「ザリガニの鳴くところ」を読む(感想)

ザリガニの鳴くところ Where the Craawdads Sing 
ディーリア・オーエンズ(2018)
友廣純訳 早川書房(2020)
当時人物:
カイア(キャサリン・ダニエル・クラーク)
ジェイク(父)、マリア(母)、ジョディ(兄)、ミッシー(姉)、マーフィ(長兄)、マンディ(次兄)、
テイト・ウォーカー、ジャンピン(船着き場の燃料店<ガス&ベイト>店主)、メイベル(ジャンピンの妻)、
スカッパー(漁師。テイトの父)、サリー・カルペッパー(無断欠席補導員)、サラ・シングルタリー(食料品店の店員)、パンジー・プライス(雑貨店店主)、ロバート・フォスター(書籍編集者)、
チェイス・アンドルーズ、サム(チェイスの父)、パティ・ラブ(チェイスの母)、エド・ジャクソン保安官、ジョー・パーデュ保安官補、ヴァーン・マーフィー(医師)、トム・ミルトン(弁護士)、シムズ(判事)、チャスティン(検事)
ビッグ・レッド(かもめ)、サンディ・ジャスティス(猫)

★注意。あらすじを書いています★

 

1950~60年代のアメリカ、ノース・カロライナ州の海岸地方に広がる湿地と田舎町バークリー・コーブが舞台。家族に捨てられ、湿地に建つ粗末な小屋に取り残された幼い少女カイアは、ごく少数の周囲の人たちに助けられながら、生きていくすべを見出し、心身ともに成長していく。彼女が23歳のとき、湿地で殺人事件が起こり、カイアに犯人の容疑がかかるが、という話。
カイアは、湿地の小屋で両親と姉、3人の兄とともに極貧のうちに暮らしていたが、1952年、母親が家を出ていくと、相次いで姉と2人の兄がいなくなり、カイアが最も仲のよかった3兄のジョディも別れを告げて出ていく。カイアは父と二人残される。父は富裕階級の出だが、恐慌で家が破産し、戦争で足を負傷して復員してからは、仕事につかず酒を飲んでは家族に暴力を振るっていた。6歳のカイアは料理と掃除をし、ボートでの釣りを覚えたいと父に言い、父もだいぶおだやかになって二人でうまくやっていたが、ある日母から届いた手紙を読んでから父は再び酒におぼれて留守がちになり、ついに帰ってこなくなった。
カイアは、湿地の水辺で掘り集めた貝や釣りをして得た魚の燻製を売って収入を得ることを覚える。カイアを学校に行かせようとして無断欠席補導員(役場の関係者か)が何度か尋ねてくるが、カイアはそのたびに姿を隠して逃れるため、公的な保護の手は彼女には届かない。船着き場にある燃料店を営んでいる黒人のジャンピンとその妻メイベルは彼女を気にかけ、魚の燻製が売り物にならないと知りつつも引き取ってくれたり、教会の寄付で集まった衣類を分けてくれたりした。ジョディの友だちだった漁師の息子のテイトもカイアを気にかけ、読み書きを教えてくれる。カイアは、湿地に棲む鳥の羽などを集めて小屋の壁に貼り、独自のコレクションをつくっていたが、テイトも湿地にいる動植物が好きで話が合うのだった。
が、やがて、テイトは大学で生物の研究をして学者になる夢を果たすため、町を出ていく、休暇には戻ってくるといいつつ、彼はカイアとの約束を破り、研究を優先する。
カイアは、「湿地の少女」と呼ばれ、町の人たちから蔑まれ、好奇の目で見られながらも、独学で動植物について学んで知識を深め、美しく成長する。家が裕福でスポーツマンでイケメンで女好きのチェイスが、カイアに接近してくる。テイトに裏切られたカイアは、チェイスとつきあい結婚の約束をするが、チェイスにとってカイアは数あるガールフレンドの一人、ものめずらしさからつきあっているだけの存在だった。
1969年、そのチェイスの死体が、湿地にある火の見櫓の下で発見される。墜落死と思われたが、その死には不審な点があり、やがてカイアが殺人の疑いで逮捕される。終盤は裁判劇となる。
1952年から1969年までのカイアの生活と1969年の殺人事件の捜査の様子が交互に描かれるが、あまりミステリという感じではない。
前半は、帰らない母を待ち、なんとか父とうまくやろうとする幼いカイアが不憫である。字が読めないのに、父が焼き捨てた母からの手紙の燃えカスを集めてビンに入れてとっておくところなど読んでいて胸がいたむ。幼い子どもがつらい境遇に陥る設定もあり、このあたりは児童文学のような感じが強い。
が、テイトが大学を卒業して町に戻り、湿地の近くにできた研究所勤務となり、カイアの生きものコレクションを見て出版社に話を持ち込み、カイアが湿地の生物の専門家として本を出すにあたっては、話があまりに都合よく進み過ぎてなんだか絵空事めいて見えてきてしまった。
ジョディとの再会はよかった。ここで、ジョディの顔の凄惨な傷跡とともに、父の暴力がどれほとひどかったかが明かされ、母が戻れなかった理由にカイアは改めて気づく。ジョディから家の電話番号を渡され、電話をかける兄弟がいることに新鮮な喜びを覚えるカイアが健気である。
殺人事件とカイアとの関わりは読者に真相が知らされないまま裁判となるが、結末は意外でも何でもない。ということからも、これはミステリというよりは、湿地に生きる少女の稀有な生き様を追う小説だと思った。
タイトルは、カイアの母がよく口にしていた言葉で、そういう物言いがあるのかもしれない。テイトの説明によれば、「茂みの奥深く、生き物たちが自然のままで生きている場所」のことだそうだ。

