「おーい でてこーい」がタイムリー

中学生の英語の教科書に短い物語が載っている。和田誠のイラストがついていて、人々が地面に空いた穴をのぞきこんでいる様子が描かれている。
英語のタイトルは、"Can anyone hear me?"。
娘が開いていた教科書のそのページを見たとき、私の頭の中で、なにかがこれに反応した。忘却の彼方から雲のようなものがもこもことわき上がってきて、「おーい でてこい」という日本語の題名となった。中学生のころ読みまくった星新一ショートショートのひとつである。
ある村が嵐に襲われる。一夜明けると、神社がなくなって地面に穴が空いていた。村人が穴に向かって叫んだ言葉が「おーい でてこーい」。穴からは反応なし。小石を投げてみた。やっぱり反応なし。小石が何かにぶつかる音も聞こえない。底なしの穴は話題となり、全国各地から見物客が訪れるようになる。そのうち実業家がやってきて村から穴を買い取り、ゴミ捨て場として商売を始める。みんなは、穴に要らなくなったものや処分に困ったものを次から次へと捨てていく。やがて、ぞっとするような展開が……。
というお話。1961年初版の「ボッコちゃん」(新潮社)に所収されているので、私が目にした時点ですでに出版から10年以上過ぎていたことになる。当時の私は、さほどこわいとは感じなかったように思う。何十年もたってからイラストを見ただけで思い出すほどには印象深かったわけだが、どちらかというと異次元空間の扱いの絶妙さに感じ入ったという方。
それからさらに30年ちょっと。娘は物語の終わり方に、ショックを受けている。「だって、これからどんどん……(略)ってことだよね。」今の中学生は、30年前の中学生よりも、環境汚染や廃棄物処理の問題をずっと身近に感じているのだ。出版から50年近く経った作品が、どんどんタイムリーになってきていることに驚く。

ボッコちゃん (新潮文庫)

ボッコちゃん (新潮文庫)