スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ

三池崇史監督による「スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ」を見た。
壇ノ浦での源平合戦から100年後。「根畑(ねばた)」の村では、村に隠されたといわれる埋蔵金をねらって平家の子孫(赤組)と源氏の子孫(白組)が対立していた。住人の多くが逃げ出し、無法地帯と化した村へ、ひとりのガンマン(伊藤英明)がやってくる。
これは、黒澤明監督の「用心棒」(1961年)を翻案して作られたマカロニ・ウェスタン「荒野の用心棒」(1964年)の続編「続・荒野の用心棒」(1966年)をベースにした、小道具も言語もめちゃくちゃな和製ウェスタンである。
村にふらりとやってきたよそ者が、対立する悪の2大陣営を噛み合わせて共倒れにするという基本的な筋だては、本作ではあまり明瞭ではない。両陣営の対立は放っておいても激化の傾向にあり、ガンマンは両陣営をけしかけることに関してさほど積極的ではない。そこに伝説の女ガンマン、ブラディ弁天と彼女の師である凄腕ガンマン、ピリンゴ(クエンティン・タランティーノ)の話が絡んできて、タランティーノが「キル・ビル」づくりにあたって意識したという「女ガンマン・皆殺しのメロディ」のような内容が加わる。
縦書きの手書きの漢字が並ぶクレジットロールは、東映や日活の往年の映画のオープニングのようでなつかしい。元踊り子の未亡人静(木村佳乃)は、日活アクションのナイトクラブのダンサーのような妖しげなダンスを披露し、どっちの陣営につくか迷う保安官(香川照之)は、「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラムのような二重人格をコミカルに演じてみせる。ガンマンが子どもに男の生き方を説くあたりでは突然「シェーン」のようになる。
リアクションに困るギャグがしばしばあり、日本人たちが喋る英語にはやはり最後まで違和感がつきまとう。トシオ(松重豊)が「ルリ子」と名前を呼ぶときだけ日本語の響きになるのだが、それを聞くと実にほっとする。
登場人物のほとんどが血まみれ泥まみれになり、拳銃とガトリング銃と日本刀を交えてぎとぎとの戦いを繰り広げる。義経伊勢谷友介)は日本刀で弾丸をはじき返し、ガンマンは拳銃を十手のように使って刀を受ける。
しかし、アクションシーンについてはそのけれん味ばかりに気をとられない方がよいと思う。ガトリング銃を乱射する清盛(佐藤浩市)、くるくると拳銃を回すガンマン、二丁拳銃を手に走るルリ子(桃井かおり)ほか俳優たちのアクションは、見ていてわくわくする。エースのジョーこと宍戸錠を始め、数々のスターたちに拳銃裁きを教えてきた拳銃殺陣師ビル横山の指導によるガンプレイは、見応えのあるものになっている。
スキヤキ・ウェスタンという命名はとてもいい。劇中でもスキヤキ好きのピリンゴが味付けや具にこだわったりもするのだが、映画自体は、スキヤキ本来の具だけでなく、なんかの揚げものとか他にもよくわからないものが、節操なくぶち込まれている感じがする。異物はよけて食べればいいのかもしれないが、入っているものを全部喰らわないと、この映画を味わったことにはならないような気がする。やんちゃぶりを堪能するにはそれなりの体力が必要だ。
ラストに流れる北島三郎の歌が心地よい。朗々とした演歌の大御所の声が日本語で「ジャンゴ」を歌い上げるのを聞けば、胃にたまった油分がすっきり流されていくような気分になる。

ジャンゴ~さすらい~

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続 荒野の用心棒 [DVD]

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