 

 

 

映画「ラストナイト・イン・ソーホー」を見る(感想)

ラストナイト・イン・ソーホー LAST NIGHT IN SOHO
2021年 アメリカ  118分
監督・原案・脚本:エドガー・ライト
出演:エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)、サンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)、ジャック(マット・スミス)、銀髪の男(テレンス・スタンプ)、ジョン(マイケル・アジャオ)、ミス・コリンズ(ダイアナ・リグ)、ジョカスタ(シノーヴ・カールセン)

★注意。最後のネタバレはしてませんが、映画のあらすじを書いています!

 

ファッションデザイナーになるため田舎からロンドンに出てきた少女と、60年前にやはり夢を抱いてロンドンにやってきた少女が時を超えて同調し、次第に過去の犯罪が明らかになっていくサスペンスホラー。ダークファンタジーと呼ぶのが今風かもしれない。
田舎で祖母と暮らすエロイーズは、特殊な能力を持っていて、子どものころ自殺した母の姿を見ることができる。
彼女はロンドンのデザイン学校に合格し、あこがれのデザイナーになるため、上京する。しかし、寮の派手な女子たちになじめず、寮を出て、コリンズという老婦人が所有するソーホーの古い家の屋根裏部屋を間借りする。
屋根裏部屋で眠るようになってから、夜ごとエロイーズは夢の中で60年代に同じ部屋に住んでいた女性サンディとなって、彼女の体験をたどることになる。歌手志望だったサンディは、大きなナイトクラブに乗り込んで自分を売り込み、マネージャーのジャックの気を引いて他の店でのデビューを勝ち取る。が、その店は風俗店で、ジャックはサンディに客を取らせるようになるのだった。夢と希望に満ちてはつらつとしていたサンディは、だんだんと自堕落になっていく。
祖母と暮らしていたせいか、エロイーズは60年代に憧れ、当時のファッションや音楽が好きである。夢の中でサンディが着ていたピンクのワンピースのデザイン画を描いて授業で教師に褒められるが、いじめっ子のジョカスタらはそれが気に入らない。クラスメイトのジョンは、当初からエロイーズのことを気にかけていて、何かと近寄ってくる。
そうしたデザイン学校での日常の一方、毎晩夢で見るサンディの物語は日を追うごとに悲惨になっていき、ついにサンディはベッドの中でジャックに刃を向けられる。エロイーズは、過去の殺人事件を夢で見たうえに、サンディを金で買った顔のないスーツ姿の男たちの亡霊に悩まされる。やがて追い詰められた彼女は、意外な真相を知ることに。
夢を抱いてロンドンにやってきた少女が都会のパワーに圧倒されていくという点は、エロイーズとサンディに共通するが、二人はだいぶ対照的だ。きらびやかな60年代のロンドンの街を舞台に華やかなサンディにシンクロした地味なエロイーズの鏡を使った描写が見事。がんがん鳴り響く音楽は通にはこたえられないらしいが、私には少々過剰に感じられた。
「ベイビードライバー」の監督ということで、同作と同様、行き届いた映画づくりの妙を感じたが、勝手なもので、行き届きすぎてもっと野放図なところがあってもいいのではと思わなくもなかった。
テレンス・スタンプが謎の銀髪の男役で顔を見せるが、ちょっともったいない使われ方だった。

