督・脚本:高橋洋
タイトル原作(言葉の提唱者):武田崇元神道霊学研究家)
撮影:山田達也
録音・霊的効果音:臼井勝
音楽:長蔦寛幸
出演:由紀子(韓英恵/幼少期:本間菜穂)、安藤(由紀子の婚約者。巴山祐樹)、宮路(霊媒師。長宗我部陽子)、浅野(研究者。高城公祐)、片岡(助手。近藤笑菜)、長尾(老婦人。南谷朝子)、三田(元刑務官。伊藤洋三郎)、由紀子の母(河野知美)

公開に先駆け、試写会で見せていただきました。
高橋洋監督最新作は「霊的ボリシェヴィキ」というのだ、と聞いたときは「まさに!」と思った。しかも原作者(提唱者)が他にいるというのだから、映画のタイトルとしては実にゴージャスである。
とはいいながら、わたしは「霊的」についても「ボリシェヴィキ」についてもよく知らないのだった。大学時代に学生運動に打ち込んでいた年上の知人にこの映画について、「そういえば今年はロシア革命からちょうど100年なんだよね。それと何か関係あるの?」「で、映画はどのへんがボリシェヴィキなの?」とぐいぐい質問されたのだが、わたしはどう答えていいかわからず、しどろもどろに「レーニンスターリンの写真が飾ってありました」とか「みんなでロシア語の歌を歌ってました」とか答えるのがやっとだった。あとから考えると、登場人物らが霊的な「革命」を起こそうとする一団ってことなんかと漠然と思ったりしたのだが。
前作「旧支配者のキャロル」は、終始陰惨な空気の中に仰々しさが渦巻いていて、その迫力がすごかったのだが、今回はそれに比べるとだいぶ端正で洗練されたつくりに思えた。
倉庫のような場所に、人の死に居合わせたことのある男女がゲストとして呼ばれる。幼いころ神隠しにあったという由紀子とその婚約者安藤、老婦人の長尾、元刑務官の三田の4人で、呼んだのは霊とかそういう研究をしているらしい学者っぽい男浅野、そして霊媒師の宮路(監督が好む、険しい顔つきをした足の悪い中高年の女性である)も同席している。なんの経過もなく、のっけからいきなり謎の会合というのは、たいへん潔い。
部屋にはたくさんの集音マイクが設置され、浅野の助手の片岡(若い女性)が彼らの話も含めそこに生じる音を録音し記録する。試写会で配られた資料には「強すぎる霊気により一切のデジタル機器が通用しないこの場所で、静かにアナログのテープが回り始める。」とあるが、映画の中ではそうした説明はないので何も知らずに映画に臨むと、なぜか旧式な録音機材で録音しているな、その方が何かものものしくてかっこいいからかななどと思いながら観ることになる。
冒頭の三田の死刑囚の話にはぐいぐいと引き込まれる。コティングレー妖精事件を引き合いに出すあたりも程よく気持ちがざわつく。写真が偽物だったことは説明されるが、その事実を超えてあの写真には不思議な吸引力があると、あれを目にした者なら大概そう感じるのではないか。霊気が高まっていることを示すのに、よくある星とか波とかが書かれたESPカードを使わずトランプを用いたのはエレガントだ。
全員が話し終わってそうして何が起こるのか、どきどき感が高まる中、霊媒師の宮路が「あの世」について発言するにあたって、状況は混乱を増していく。
映画「恐怖」のときも感じたが、見えないものを見せないことで、観る者の中にただならぬ恐怖を呼び込もうという姿勢は、揺るがないと思った。呼び込もうとしているのは桁外れのもの、映像は一方的に観るものだけでなく、映像の中の者も観る側に働きかけてくるというのは、高橋洋によって繰り返し示されてきたイメージだ。彼によればこれはライブ型エンターテインメント、霊体験を「楽しむ」、畏れ知らずの映画ということなのだろうか。

★2018年2月10日、澁谷のユーロスペースにて公開予定
霊的ボリシェヴィキ」HP
https://spiritualbolshevik.wixsite.com/bolsheviki
予告編
https://www.youtube.com/watch?v=T5Re5N1rC1k

霊的ボリシェヴィキ [DVD]

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  • 発売日: 2019/06/05
  • メディア: DVD