本格科学冒険映画「20世紀少年」を見る

*あらすじを紹介しているので多少のネタバレあります。
1997年。元ロックシンガーのケンヂ(唐沢寿明)は、コンビニの店長をしながら、失踪した姉の娘カンナと年老いた母(石井トミコ)とともに暮らしていた。
ケンヂは、小学校の同窓会で、世間を騒がせている怪しげな教団と、子ども時代に自分たちがやっていた遊びとの関連性を指摘される。人差し指を立てた手が目から出ている図柄の教団のマークは、昔、ケンヂたちが使っていたものに酷似していた。謎の教祖「ともだち」は、彼等の「秘密基地」にいた誰かなのか。仲間の一人ドンキー(生瀬勝久)の死の知らせが届き、やがて、ケンヂは、国内外で次々に勃発する細菌テロや爆破事件が、昔、自分が遊びで書いた「よげんの書」の通りに起こっていることに気づく。
政党とつながりを持った教団は、日増しに強大な力を持つようになっていく。ケンヂとかつての仲間たち(常磐貴子、石塚英彦香川照之佐々木蔵之介宇梶剛士らが演じている)は、世界を救うために団結し、「ともだち」に対抗しようとする。やがて、「よげんの書」が大惨事を預言する2000年12月31日が訪れる。
原作の漫画は、連載当初にほんのちょっと読んだだけなので重要な展開はほとんど知らない。ただ、原作者とは同年代なので、1969年の小学生の様子はほんとによくわかる。秘密基地をつくったのは男子だけではない。わたしも、女子だけで原っぱの草をかき分けて秘密の場所を作った記憶があるし、やっぱりなんか団を結成して、共通のマークはなかったけど、金紙や銀紙を貼ったメンバーの証のバッジなんかを作ってみんなで持っていた記憶もある。
普通に生活しているおじさんたちの前に、いきなり少年時代の冒険ごっこが現実となって現れ、いい年こいて世界を救うために立ち上がる、という話とくれば、まずは痛快さを味わいたいところだが、これがなかなかそうはいかない。
前半、不穏な空気がじわじわとせまり、ケンヂが、どうやら人類の滅亡を招く発端は自分にあるらしいと気づくまでの展開はかなりおもしろい。唐沢のケンヂは、いい。
しかし、ケンヂの仲間たちが日常から冒険の世界へ足を踏み入れる、その移行は少々ぎこちない。仲間の一人であるオッチョ(豊川悦司)は、タイで危険な仕事を請け負っている様子が紹介され、冒険活劇の世界の人であることが示される。彼が帰国し、ケンヂたちと再会し、昔馴染みであることで、あっちとこっちの世界の橋渡しになるかというと、そうでもない。オッチョはかっこいいが、それだけに、浮いている。少年の頃とすっかり面変わりしてしまったオッチョとケンヂの間に信頼関係が復活するには、それなりのプロセスが必要な気がする。そして、これまでの生活を捨てていくことに対して彼等が味わうはずの喪失感や、同時にきっとあるはずの高揚感のようなものが、ケンヂ以外のメンバーからはあまり感じ取れない。
しかも、ケンヂが決心し、仲間が集まった直後から、話はとびとびになり、瞬く間に歳月は流れてしまう。これからいよいよ冒険、という段になって大幅な省略が始まるのだ。彼等が追われる身となって地下生活をしながら敵との戦いに備える様子はぱぱっと流されるだけで、リアルな状況はまったく語られない。2000年の大晦日が来るまで、ケンヂ一派は何をしていたのか、画面を見る限りじゃわからない。
三部作とはいえ、冒険に旅立つところで終わらせず第一部で「血の大晦日」(というらしい)まで描くという製作側の思いはありがたいし、尺の問題はかなり大きいだろう。が、冒険に入ってからの彼等の姿をもうちょっと細かく追ってほしかった気がする。
冒頭の2015年の刑務所の様子からして、今のところ、物語には悲壮感の方が大きく漂っているように思う。「本格科学冒険映画」として、この先、わくわくさせてくれる展開があることを期待する。

20世紀少年―本格科学冒険漫画 (1) (ビッグコミックス)

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