lnis.jp

 

映画「DUNE/デューン 砂の惑星」を見る(感想)

DUNE/デューン 砂の惑星 DUNE PART ONE
2020年 アメリカ 155分
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作:「デューン 砂の惑星フランク・ハーバート
出演:
ポール・アトレイデス(ティモシー・シャラメ)、ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)、レト・アトレイデス侯爵(オスカー・アイザック)、ガイウス・ヘレネ・モヒアム(ベネ・ゲセリットの教母。シャーロット・ランプリング)、ダンカン・アイダホ(ジェイソン・モモア)、ガーニイ・ハレック(ジョシュ・ブローリン)、ユエ医師(チャン・チェン
ハルコンネン男爵(ステラン・スカルスガルド)、ラッバーン(ハルコンネンの甥。デイヴ・バウティスタ
スティルガー(フレメンのリーダー。ハビエル・バルデム)、チャニ(ゼンデイヤ)、ジャミス(バブス・オルサンモクン)

★注意! 映画の内容(すじがき)について書いています。★

 

原作は読んだことがなく、デヴィッド・リンチ監督による映画も見ていないので、なんの予備知識もなく見た。専門用語がいろいろ出てきて戸惑う。香料、フレメン、砂虫(サンドワーム)などは比較的すぐわかるが、「ベネ・ゲセリット」(特殊能力を持つ女性による秘密結社らしい)、「クウィサッツ・ハデラック」(ベネ・ゲセリットが育て配下に置くことを望む万能の能力者のことらしい)などは検索しないとわからない。

宇宙帝国の皇帝が宇宙に君臨している、西暦1万なん年かの遠い未来の話。
惑星アラキスは、人間が暮らすには過酷な条件の星だった。星全体に砂漠が広がっているため、日中の地上は灼熱の地獄となり、しかも砂の中には砂虫(サンドアーム)と呼ばれる巨大な生物が生息していて人を襲う。しかし、アラキスは、帝国になくてはならない物質「香料」(原語はspice。麻薬のような成分も含まれるらしい)の希少な産地であるため、発掘精製をするための施設を置き、管理者を派遣していた。また、アラキスには、フレメンと呼ばれる先住民族がいて地下に町を作って暮らしていた。レト・アトレイデス侯爵は、前任者ハルコンネン男爵に替わり、アラキスでの任務を命じられる。レトは、ジェシカ(正室ではないらしい)と息子のポール、及び配下の者たちを伴ってアラキスに赴き、フレメンと友好関係を築きながら、香料の発掘作業を進めていこうとする。
が、ハルコンネンの陰謀により、レトは命を落とし、ジェシカとポールは砂漠に逃れてフレメンと合流し、起死回生を誓うのだった。というところで、「つづく」となる。
ジェシカは、「ベネ・ゲセリット」という秘密組織に属し、声で人を操る特殊能力を持つ。幼いころから彼女に「訓練」されてきたポールには、予知夢を見ることで未来を知る能力が芽生えつつある。彼の夢の中に何度も出てくる女性は、フレメンのチャニという女性で、映画の最後の方でやっとポールは彼女に出会う。

