映画「ある町の高い煙突」を見る(感想)

ある町の高い煙突

2019年 日本 エレファントハウス=Kムーヴ 130分

監督:松村克弥

原作:新田次郎「ある町の高い煙突」

出演:関根三郎[関右馬充](井出麻渡)、関根兵馬(三郎の義理の祖父。仲代達矢)、関根恒吉(伊嵜充則)、ふみ(関根家女中頭。小林綾子)、深作覚司(入四間村村長。六平直政)、平林左衛門(篠原篤)、孫作(左衛門の弟。城之内正明)

加屋淳平[角弥太郎](日立鉱山庶務係。渡辺大)、加屋千穂(淳平の妹。小島梨里杏)、木原吉之助[久原房之助](日立鉱山開業者。吉川晃司)、大平浪三[小平浪平](日立鉱山水力発電所所長。石井正則)、如月良之輔(日立鉱山診療所医師。渡辺裕之)、八尾定吉日立鉱山補償係。蛍雪次郎)、志村教授(政府御用学者。大和田伸也)、権藤(日立鉱山株主。斎藤洋介)

私は茨城県日立市の出身である。「大雄院(だいおういん)の煙突」は、子どものころからよく目にした。日立市街へ出て山の方を見れば、いつも山の斜面に直立していて、そこにあるのが当たり前のものだった。煙突の絵を焼き付けた「東洋一」という名の瓦煎餅があって、私はそれで「東洋一」という物言いを知ったものだ。東京に住むようになってだいぶ経った1993年、「大煙突がぽっきり折れた」というニュースを見た。久々に大煙突のことを思い出すとともに、ことのほかショックだったことを覚えている。

日立に「だいおういん」という地名はないのに、なぜか煙突とセットになって使われていた。どういう字を書くかも知らなかった。今になって調べて、初めて大雄院という古いお寺の跡地に、日立鉱山の精錬所が建てられたのだと知った。

前置きが長くなったが、この映画は、明治の終わりから大正にかけて、煙害対策のために、企業(日立鉱山)と地元住民(入四間村の農家)がすったもんだのあげくに協働して大煙突を建てる話である(煙突の始動は1915年)。新田次郎の小説にもなったので、全国的に有名な話かと思ったら、どうやらそうでもないようだ。ご当地映画のようになっているが、地元住民と企業との協働による公害対策というテーマは一般的なものであり、その先駆けと言える大煙突建設は当時ならではのアナログな手法も含めて興味深い題材だと思うので、この映画でその歴史的事実が多くの人の知るところとなればと思う。

小説はだいぶ前に読んだので細かい部分は覚えていないのだが、精錬所が出す亜硫酸ガスを含んだ煙によって田畑に大きな被害を受けた農家の人たちのため、旧家の青年(映画では関根三郎)が進学をあきらめて村の代表として鉱山会社と交渉を行い、会社側もそれに応じて、ただ補償金を払うだけでなく、煙害を失くすための策を講じるようになっていき、ついに世界一の(当時)大煙突を立てるという大筋は映画と同じだ。合間に、主人公と結核の女性(映画では知恵)との恋などが差しはさまれる。

映画では(小説でもあったのかもしれないが)、そうした交渉の前に、死に瀕した村の長老の往診に鉱山会社の診療所の医師が駆けつけたり(渡辺裕之演じる医者がしぶい)、土砂崩れにあった鉱山会社の施設に青年隊が救助に向かったりなどと両者のやりとりがあった。

三郎は、入四間村の代表として村の衆と鉱山会社の間に立って奮闘するが、交渉を重ねるにつれて鉱山会社の庶務係加屋淳平と親しくなっていく。対立関係の中で芽生える友情がなかなかいい。

村の若者たちが猟銃を持って会社に殴り込んだり、煙道により被害がさらに大きくなって孫作が三郎に八つ当たりしたりする暴力的な場面や、総力挙げての大煙突の工事現場の場面など、男たちが躍動するシーンは面白く見たが、合間にさしはさまれる、三郎と加屋の妹知恵との出会いやデートもどきのシーンは正直だいぶ気恥ずかしかった。(知恵が結核で茅ケ崎の病院に入院し、一目会おうと三郎がはるばる訪ねて行って、海岸の散歩の際に二人が距離を隔てて再会と最後の別れをするシーンは、これはこれでよかった。)

鉱山会社の煙害対策は、むかで煙道、あほ煙突という苦い経験を経て大煙突にたどり着く。

国策に逆らう大工事のため、開業者の木原が政府を説得して、承認を得る。映画では、木原(吉川晃司)はただ鉱山会社のオフィスで背中を見せ黙して語らずの男だったが、吉川晃司演じる木原が政府を説得する様は、見たかったように思う。

ちなみに、水力発電所所長で有能な電気技師として登場する大平浪平は、日立製作所の創業者(小平浪平)である。また、今でも日立の山に咲く桜はほぼ山桜で、これは煙害に強い桜を移植したことの名残りだという。

公式HP https://www.takaientotsu.jp/