映画「荒野はつらいよ アリゾナより愛をこめて」を見る

荒野はつらいよ アリゾナより愛をこめて A MILLION WAYS TO DIE IN THE WEST
2014年 アメリカ 116分
監督:セス・マクファーレン
出演:アルバート・スターク(セス・マクファーレン)、アナ(シャーリーズ・セロン)、クリンチ(リーアム・ニーソン)、ルイーズ(アマンダ・セイフライド)、エドワード(ジョヴァンニ・リビシ)、フォイ(ニール・パトリック・ハリス)、ルース(サラ・シルヴァーマン)、ルイス(エヴァン・ジョーンズ)、ジョージ・スターク(アルバートの父。クリストファー・ヘイゲン)、コーチーズ(ウェス・studiスタディ)、リンカーン(ギルバート・ゴッドフリート)、ドク(クリストファー・ロイド)、ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)、カウボーイ(ユアン・マクレガー

かわいい見かけとは裏腹な過激なギャグで人気を博したそうな熊のぬいぐるみが主人公の映画「テッド」で知られるセス・マクファーレン監督・主演の西部劇コメディ。(「テッド」は観ていません。)
原題は直訳すると「西部における百万の死にざま」となり、邦題より断然こっちの方が格好いい。そしてこのタイトルの通り、主人公の気弱な羊飼いの青年アルバートは、西部開拓時代のアメリカがどんなにひどいところか、人の死に方は百万通りもあり、生き延びるのは本当に大変だ、西部はつらいよ、とその時代の人間とは思えぬ価値観でもって、おのれの生まれついた時代を呪い、ぼやき続ける。
下ネタとエロ・グロ場面満載という評判や「こんな汚い映画初めて見た」という知人のジェントルマンの感想を耳にしていたので、どれだけ見るに堪えないものが出てくるのかと腹を括って劇場に行ったのだが、さほどじゃなかったというか、肩すかしというか、これよりもっとえげつないものが出てくる映画は過去にいくらでもあったし、この程度で引いちゃだめだ、そんなにお上品になるな、日本人、と思った。(でも、ママ友や娘とは見に行かないけど。)
マカロニ・ウエスタンが、60年代くらいまでの古き良きアメリカ正統派西部劇に対する暴力的なアンチテーゼだとすれば、これは、下ネタと軽口による比較的平和的なアンチテーゼというか。
オープニングは、シネスコでモニュメント・ヴァレーの景観を延々と楽しめるし、クレジットのロゴもレトロ調だった(できれば、モニュメント・ヴァレーは空撮でなく、地上から撮ってほしかったが)。酒場のシーンの殴り合いは迫力があるし、パーティでみんながカントリーダンスをするシーンは楽しかった。他にも銃の手ほどきや馬ならぬ羊の群れに紛れての逃走など、西部劇でよく目にするような場面が多く見られ、下ネタやおちゃらけや多少えぐい部分もあるけど、基本的には、しっかり撮られていたと思う。
私の勝手な憶測だが、マクファーレンは、きっと西部劇が好きだ。だけど、正義のヒーローが悪い奴らをやっつける、まっストレートな西部劇をいまどき撮るのはちょっとなあというすかした現代感覚とかっこいいヒーローは柄じゃないという思いから、下ネタやアイロニーで煙に巻くという戦法に出たのじゃないだろうか。
不満なのは、うん○やエログロではなく、ちゃんとした撃ち合いシーンがないことだ。アルバートは平和主義で気弱な羊飼いなので、多少銃を扱えるようになっても、基本的には戦いを避けて逃げる。最後の決闘も凶悪なアウトローに勝つため、いろいろ工夫を凝らした展開となり、真っ向勝負とはいかない。銃を撃ちたがらない主人公は、それはそれで筋を通しているとも言えるが、西部劇ファンとしてはやはりそんなにすっきりはしない。
リーアム・二―ソンがよかった。彼が演じる西部の極悪ガンマンを見られてうれしかった。しかも、お尻を出して失神し、デイジーの花まで添えられる。あっぱれな役者ばかぶりにじんときた。
バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ジャンゴ」など他の映画のパロディも楽しかった。

○セリフ:「祭りでは、人が死ぬ。」“People die at the fair.”
アルバートは、アナとカウンティ・フェア(酪農物産市)に出かける。危険な西部では、祭りの写真撮影中にも人が死ぬ。焼け死んだ人を見て、アルバートが言うセリフだが、映画の中で何度となく繰り返され、最後はカメオ出演のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)が口にする。彼は、逃げる黒人奴隷の絵を標的にした射的ゲームの出店の主を撃ち殺してこういうのだった。