映画「あぜみちジャンピンッ!」を見る

あぜみちジャンピンッ!
2009年 日本 85分
監督:西川文恵
出演:高野優紀(大場はるか)、鈴木麗奈(普天間みさき)、美希(梅本静香)、野梨子(上杉まゆみ)、ジュリ(池田光咲)、高野志摩子(渡辺真起子)、明日香(山中智恵)、ろう学校の先生(遠藤雅)、ろう学校の先生(天川紗織)、麗奈の母(小林寧子)


ろうあの中学生の少女が、ダンスチームに入って仲間と共に大会に出るまでの物語。
耳が不自由でろう学校に通っている優紀は、「RIP☆GIRLS」というダンサーのユニットに憧れ、家で密かにDVDを見てダンスの練習をしていた。
ある日、優紀は少女ばかりのダンスチーム「Jumping girls」が練習しているところをみかける。優紀に気づいたリーダーの麗奈は、手話で優紀に話しかけ、彼女をダンスに誘う。優紀は、音の振動と、他のメンバーの合図や動きを頼りにダンスを始めるのだった。


話の本筋ではないのだが、気になったのは、優紀と母の危うい親子関係である。
優紀は、母親の志摩子と二人で暮らしている。志摩子は、仕事に忙しく、娘との生活を支えるのに精一杯で、かなり無理をしている感じがする。娘と話す時間はほとんどないが、でも、自分は娘のことをわかっているし、まあこれでいいと思っているように見受けられる。優紀は、この状態をしかたないと思っていて、ダンスをやっていることを母に言えずにいる。母娘は、互いの寝顔を愛おしそうに見やりはするが、二人が会話をするシーンはひとつもない。いくら相手を思いやっていても、話さなきゃだめだ、二人とも相手をたたき起こして早く話をしてくれ!と歯がゆく思って見ていると、もうひとりの母親が登場する。
優紀が麗奈の家を訪れたときに出てくる麗奈の母親である。そこはかとないやさしさを漂わせている彼女は、その唯一の登場シーンで、手話で優紀と会話を交わす。これは志摩子が一度も画面上でなしえなかったことである。
志摩子がダンス大会の会場に駆けつけ、優紀のダンスを見ることで、状況は変わっていくかのような暗示がなされるのだが、これも表現としてはだいぶ控え目に思えた。
渡辺真起子の好演ゆえにそうした志摩子の必死の生き方に息苦しささえ感じてしまうのだが、もろもろの事情を抱えた大人とは対照的に、子どもたちは自由でストレートである。


二人の娘を育てた経験から思うに、中学生女子というのは、人間関係で最もごたごたする連中である。優紀は、ダンスに夢中になるに連れて、麗奈と仲良くなり、ろう学校の友達と疎遠になっていく。しかし、麗奈が足を負傷してしまい、新人の優紀が麗奈の代わりにセンターになると、メンバーから不満の声が出始める。麗奈不在のチームでは、美希という強気の子を筆頭に優紀に対する風当たりが強くなり、いじめに発展していくかのような怪しい雲行きになってしまう。
だが、田んぼがそうしたごたごたを解消していく。
2008年の夏に新潟で撮影されたというこの映画では、随所に美しい田園風景が広がっている。青々とした田んぼが少女たちのみずみずしさを引き立てる。彼女らはどこまでも続くあぜ道を延々と走る。ひと昔前の青春ドラマなら、男子が田んぼで泥だらけになって殴り合って男の友情が芽生えるといったところなんだろうが、ここでは女子中学生が、田んぼにはまって泥だらけになってきゃあきゃあはしゃぎながら友情を育んでいくのであった。


現在、ポレポレ東中野で上映中!(8月19日まで)