主役のシャラメのイケメンぶりが話題をさらっていて確かに悪くはないが、私としては、彼が兄のように慕う兵士ダンカンがよかった。ポールを守る姿は弁慶のようであり、戦いぶりは三国志に登場する豪傑のようであった。本作だけで姿を消してしまうのがとても残念である。
妻を人質に取られ不本意ながら主人のレトに毒を盛る医師ユエもなかなかよかった。彼の画策により瀕死のレトはハルコンネンを巻き込んで自爆するが、ハルコンネンはしぶといのだった。(彼が反重力装置で宙に浮くのは肥満のあまり自分の体重を支えられないためだと検索して説明を読めばわかるのだが、映画だけ見てもよくわからない。)
しかし、この映画の主役はなんといっても砂漠だろう。茶系色のみの単調な画面が続き、灼熱の中、ざらざらとした砂粒が身体にこびりついてくる感じが伝わってきてなんとも息苦しいが、紋様のついた砂漠が画面いっぱいに広がる荒漠たる風景に圧倒される。砂虫が襲ってくる場面も迫力がある。
トンボのようなヘリコプターもどきの羽ばたき機は「風の谷のナウシカ」(1984)に出てくる飛行機械を思わせ、砂虫は、「トレマーズ」(1989)のグラボイスのようであるが、いずれも原作小説(1965)の方が先なのだろう。砂虫は、ナウシカのオームのようでもあるという感想も聞くが、しかし、形状的には「ゲゲゲの鬼太郎」に出てきて、水木しげるの「妖怪事典」にも載っている野づちを思わせ、これは日本古来の妖怪なのだった。

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映画「最後の決闘裁判」を見る(感想)

最後の決闘裁判  THE LAST DUEL
2021年 アメリカ 153分
監督:リドリー・スコット
脚本:ベン・アフレックマット・デイモン、ニコール・ホロフセナー
原作:エリック・ジャイガー「決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル」
出演:ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)、ジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)、マルグリット(ジョディ・カマ―)、アランソン伯爵ピエール2世(ベン・アフレック)、シャルル6世(アレックス・ロウザー)、ニコル・ド・カルージュ(ジャンの母。ハリエット・ウォルター)、クリスピン(マートン・ソーカス)、ロバート・ティボヴィーユ卿(マルグリットの父。ナサニエル・パーカー)

★注意! 決闘の結果など、映画の内容に触れています。★

 

中世のフランスが舞台。騎士たちの男の戦いの映画かと思ったら、どうやら「羅生門」らしいと聞いて、それなら、男女の愛憎が入り混じった愛欲の人間ドラマなのかと思ったら、性犯罪を巡る現代的な女性目線の映画だった。
暗い映画だよと見た人から聞いていたので覚悟して見たのだが、見応えは充分あった。鎧兜をまとっての決闘シーンは迫力があり、中世の衣装や城の内外など、重厚な画面を楽しめた。

騎士カルージュの妻マルグリットが、従騎士ル・グリに強姦されたと夫に告げ、夫は国王に訴えて裁判が行われる。しかし、裁判では決着がつかず、男二人が決闘することになるという話。

ジャン・ド・カルージュは、生まれは高貴で強くて勇敢な騎士だが、芸術や文学には疎く、女性の扱いに慣れていない武骨な男だ。一方、従騎士ジャック・ル・グリは、貧しい境遇からのし上がってきた男、聖職者を目指していたためラテン語を解し、芸術や文学に詳しく、男前で女性にもてる。一帯の領主である伯爵ピエールは、田舎者のジャンを嫌い、スマートで洗練されたジャックがお気に入りである。戦闘でジャンはジャックの命を救い、二人は友人同士だったが、ピエールがジャックを厚遇し、ジャンのものになるはずだった土地を与え、ジャンが父の死後受け継ぐはずだったカルージュ家の役職にジャックを任命する。そうしたことが重なり、事件が起こる前から二人の男の間には亀裂が生じていた。

映画では、まずジャンの視点から、ついでジャックの視点から、最後にマルグリットの視点から、事件前後のそれぞれの事情と事件の場面(ここは当事者の二人によるもの)が描かれ、後半は、裁判と決闘のシーンとなる。
愛する妻の名誉を守るため卑怯な仇敵と戦う騎士というクラシックな男気の映画を期待すると違うし、三人の男女が違うことを言い張って真実は藪の中に、というのとも違う。
羅生門」では、3人の言うことが明らかに食い違っていて、幽霊も嘘をつくのかと驚いたものだ。だが、この映画では問題となる一件について、夫のジャンはその場にいないし、当事者の二人の言うことは大筋では矛盾していない。ジャックが襲ってきたとき、ジャック目線では、マルグリットは助けを求めて人の名(使用人はいないはずなので侍女の名ではないと思うのだが誰の名だったか未確認)を1回だけ呼ぶが、マルグリット目線では何度も叫ぶ。マルグリットがジャンに告白したとき、ジャン目線ではすぐマルグリットを抱きしめるが、マルグリット目線ではジャンはそうはしない。ほかにもあったと思うが、共通場面については、語る側が無意識にせよ意識しているにせよ自分や相手の言動のちょっとした部分に違いがあると言った感じである。

