映画館で西部劇「駅馬車」「リオ・ブラボー」「ワイルドバンチ」を見る

早稲田松竹ラシックスVol.91ウエスタン・カーニバル」で「ワイルドバンチ」と「リオ・ブラボー」を、シネマート新宿の「ジョン・フォード監督生誕120年!」で「駅馬車」を見た。
いずれも名画座やビデオ・DVDなどで過去に何度も見ている映画だが、ここ最近は見ていなかった。映画を見るというよりは、久方ぶりに旧知の友と再会を果たしたような感覚だった。
同じ映画を繰り返し見る場合、見るときの年齢や境遇などによって印象が違ってくる。よく知っている映画でも忘れている部分はあるし、大人になったり、親になったり、仕事をしたりやめたりして初めて気がつくことや、若いときとは見方が違ってくる部分もある。これは長年映画を見ている者にとって大きな楽しみのひとつであり、歳を取るのも悪くないと思えることのひとつでもある。

●「駅馬車」STAGECOACH (1939年 アメリカ)
久しぶりのうえ、全編通して映画館で見るのは初めて。30年くらい前にフィルムセンターのジョン・フォード特集で見たが、仕事帰りで途中からしか見られなかった。改めて、大画面で駅馬車が疾走するシーンの迫力はすごいと思った。
出発点のトントと二つの中継所、終点のローズバーグと駅馬車は4箇所に停車するのだが、それぞれの場所でいろいろあって、いろいろよかった。
駅馬車の面々は、みな個性的でいいのだが、今見ると、飲んだくれ医者のブーン(トマス・ミッチェル)と、保安官のカーリー(ジョージ・バンクリフト)がよかった。小男の酒のセールスマン、ピーコック(ドナルド・ミーク)も味を出して、絶妙なバランスを保っていると思った。
特にカーリーは、護衛としての力量もあるが、なによりスタッフとしてかなり有能、非常時にてきぱきと場を仕切って判断を下す。ああいう人が一人現場にいると、実に心強い。リンゴーを、保安官としての立場からだけでなく、旧友の息子として気に掛ける心遣いには今回もぐっときた。
リンゴー・キッド(ジョン・ウェイン)はお尋ね者だが、人好きのする若者で、今見ると一番あまりものを考えていないように見える。浅はかというのでなく、無邪気でストレートだ。彼に比べると、ダラス(クレア・トレヴァ)は思慮深い苦労人という感じ。
駅馬車のシーンもよかったが、ローズバーグに着いてからもおもしろく見た。リンゴーが父と兄の仇であるプラマー三兄弟に決闘を挑む。ダラスもブーンもカーリーも、おちゃらけ役だった御者のバック(アンディ・ディバイン)でさえも真面目になり、誰もがリンゴーの身を案じてこれを止めようとするし、三対一で断然有利なプラマー兄弟も心なしか不安そうである。当のリンゴーだけがほとんど迷いがない。決闘の前に、ダラスを送るといって、二人は連れ立って街を歩く。今回思ったのは、これは、女連れの道行きではないかということだ。が、男はほぼ勝つ気でいるので、悲壮な思いを胸に抱いているのは女の方である。と考えると興味深かった。

●「リオ・ブラボー」 RIO BRAVO (1959年 アメリカ)
全編を通してみるのはたぶん30年ぶりくらいだが、この映画はあまり印象が変わらない。が、フェザース(アンジー・ディキンソン)とチャンス(ジョン・ウェイン)のシーンになると、軽快な西部劇活劇が、一気に都会的なソフィシケイテッド・ラブ・コメディの様相を呈してくるという印象はあったのだが、これほどまでとは思わなかった。完全にディキンソン主演のラブ・ストーリーみたくなっている。
保安官事務所の玄関先のサイドウォークで、チャンスとデュード(ディーン・マーチン)とコロラド(リッキー・ネルソン)が話しているところに「皆殺しの唄」が流れてくるシーンや、植木鉢のシーンや、デュードが「皆殺しの唄」を聞いて酒を瓶に戻して「あの曲を聞いたら指の震えが止まったぜ。」というシーンや、人質を歩かせる人質交換シーンが大変好きである。

●「ワイルドバンチ」THE WIRLD BUNCH (1969年 アメリカ)
中学生か高校生の頃に初めてテレビで見たが、そのときの印象は薄い。なんとなくパイク(ウィリアム・ホールデン)がかっこいいと思った程度。その後学生時代に東京に出てきて二番館で何度か見た。ライル(ウォーレン・オーツ)がセクシーで白いシャツがたまらないと感じたり、テクター(ベン・ジョンソン)がやっぱ男っぽくていいなと思ったり、ソーントン(ロバート・ライアン)が最後に一人で座っている姿に胸が痛んだりした。ラストの銃撃シーンの迫力とともに、その前の有名すぎる“Let’s go!” “Why not?”のやり取りと西部劇には珍しい四人の男の徒歩の道行きはずっと好きだ。
1997年のリバイバルのときは、子育て真っ最中だったが、なんとか劇場に出かけて行って見た。それまでと違ってボーグナインに一番感情移入した。聞くと、夫や友人らもそういうのだった。クレジットで男たちが大笑いするカットが次々に出てくるのにも、涙腺が緩んでしまった。
最後に見たのがそれで、早17年経ってしまった。今回は、やはりダッチ(ボーグナイン)寄りだったのだが、パイク(ホールデン)とソーントン(ロバート・ライアン)との関係がなかなか興味深かった。ごく短い回想シーンの挿入で、二人がかつて仲間だったこと、追われる身で、ソーントンがやばいから逃げようと言っているのに、パイクは女とベッドにいて大丈夫大丈夫と高をくくっているとこに襲撃に遭って、バイクは逃げおおせて、ソーントンだけ捕まって投獄の憂き目に遭う、という経過が示されるのはすごい。ソーントンが、ホールデンを追うことに執念を燃やすのもよくわかる。最後、すべてが終わって、瓦礫の壁の前にソーントンがションボリと座り込んでいる印象だったが、今回見ると、ちょっと微笑んでいるのだ。パイクとの確執やその死を通り越して、友であったころの彼を思い、にんまりしたのかと思った。彼を新たな活動に誘う、じいさんのサイクス(エドモンド・オブライエン)にも存在感を感じた。

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