マカロニ・ウエスタンのイベントと本「イタリア人の拳銃ごっこ マカロニ・ウエスタン物語」(二階堂卓也著)

先日、知人に誘われてマカロニ・ウエスタンのイベント「マカロニよ、永遠に… マカロニ・ウェスタン大忘年会!」に行った。本書の出版記念イベントということで、会場ではマカロニ・ウエスタンの絵はがきと「怒りの荒野」のチラシがついた上に割引価格で売っていた。
マカロニ・ウエスタンは、中学時代(1970年代)、男子の間でだいぶ盛り上がっていた。テレビでもたくさん放映されて、私も彼等の影響を受けてずいぶん見た。イーストウッドは偉そうなとこが当時はあまり好感がもてなくて、どちらかというとジュリアーノ・ジェンマの方が好きだったのだが、フランコ・ネロの「続・荒野の用心棒」を見たときには心臓をねらい打ちされたような衝撃を受けてジャンゴに夢中になってしまった。それを見かねたかどうかは知らないが、父親に「こっちを見ろ」といわれて「シェーン」や「リオ・ブラボー」を見せられ、徐々に好みはアメリカ映画の方に向いていった。が、ジャンゴはやっぱり大好きだし、マカロニの音楽は今でもひどく心になじむ。
という程度のファンで参加したのだが、かなり濃いイベントだった。のっけから、見たどころか聞いたこともない作品群の予告編上映とそのDVD販売の可能性について(蔵臼金助氏)とか、スペインのアルメリア地方(マカロニ・ウエスタンの聖地らしい)の映画ロケ地探訪の詳細なレポート(Garringo氏)とか、ガンプレイショーとか(どの作品で誰が演った撃ち方という説明つきで披露、プレイヤーはトルネード吉田氏と特別出演でデューク廣井氏)、ガン講座(時間が遅くなってしまいお暇したので残念ながら聞かずじまい)とか、とにかくすごい内容で、話し手側聞き手側双方のマカロニに対する深い思いが感じられた。
本書を担当したフィルムアート社のスタッフの方が、原稿を読んでとにかく愛が感じられたと仰っていた。細かい文字がびっしり詰まってそれでもまだ書き足りない感じが見受けられ、写真も豊富だ。
「荒野の用心棒」の公開がイタリア本国と世界にどれほど大きなセンセーションを巻き起こしたかというところから始まり、「用心棒」の盗作疑惑で日本ともめた経緯が述べられる第1章で、マカロニ・ウエスタンの記憶があざやかに蘇り、興味を掻きたてられた。
イタリア映画界においては、作り手は大きく二つに分けられるという。一つはチネアスタと呼ばれるいわゆる一流の作家たち(当時だとロッセリーニヴィスコンティフェリーニ、デ・シーカなど)で、もう一方が、古代ギリシャやローマを舞台とする史劇やヘラクレスなどが出てくる怪力英雄譚(ペプルム)、あるいはコメディなど大衆娯楽作品を専門とするチネマトグラファーロと呼ばれる人たちである。「荒野の用心棒」はチネマトグラファーロによる作品が、チネアスタらの作品を押さえて戦後の興収成績トップに躍り出るという快挙を成し遂げたという。
「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続・荒野の用心棒」などのヒットのあと、二匹目のドジョウどころか、何十匹(何百匹?)ものドジョウを狙ってイタリアで山のように西部劇がつくられたこと、後にはコメディやメキシコ革命絡みの作品も出てきたこと、監督のレオーネとコルブッチ、二人のセルジオがそれぞれ違った道に進んだこと、フランコ・ネロのその後の動向など、マカロニ・ウエスタンに関して知らなかったことがいっぱい載っている。未公開作品についてていねいに紹介されていて、読めば見たくもなるのだが、娯楽映画というもの自体見る端から忘れていくように、読む端からタイトルも内容も忘れていってしまう(映画と違って本だからいつでもまたページを戻って確認できるという強みはあるが)。
著者の辛口な批判に対しては割と賛否両論らしい。レオーネのその後についてとか、たとえば「夕陽のギャングたち」など記憶がおぼろげながら面白かった印象があるので、たしかに手厳しいと思うところもあったが、それはそれで楽しく読んだ。
著者のペンネームは、小林旭主演の日活アクション映画「銀座旋風児」(ぎんざマイトガイ)シリーズの主人公の名前であり、本の帯にあったコピー「撃てば監獄、撃たれりゃ地獄」は、どう見ても石井輝男監督のギャング映画「暗黒街の顔役・十一人のギャング」で高倉健が言った名台詞が元になっているとしか思えない。(会場でニ階堂氏にお会いしサインを頂く際に厚かましくも確認させて頂いたところ、コピーは出版側によるものらしいが、出所はやはり「十一人のギャング」らしい。)ということで、マカロニ・ウエスタンだけでなく、日本映画やアメリカ映画についての見識もどこかで披露していただきたいものだと思った。(和製ウエスタンについては本書にも項が設けられているが、本場アメリカの西部劇の内容についてのまとまった記述はあまり見られない。)
マカロニ限定ではない西部劇ファンとしては、マカロニについての膨大な記述もさることながら、フランコ・ネロが、ジョン・ウェインに会ったときのことについて語った言葉も印象に残った。
「『駅馬車』や『捜索者』の偉大なる”デューク”は西部劇のコツを二つ伝授してくれた。一つは帽子を被っている時と脱いだ時の二つの顔を持てということ。もう一つはバカでかい馬に絶対乗るなということだった。」(本書の引用からさらに一部を引用)

イタリア人の拳銃ごっこ―マカロニ・ウェスタン物語

イタリア人の拳銃ごっこ―マカロニ・ウェスタン物語