決闘で優勢になったジャンは、ジャックに真実を告げるよう迫るが、ジャックはあれは強姦ではないと言い張る。それは、嘘というよりはそう信じ切っているようにも見える。ジャンは、そういうことはわからないからマルグリットに対しての疑惑は消えない。男たちについて言えば、負けた方は悲惨だが、勝った側も晴れ晴れとはならない。決闘に勝ったのに喜べないヒーローというのは珍しい。磔を免れ、息子(ジャックの子である可能性大である)を育てて長生きしたマルグリットが結果的に勝者ということになるのだろうか。
女性は絶頂に達しないと妊娠しない、姦淫では妊娠しない、決闘に勝った方が真実を言っていると神が判断したとするなど、中世の理不尽な価値観に驚くが、性犯罪やセクハラ問題における男女の意見の食い違いは今も変わらずと思うと、男女間の深い溝をいまさらながら目の当たりにするような気がした。

 

www.20thcenturystudios.jp

西部劇「ハーダー・ゼイ・フォール」を配信前に映画館で見る(感想)

ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野  Harder They Fall
2021年 アメリカ Netflix 138分
監督:ジェイムズ・サミュエル
出演・ナット・ラブ(ジョナサン・メジャース)、ステージコーチ・メアリー/メアリー・フィールズ(ザジー・ビーツ)、ビル・ピケット(エディ・ガテギ)、ジム・ベックワース(RJ・サイラー)、カフィ(ダニエル・デッドワイラー)、バス・リーブス保安官(デルロイ・リンド)、
ルーファス・バック(イドリス・エルバ)、トゥルーディ・スミス(レジーナ・キング)、チェロキー・ビル(ラキース・スタンフィールド)
ワイリー・エスコー(保安官兼町長。デオン・コール)

Netflix配信前の映画館での上映で見る。
出演者が黒人ばかりの西部劇である。予告編を見ると、ラップ音楽バックに、無法者が非情に銃を撃ちまくる場面が立て続けに映るので、スタイリッシュなPVみたいな映画かという印象を持ったのだが、映画館で西部劇を見られる機会なので、上映最終日に見に行く。
まっとうな復讐ものウエスタンだった。家族を殺された男がナット・ラブと名乗るギャングのボスとなる。ギャングはいったん解散するが、収監されていた仇敵のルーファス・バックが出獄したことを知って復讐を決意、仲間も再び集まってきて、ギャング対ギャングの対決となる。
敵味方それぞれの一味の面々がよい。ナット・ラブ演じるジョナサン・メジャースは特にかっこいいいわけではなくそのへんにいる気のいいおじさんのような風貌だがそれで無法者というのが逆にいいかも、やり手の女店主で元カノのメアリ、ライフル使いでクールなビル・ピケット、早撃ち自慢の陽気な若者ジム、小柄な若者だけど敏捷で銃にも喧嘩にも強いカフィ(実は・・・)、ナットのことをよく知っているベテラン保安官のリーブスなど。対するルーファス・バック団は、ルーファスもかっこいいが、その片腕の女トゥルーディがてきぱきしていて気に入った。チェロキー・ビルは早撃ちで知られるガンマン、陽気なジムとは対照的に陰気で冷酷だ。
映画に出てくるのはほぼ黒人で、店や町も黒人ばかりである。護送列車からのルーファスの脱走(釈放)シーンには警備の騎兵隊員たちが、ナット・ラブの一味が大金を得るため襲う白人の銀行内には白人がたくさん出てくるが、みんな端役扱いだ。この銀行強盗は、カフィが活躍、痛快なシーンとなっている。
最後はギャング対ギャングの激しい銃撃戦が展開。ナットとルーファスの対決はこう来たかという感じでなかなか衝撃的だ。
音楽のことは本当によくわからないので説明できないのだが、ラップはほとんど聞かれず、どちらかというとレゲエっぽい感じの曲がかかったり、あきらかに黒人音楽かかりまくりではあると思うのだが、違和感がなかった。
ちょっとマカロニ風味で、重厚感があり、かといって暗くなりすぎず、よかったと思う。

