映画「最後の決闘裁判」を見る(感想)

最後の決闘裁判  THE LAST DUEL
2021年 アメリカ 153分
監督:リドリー・スコット
脚本:ベン・アフレックマット・デイモン、ニコール・ホロフセナー
原作:エリック・ジャイガー「決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル」
出演:ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)、ジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)、マルグリット(ジョディ・カマ―)、アランソン伯爵ピエール2世(ベン・アフレック)、シャルル6世(アレックス・ロウザー)、ニコル・ド・カルージュ(ジャンの母。ハリエット・ウォルター)、クリスピン(マートン・ソーカス)、ロバート・ティボヴィーユ卿(マルグリットの父。ナサニエル・パーカー)

★注意! 決闘の結果など、映画の内容に触れています。★

 

中世のフランスが舞台。騎士たちの男の戦いの映画かと思ったら、どうやら「羅生門」らしいと聞いて、それなら、男女の愛憎が入り混じった愛欲の人間ドラマなのかと思ったら、性犯罪を巡る現代的な女性目線の映画だった。
暗い映画だよと見た人から聞いていたので覚悟して見たのだが、見応えは充分あった。鎧兜をまとっての決闘シーンは迫力があり、中世の衣装や城の内外など、重厚な画面を楽しめた。

騎士カルージュの妻マルグリットが、従騎士ル・グリに強姦されたと夫に告げ、夫は国王に訴えて裁判が行われる。しかし、裁判では決着がつかず、男二人が決闘することになるという話。

ジャン・ド・カルージュは、生まれは高貴で強くて勇敢な騎士だが、芸術や文学には疎く、女性の扱いに慣れていない武骨な男だ。一方、従騎士ジャック・ル・グリは、貧しい境遇からのし上がってきた男、聖職者を目指していたためラテン語を解し、芸術や文学に詳しく、男前で女性にもてる。一帯の領主である伯爵ピエールは、田舎者のジャンを嫌い、スマートで洗練されたジャックがお気に入りである。戦闘でジャンはジャックの命を救い、二人は友人同士だったが、ピエールがジャックを厚遇し、ジャンのものになるはずだった土地を与え、ジャンが父の死後受け継ぐはずだったカルージュ家の役職にジャックを任命する。そうしたことが重なり、事件が起こる前から二人の男の間には亀裂が生じていた。

映画では、まずジャンの視点から、ついでジャックの視点から、最後にマルグリットの視点から、事件前後のそれぞれの事情と事件の場面(ここは当事者の二人によるもの)が描かれ、後半は、裁判と決闘のシーンとなる。
愛する妻の名誉を守るため卑怯な仇敵と戦う騎士というクラシックな男気の映画を期待すると違うし、三人の男女が違うことを言い張って真実は藪の中に、というのとも違う。
羅生門」では、3人の言うことが明らかに食い違っていて、幽霊も嘘をつくのかと驚いたものだ。だが、この映画では問題となる一件について、夫のジャンはその場にいないし、当事者の二人の言うことは大筋では矛盾していない。ジャックが襲ってきたとき、ジャック目線では、マルグリットは助けを求めて人の名(使用人はいないはずなので侍女の名ではないと思うのだが誰の名だったか未確認)を1回だけ呼ぶが、マルグリット目線では何度も叫ぶ。マルグリットがジャンに告白したとき、ジャン目線ではすぐマルグリットを抱きしめるが、マルグリット目線ではジャンはそうはしない。ほかにもあったと思うが、共通場面については、語る側が無意識にせよ意識しているにせよ自分や相手の言動のちょっとした部分に違いがあると言った感じである。

決闘で優勢になったジャンは、ジャックに真実を告げるよう迫るが、ジャックはあれは強姦ではないと言い張る。それは、嘘というよりはそう信じ切っているようにも見える。ジャンは、そういうことはわからないからマルグリットに対しての疑惑は消えない。男たちについて言えば、負けた方は悲惨だが、勝った側も晴れ晴れとはならない。決闘に勝ったのに喜べないヒーローというのは珍しい。磔を免れ、息子(ジャックの子である可能性大である)を育てて長生きしたマルグリットが結果的に勝者ということになるのだろうか。
女性は絶頂に達しないと妊娠しない、姦淫では妊娠しない、決闘に勝った方が真実を言っていると神が判断したとするなど、中世の理不尽な価値観に驚くが、性犯罪やセクハラ問題における男女の意見の食い違いは今も変わらずと思うと、男女間の深い溝をいまさらながら目の当たりにするような気がした。

 

www.20thcenturystudios.jp