「魍魎の匣」

映画「魍魎の匣」(もうりょうのはこ)を見た。

古書店主にして陰陽師京極堂こと中禅寺秋彦堤真一)が奇怪な事件に挑むシリーズの映画化第2弾である。
少女バラバラ連続殺人事件に、元女優の娘の殺人未遂事件、箱を崇める怪しげな新興宗教、不気味な科学研究所で行われている謎の実験などが絡む。
1952年の日本。私立探偵榎木津(阿部寛)は、元女優の陽子(黒木瞳)から、失踪した娘加菜子(寺島咲)の捜査を依頼される。加菜子は、友人の頼子(谷村美月)と出歩いていたのだったが、夜の駅で何者かによってホームから突き落とされ、瀕死の重傷を負ってしまう。陽子は、治療のため加菜子を美馬坂医学研究所と呼ばれる施設へ移送させる。そこは、巨大な箱の形をしていることから「匣館」と呼ばれる異様な雰囲気の建物だった。
一方、世間では、切断された少女の手足が箱詰めにされて発見されるという連続殺人事件が起こっていた。幻想作家の関口(椎名桔平)が、別名で小説を掲載しているカストリ雑誌「月刊実録犯罪」の編集部で、新たに箱詰めの少女の腕が発見される。関口は、編集部の鳥口(マギー)、及び京極堂の妹敦子(田中麗奈)とともに事件を追うことに。失踪した少女たちが、箱を崇める新興宗教「深秘御筥教(じんぴおんばこきょう)」の信者リストに載っていることをつきとめた彼らは、教団に乗り込んで真相を究明するため、京極堂に話をもちかける。
加菜子を殺そうとした犯人捜しを行う青木刑事(堀部圭亮)は、謹慎中の先輩木場(宮迫博之)を呼び出す。木場は、陽子(=女優美波絹子)の熱烈な ファンだった。木場が、陽子と初めて会うシーン、あこがれのスターを目の当たりにしたファンの熱い思いを抱えつつ、刑事としてぶっきらぼうに接するところ は、なかなかよい。
原作を読んだのはだいぶ前のことで、細かいことはすっかり忘れてしまったの だが、連続殺人事件の犯人は誰かというメインの謎の他に、加菜子をホームから線路に突き落としたのは誰か、重体のはずの加菜子はどのようにして「匣館」か ら運び出されたか、という二つの謎があったことを覚えている。
映画化に際して、謎は最初のひとつに絞られた。あとの二つ、加菜子殺しについてはごくあっさりと処理されて、原作にあった犯人の複雑な思いはあまり詳しく語られないし、匣館からの加菜子の蒸発に至ってはそうした設定自体消えてしまっている。
つまり、原作において京極堂が本領を発揮した謎解きが、映画ではふたつ消滅したことになる。
さらに、一つ目のメインの謎についても、犯人を最初に知るのは、榎木津である。彼は、これまでどちらかというとエキセントリックな面が強調されていたように思う。理論立てた推理で犯人を当てる名探偵ではなく、霊感で人の過去を読み犯人 を当てる霊感探偵と言う設定はなかなか愉快だと思うのだが、今回の榎木津はかっこいい。
で、京極堂の見せ場は、教団の教祖らをやりこめるシーンと、匣館でのクライマックスということになった。前者は、いくぶんコミカルに、ステップを踏んでインチキ教祖らに迫る京極堂が見られる。クライマックスでは、京極堂が、かつて軍でいっしょに仕事をしたことのある天才科学者美馬坂教授に迫る。が、ここで目立つのは匣館。京極堂と関口、榎木津と敦子と青木、そして木場らが、それぞれに匣館に侵入し上の階を目指すのだが、匣館は巨大な迷路のようで、彼らは、加菜子や連続殺人犯のもとに、容易にはたどりつけない。
みっしりと中身の詰まった箱。箱という主題は、一貫していると思う。箱に取り憑かれた男、新進の怪奇小説家久保俊公を、意外な配役ながら宮藤官九郎が好演していると思う。
なんだかんだいって仲のよい三人の男たち、京極堂、榎木津、関口が、京極堂の家に集まって、べらべらしゃべっている様子がいい。何回かあるが、どのシーンも好きだ。
敦子役の田中麗奈はじめ、加奈子と頼子の二人の少女、ちょっとしか出ない京極堂、関口の両夫人(篠原涼子清水美砂)など、女たちも好感が持てる。

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)