タイトルは、ジミー・クリフの有名な唄「ハーダー・ゼイ・カム」の一節から来ているものと思われる。
Harader they come, harder they fall, one and all
(奴らがひどいことをすればするほど、奴らはひどい死に方をする、そろいもそろって、と言ったような意味だったと思う。

映画の冒頭、「物語はフィクションだが、人物は実在した」と字幕が出る。日本では、ビリー・ザ・キッドや、ジェシー・ジェームズほど有名ではないが、アメリカでは知られている人物が揃っているようだ。ただし、有名人を集めてみたという感じで、字幕の示す通り、物語自体は事実無根のようだ。西部劇仲間が教えてくれたので、受け売りで記す。(goghさん、Tさん、ありがとうございます。)
ナット・ラブ:有名な黒人のカウボーイ。ルーファス・ギャングとのつながりは見られず。
ルーファス・バック:実在のギャング。一味は、黒人とインディアンの混成ギャングだったらしい。
チェロキー・ビル:母親がチェロキー族と黒人の混血のため、インディアン・アウトローとして知られる。フォートスミスで絞首刑になった。
メアリー・フィールズ(ステージコーチ・メアリー):黒人女性初の郵便配達人。
ビル・ピケット:黒人のカウボーイでロディオパフォーマー。ワイルド・ウエスト・ショーや無声映画にも出演していたそうだ。
ジム・ベックワース:19世紀初めの黒人のマウンテンマン。ルーファス・ギャングと時代的に重ならず。

www.netflix.com

映画「ベイビーわるきゅーれ」を見る(感想)

ベイビーわるきゅーれ
2021年 日本 渋谷プロダクション 95分
監督・脚本:阪元裕吾
アクション監督:園村健介
出演:杉本ちさと(高石あかり)、深川まひろ(伊澤彩織)、渡部(三元雅芸)、浜岡ひまり(秋谷百音)、浜岡一平(本宮泰風)、浜岡かずき(うえきサトシ)、姫子(福島雪菜

★映画の内容について書いています★

ちさととまひろは、十代の女の子二人組の殺し屋。二人は、高校を卒業後、同居して、本業とは別にアルバイトをして普通の社会人としての素養を身に着けるよう、「会社」から指令を受ける。
人殺しに精を出す傍ら、慣れないバイトに四苦八苦する二人。銃の扱いがうまく、陽気なちさとと、格闘技に長け、口下手でコミュ障のまひろの二人の対照がよく、血しぶきが飛び散る荒仕事をこなす一方で、面接やバイトでいやな目に遭い、ささいなことで喧嘩をして気まずくなったりとごくありがちな青春を送る日々が描かれる。
殺し屋とふつうの生活というギャップのおかしさは、そう目新しいものではない。最近では「ファブル」があるし、「モンタナの目撃者」の殺し屋二人組もそういうところがあった。ビジネスとして成立している死体処理屋は「パルプフィクション」で最初に見たと思う。ここでは、殺し屋が若い女の子である点がポイントとなっているのだろう。
が、女の子好きにはおもしろいのだろうが、だんだんちょっと飽きてくる。ちさとが高い声できゃあきゃあ言うと何言ってるかわからないし、まひろが口の中でぼそぼそいうぼやきも聞き取りにくい。メイド喫茶もいまさらという気がする。
とにかくアクションシーンがよい。少女がプロの殺し屋という設定のアクション映画と聞くと、この娘は強いのだという設定に頼った割としょぼいアクションを見せられるのではという予感をぬぐえないのだが(いや、映画はそれはそれでいいと思うのであるが)、これはそれを裏切ってくれたと思う。
ちさとの銃さばき、特にメイド喫茶での瞬殺はかっこよかった。が、なんといってもまひろの格闘シーンがいい(まひろ役の伊澤彩織はスタントウーマンだそうだ)。いくら女の子が強い設定でも、ちょいと肘鉄かましたり、片足でちょこっと蹴っただけで大の男が吹っ飛ぶか?といった違和感がない。壁に背をつけて両足で蹴れば、男が吹っ飛んでもそうかもと思える。抱え込まれると小柄な身体で敏捷にするりと抜け出し、組み伏せられると相手から奪ったナイフでガシガシ刺しまくる。冒頭とラストと2つのシーンで男たち相手の立ち回りをたっぷり見せてくれる。さんざん戦った後で、「疲れた」とだるそうにぼやく。痛快だ。

映画「ベイビーわるきゅーれ」二人は殺し屋その正体は監督:阪元裕吾 主演:高石あかり,伊澤彩織

映画「嘘つきジャンヌ・ダルク」を配信で見る(感想)

嘘つきジャンヌ・ダルク 第一部・第二部・第三部   コロナ下で映画をつくる vol.2
2021年 日本 58分(3部合計)  YouTube公開
製作:映画美学校 フィクションコース高等科第23期コラボレーション作品
監督(第三部)・監修(第一部・第二部):高橋洋
出演:ジャンヌ・ダルク(太田恵里佳)、カトリーヌ(小林未歩)、シャルル/レイモン/コーション司教(巴山祐樹)、イザボー・ド・バヴィエール(浅田麻衣)
●第一部 羊飼いの娘 21分
監督:福井秀策
脚本:高橋洋
演出:雉子波佑、倉谷真由
●第二部 乙女の剣で死ね 17分
監督:倉谷真由
脚本:倉谷真由 高橋洋
演出:内藤悟 根岸摩耶
●第三部 神さまはひとりぼっち 20分
監督:高橋洋
脚本:高橋洋、福井秀策、倉谷真由
演出:福井秀策 倉谷真由

ジャンヌ・ダルクについては全く詳しくないのだが、わたしはその名を聞くと痛々しいものを感じてしまう。こどものころ初めて彼女のことを知った時は、なんてかっこいい!と思ったが、後に火刑に処されたと知り、死んだ後も女戦士というよりも処女や巫女に強い関心を抱く古今東西の研究者や作家たちにいいように論じられ描かれてきたことを思うと痛ましさを感じざるを得ないのだ。

で、このたびも「嘘つき」呼ばわりされるジャンヌ・ダルクというテーマについては複雑な思いなのだが、映画は独自の世界でなかなかおもしろかった。「コロナ下で映画をつくる vol.2」というシリーズ名が映画の内容を補足している。コロナ下で撮ったから、ロケもできないし、人もたくさん出せない中で、いろいろ頭をひねって考えたんだなと思うと、奇抜な画面も受け入れやすくなる。

映画美学校内のバルコニーや廊下や階段を舞台に使い、壁面映写を駆使して、時にスタッフも巻き込みながら、音で盛り上げ、独自の世界を描く戦法である。
冒頭、木々の向こうに草原が広がる田舎の風景をバックに羊飼いの娘のかっこうをしたジャンヌが歌いながら歩いているカットは昔懐かしいスクリーンプロセスによる撮影、画面が引いて壁に田舎の風景が映写された室内の様子が全面に示されると一気に小劇場のお芝居風(見たことないけどゲキ×シネ風か)になり、ジャンヌの友人カトリーヌが登場して床に映された草原の上に横たわるとプロジェクション・マッピングといった感じになる。

以後、映画はこうした手法を次々に繰り出して展開する。鉄製のバルコニーを利用した群衆シーンや、ジャンヌの白い服に炎を映し出す火刑のシーンなどなど、できうる限りのアイデアと技術を駆使して、奇妙だが見応えのある画面を作り上げていたと思う。
しかし、個人的にもっとも好きなのは、ごくシンプルな、ジャンヌが馬を駆るカットだった。アップで身体を(カメラを?)それらしく揺らして馬の蹄の音を入れれば、騎乗の人となる。映画らしいカットだと思った。

ジャンヌとカトリーヌのコンビがいい感じだった。「20世紀少年 第2章 最後の希望」の平愛梨木南晴夏をちょっと思い出した。

 

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